第20話 アリバイの再検証
将吾の古書に隠された凶器の先端に付着した微かな赤い染み。
それは、遥の首筋の傷が偽装されたものであるという私の確信を強めた。
しかし、将吾の犯行を決定づけるには、彼が事件現場にいたという動かぬ証拠が必要だった。
警察が将吾のアリバイをまともに捜査しない以上、私たちでやるしかなかった。
「拓海、将吾の事件当日のアリバイを、もう一度徹底的に調べてほしい。彼のSNS投稿と、ホテルの防犯カメラの記録、もし手に入るなら外部の監視カメラの映像も」
私は拓海に、改めて詳細な調査を依頼した。
彼は、すでに警察が諦めかけている領域にまで踏み込み、あらゆるデジタル情報を駆使して将吾の行動を追跡し始めた。
「わかった。ホテルのWi-Fiログ、将吾のスマホの位置情報サービス、あとは…」
拓海は、キーボードを叩きながら、次々と可能な検証方法を口にした。
ホテル側は非協力的だったが、拓海は持ち前のハッキング技術と情報収集能力で、必要なデータの一部を秘密裏に入手することに成功した。
数時間後、拓海は眉間に深い皺を寄せて、私の前に現れた。
「美羽、決定的な証拠が見つかった」
拓海が差し出した画面には、ホテルの廊下の防犯カメラ映像が映し出されていた。
日付は事件当日の未明、午前3時半頃。
そこに、将吾の姿がはっきりと捉えられていた。
彼は、私服姿で、普段持ち歩いている分厚い古書を手に、足早に廊下を歩いていく。
そして、非常階段へと続く扉を開けて、カメラの視界から消えた。
「将吾は、この時、ホテルの外に出たんだ…」
私の口から、絞り出すような声が出た。
将吾は、警察に自室で寝ていたと証言していた。
しかし、この映像は、彼の証言が真っ赤な嘘であることを明確に示していた。
非常階段は、ホテルの裏口に繋がっており、そこから容易に外へ出ることができる。
さらに拓海は、将吾のスマホのWi-Fi接続履歴も表示させた。
「将吾のスマホは、この映像が撮られる直前まで、ホテルのWi-Fiに接続されていた。しかし、この時間以降、一度接続が途切れて、その後、ブラム城の旧管理棟のネットワークに接続されている」
拓海の言葉に、私の頭の中で全ての点が線となって繋がった。
将吾は、夜中にホテルを抜け出し、ブラム城の旧管理棟へ向かったのだ。
そこで、遥を殺害し、その犯行を「吸血鬼の仕業」に見せかける偽装工作を行ったに違いない。
「そして、遥さんの遺体が発見される少し前に、再びホテルのWi-Fiに接続されている。つまり、犯行を終えて、ホテルに戻ってきたんだ」
拓海の言葉に、私は震えた。将吾は、完璧なアリバイを装い、私たちを欺こうとしていたのだ。
しかし、デジタルの痕跡は、彼の巧妙な嘘を暴き出していた。
「将吾は、遥さんを計画的に殺害した。そして、その犯行を隠蔽するために、あらゆる手を尽くしたんだ…」
私の言葉に、拓海は深く頷いた。
その時、イアナが静かに私の隣に立っていた。
彼女は、モニターに映し出された将吾の姿をじっと見つめている。
「彼が、本当に…」
イアナの声は震えていた。
彼女は、将吾がルーマニアの伝承に異常なほど執着していたことを知っている。
だからこそ、彼の犯行が、彼女の信じる伝説とは異なる「人間の悪意」から生まれたものであることに、大きなショックを受けているようだった。
「これで、将吾の犯行は揺るがない。残るは、なぜ彼がそこまで遥さんを憎み、殺害に及んだのか。そして、あの『ナイトロード』という存在の正体だ」
私の言葉に、拓海は強く頷いた。
私たちは、真犯人を追い詰めるため、さらなる証拠の収集を誓った。
遥の無念を晴らすために、そして、この事件の全ての闇を白日の下に晒すために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます