第21話 動機の手がかり

将吾のアリバイが崩れ、凶器に付着した血痕が示唆された今、彼の犯行はもはや疑いようがなかった。

しかし、私にはまだ、将吾をそこまで駆り立てた決定的な動機が見えていなかった。

なぜ、彼は遥を憎み、殺害にまで及んだのか。

その答えを探すべく、私は遥のSNSアカウントを再び詳しく分析し始めた。


遥の投稿は、いつも明るく、ポジティブな言葉で溢れていた。

ルーマニアでの美しい景色、美味しい食事、そして友人たちとの楽しいひととき。

彼女は、将吾の不穏な投稿に対しても、あくまで「面白いネタ」として捉え、軽い気持ちでからかっていたように見える。

しかし、その「軽さ」こそが、将吾にとっては致命的なものだったのかもしれない。


拓海が、将吾と遥のSNSでのやり取りを、感情分析ツールにかけてくれた。

その結果は、驚くべきものだった。

遥の投稿は、表面的には悪意のない「からかい」に見えるが、将吾の投稿に対するネガティブな感情(嘲笑、軽蔑)のスコアが非常に高く出ていたのだ。

そして、それに対する将吾の返信は、抑圧された怒りと、憎悪の感情を強く示唆していた。


「遥さんは、無意識のうちに将吾くんの逆鱗に触れていたのかもしれない…」


私の言葉に、拓海は頷いた。


「将吾にとって、自分の『ドラキュラの末裔』というアイデンティティは、彼の存在意義そのものだった。遥さんの投稿は、その唯一の拠り所を、まるで子供の遊びのように嘲笑したんだ。将吾は、その屈辱に耐えられなかったんだと思う」


拓海の言葉は、将吾の孤独な過去と重なり、私に彼の歪んだ心理を深く理解させた。

将吾は、現実世界で居場所を見つけられない中で、自分を「特別な存在」として認識することで、かろうじて精神の均衡を保っていたのだろう。

遥の無邪気なからかいは、彼にとって、その脆弱な精神の最後の砦を破壊する行為だったに違いない。


さらに、私はイアナに、ルーマニアの伝承における「侮辱」や「屈辱」が、どのように受け止められるかを尋ねた。


「ルーマニアには、古くから**『名誉』**を重んじる文化があります。特に、自己の血筋や出自に対する侮辱は、時に命を懸けてでも晴らさなければならないほどの、重大な罪と見なされることがあります」


イアナの言葉は、将吾の動機に、さらに深みを与えた。

彼が「ドラキュラの末裔」という架空のアイデンティティに、ルーマニアの「名誉」という概念を重ね合わせていたとしたら、遥の嘲笑は、彼にとって耐え難いほどの屈辱だっただろう。

そして、その屈辱を晴らすために、彼は「血の儀式」という形で、遥の命を奪うことを選んだのかもしれない。


「将吾は、遥さんを殺すことで、自分の『名誉』を取り戻し、そして自分の『ドラキュラの末裔』という妄想を、現実のものにしようとしたんだ…」


私の推理は、将吾の動機に確信を与えた。

彼の犯行は、単なる衝動的な怒りからではなく、彼の深い孤独と、歪んだ自尊心、そしてそれに付け込んだ「ナイトロード」という存在の洗脳によって、周到に計画されたものだったのだ。


これで、将吾が犯人であるという証拠と、彼の動機はほぼ揃った。

残るは、彼を操っていた「ナイトロード」の正体、そしてその人物がなぜ将吾を利用したのかという、事件の真の闇だ。

この修学旅行で起こった悲劇は、まだ終わらない。

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