第25話 決定的な証拠

ブラム城の地下牢で発見された遥のペンダントと、将吾の凶器。

それは、将吾の犯行を決定づける、動かぬ証拠だった。

拓海が慎重に回収した凶器の先端に付着した赤い染みは、簡易的な試薬を用いた結果、血液反応を示した。

これで、将吾の犯行は揺るがない。

私たちは、すぐに日本の警察に連絡を取るべきだと考えた。


ホテルに戻ると、私たちは担任の先生に、これまでの調査結果をすべて報告した。

遥の首筋の傷が偽装されたものであること、将吾のアリバイが崩れたこと、そして地下牢から凶器とペンダントが発見されたこと。

先生は、私たちの報告に衝撃を受け、顔色を失っていた。


「ま、まさか…将吾くんが…」


先生は震える声で呟き、拓海が撮影した証拠写真と、凶器の形状が変化する動画を食い入るように見つめた。

特に、あのブックマークが「影の牙」へと変形する瞬間を目にした時、先生は言葉を失っていた。


「この…このブックマークが、こんな仕掛けになっていたなんて…」


先生は、将吾が常に持ち歩いていた古書に挟まれていたブックマークが、まさか殺人事件の凶器だとは夢にも思わなかっただろう。

彼の目に、将吾に対する深い失望と、生徒たちの安全を守れなかったことへの自責の念が浮かんでいるのが見えた。


その時、イアナが静かに口を開いた。


「ルーマニアの伝承では、悪しき力に魅入られた者は、自らの行いを正当化するために、様々な『徴(しるし)』を残すと言われています。あの凶器も、遥さんのペンダントも、将吾さんが自らの『儀式』を完成させるために必要とした、『徴』だったのかもしれません」


イアナの言葉は、先生の困惑をさらに深めたが、私には将吾の行動が、もはや通常の犯罪者のそれではないことを示唆しているように思えた。

彼は、自らを「ドラキュラの末裔」と信じ込み、遥の殺害を「血の儀式」として捉えていたのだ。


先生はすぐに、日本の旅行会社を通じて、ルーマニア警察に改めて事件の再捜査を要請した。

私たちの集めた証拠はあまりにも明確であり、ルーマニア警察も無視することはできなかった。

日本の警察も、この異常な事件に重大な関心を示し、国際的な捜査協力の要請がされることになった。


数時間後、ルーマニア警察がホテルに現れた。

彼らは、私たちの証拠を見て、ようやく事態の深刻さを理解したようだった。

特に、拓海が提供した将吾のスマホのWi-Fiログと、ホテルの防犯カメラの映像は、将吾のアリバイを完全に崩す決定的なものだった。

そして、地下牢から回収された凶器とペンダントは、彼の犯行の動機と、異常な心理状態を物語っていた。


「佐々木将吾を、逮捕する」


警察官の一人が、低い声でそう告げた。

私たち生徒が滞在するホテルの一室に、警察官が足を踏み入れた。

将吾は、何も言わずに警察官の指示に従った。

彼の顔には、諦めや後悔の表情はなく、ただどこか遠くを見つめるような、虚ろな光が宿っているだけだった。

まるで、自分の行動が、現実の世界で起こったことではないかのように。


将吾は、連行されていく際、私の方を一瞥した。

その瞳は、暗く、底知れない闇を宿しているように見えた。

それは、かつて遥を嘲笑した憎悪の瞳とは異なり、まるで彼自身が、本当に何か得体の知れないものに取り憑かれてしまったかのような、不気味な輝きを放っていた。


事件は解決したかに見えた。

しかし、私には、まだ拭えない疑問があった。

将吾の心を蝕んだ「闇」の正体。

「ナイトロード」という謎の人物。

この事件の本当の黒幕は、まだ姿を現していない。

私たちは、真実の扉をこじ開けたばかりなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る