第18話 将吾の過去

イアナから得た「ストリゴイの血の儀式」と「紋章」の情報は、将吾の行動の背後にある狂気の深さを物語っていた。

私は、将吾の心の闇の根源を探るべく、彼のSNSのさらに深層へと足を踏み入れた。


拓海は、将吾のSNSアカウントだけでなく、彼が過去に利用していた可能性のあるブログやオンラインフォーラムの痕跡まで徹底的に洗い出してくれた。

将吾が公開していた投稿のほとんどは、吸血鬼伝説やオカルトに関するものだったが、その中に、彼のパーソナルな部分を垣間見せる、いくつかの記述が見つかった。


それは、将吾が幼い頃から、周囲になじめない孤独を感じていたことが示唆される内容だった。

クラスメイトとの摩擦、理解されない趣味、そして「異端児」として扱われることへの苦悩。彼は、現実世界での居場所を見つけられず、吸血鬼や魔術といったファンタジーの世界に、自己の存在意義を見出そうとしていたかのようだった。


「…僕は、いつも一人だった。誰も、僕の真実を理解しようとしなかった」


ある古いブログの記事には、そんな言葉が綴られていた。

彼は、架空の世界の中で、自分を「ドラキュラの末裔」という特別な存在だと位置づけ、その強大な力に救いを求めていたのだ。


「将吾くん、ただの妄想じゃなかったんだ…」


私は、将吾の過去の投稿を読み進めながら、彼の抱えていた孤独と絶望の深さに、胸を締め付けられる思いがした。

彼の「ドラキュラの末裔」という自称は、単なる中二病の範疇を超え、彼自身のアイデンティティの一部となっていたのだ。

遥の嘲笑は、彼にとって、その唯一の拠り所であるアイデンティティを根底から否定されたに等しかったのだろう。


さらに、拓海は将吾が参加していた、あるオンラインフォーラムのログを発見した。

そこは、世界中のオカルト愛好家たちが集い、吸血鬼や魔術に関する情報を交換する閉鎖的なコミュニティだった。

将吾は、そのフォーラムの中で、ある人物と頻繁にやり取りをしていた。

その人物のハンドルネームは「ナイトロード」。

彼は、ルーマニアの吸血鬼伝説に異常に詳しく、将吾に様々な情報や「知識」を与えているようだった。


「ナイトロード…この人、将吾の妄想をさらに煽ったんじゃないか?」


拓海の言葉に、私はゾッとした。

ナイトロードの投稿には、将吾の抱える孤独や劣等感につけ込むような、巧妙な言葉が並んでいた。

彼は、将吾の「ドラキュラの末裔」という自称を肯定し、その「特別な力」を信じるように仕向けていたのだ。


「『汝の血には、古の力が宿る。目覚めよ、真の支配者よ』…」


ナイトロードが将吾に送っていたメッセージの一つを読み上げた時、私の背筋に冷たいものが走った。

それは、まるで将吾を洗脳し、彼の狂気を増幅させるための、呪文のようにも聞こえた。


将吾の犯行は、彼の孤独と妄想が引き起こした悲劇であると同時に、この「ナイトロード」という人物による、巧妙な心理操作の結果でもあるのではないか。

もしそうだとすれば、この事件の裏には、もっと深い闇が隠されていることになる。


イアナは、私の隣で将吾の過去の投稿を静かに見つめていた。


「彼の心は、とても脆かった。そして、誰かにその隙につけ込まれたのでしょう。ルーマニアの伝承では、ストリゴイは、心の弱い人間をターゲットにすると言われています…」


イアナの言葉は、将吾の行動が、単なる妄想だけではない、外部からの影響を受けていることを示唆していた。

この「ナイトロード」こそが、将吾の狂気を操り、遥の死へと導いた真の黒幕なのかもしれない。

私は、この「ナイトロード」の正体を突き止めることこそが、事件の真実を解き明かす鍵だと確信した。

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