第19話 偽装された痕跡
将吾の過去を掘り下げていく中で、「ナイトロード」という謎の存在が浮上した。
彼が将吾の狂気を煽り、遥の死へと導いた可能性は高い。
しかし、まだ決定的な証拠が足りない。
特に、警察が「吸血鬼の牙」と断定した遥の首の傷について、私はどうしても納得できなかった。
私は遥の遺体が発見された時の写真を、拓海に改めて見せてもらった。
写真には、遥の蒼白な顔と、首筋に開いた二つの小さな穴が鮮明に写し出されている。
何度見ても、吸血鬼の牙のようにも見えるが、その形状はあまりにも均一で、不自然なほど左右対称だった。
「拓海、この傷、やっぱりおかしいと思うんだ。まるで、何かで『押し付けた』ような…」
私の言葉に、拓海は画像をさらに拡大した。
「確かに、皮膚の組織の損傷が、一般的な噛み跡とは違うかもしれない。むしろ、鋭利な二つの点が、同時に深く刺さったような…」
拓海の分析に、私はハッとした。
まさに、将吾が古書に隠し持っていた、あのブックマークが変形した凶器の先端と同じ形状だ。
「拓海、あのブックマークの先端、もう少し詳しく調べてほしい。何か、血液が付着している可能性はないかな?」
私の指示に、拓海は将吾のSNSに投稿された、古書にブックマークが挟まっている写真を再度解析し始めた。
解像度を最大限に上げ、光の反射などを調整する。
「…美羽、これ見てくれ」
拓海の指が、画面上のブックマークの先端を指し示した。
目を凝らすと、そこには本当に微かな、しかし確かに存在する赤い染みのようなものが写っていた。
肉眼ではほとんど見えないほどだが、デジタル処理によって、その存在は明らかだった。
「これ、血液だ…!」
私は声を上げた。もしこれが遥の血液だとすれば、将吾が凶器を隠し持っていただけでなく、実際にそれを使って遥を殺害した決定的な証拠となる。
しかし、将吾はなぜ、吸血鬼の牙に見せかけるような偽装をしたのだろう?彼は本当に、自分がドラキュラに取り憑かれていると信じていたのか?
それとも、誰かにそう信じ込まされていたのか?
その時、イアナが静かに口を開いた。彼女は、私たちのやり取りをずっと見守っていたようだ。
「ルーマニアの伝承では、吸血鬼は、ただ血を吸うだけではありません。彼らは、犠牲者の魂を奪い、その肉体に**『呪いの印』**を残すと言われています」
イアナの言葉に、私は将吾の行動が、単なる殺人ではなく、ある種の儀式的な意味合いを持っていた可能性に思い当たった。
将吾は、遥の魂を奪うために、この「呪いの印」をつけようとしたのではないか。
そして、その印を「吸血鬼の牙」に見せかけることで、自身の犯行を正当化し、狂気を深めていったのかもしれない。
「将吾は、遥を殺害するだけでなく、その死を『吸血鬼の呪い』として偽装することで、自分の妄想を現実のものにしようとしたんだ…」
私の言葉に、拓海は深く頷いた。
私たちは、この「赤い染み」の画像を保存し、今後の重要な証拠とすることにした。
将吾がどれほど巧妙に偽装を施したとしても、デジタルな痕跡は嘘をつかない。
そして、イアナの語るルーマニアの伝承が、将吾の狂気の深層を理解する上で、重要な手がかりとなっている。
私たちは、真実が闇に葬られることを決して許さない。
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