第16話 証拠の収集
将吾の異常な行動、消えた遥のペンダント、そしてイアナが語る不穏な伝承。
すべての点がつながり、私の中で将吾が犯人であるという確信は揺るぎないものとなっていた。
しかし、まだ肝心なのは、それを裏付ける具体的な「証拠」だった。
ルーマニア警察が動かない以上、私たちが動くしかない。
「拓海、将吾のSNS、何か気になる動きはあった?」
私は、拓海が解析を進めている将吾のSNSアカウントを覗き込んだ。
ホテルでの待機時間が続く中、将吾は相変わらず不可解な投稿を続けている。
薄暗いホテルの自室で撮影したかのような、手元に古書が写り込んだ写真。
その古書には、私が遥の遺体現場で目にした、あの不気味なブックマークが挟まっているのが確認できた。
しかし、そのブックマークの先端は、通常のブックマークと同じように平らな状態に見える。
「新しい投稿は特にないけど、美羽、これを見てくれ」
拓海は、将吾の過去の投稿の中から、ある動画を再生した。
それは、修学旅行に出発する前、将吾が自宅で撮影したと思しき、彼の部屋の様子を映した短い動画だった。
本棚にはオカルトや吸血鬼に関する書籍がずらりと並び、壁には中世の甲冑のレプリカが飾られている。
そして、その動画の片隅に、私が遥の遺品の中から消えていることに気づいた、星の形のペンダントトップが映り込んでいた。
「これだ…!」
私は思わず声を上げた。
ペンダントトップは、将吾の机の上に置かれた、小さな木製の箱の中に収められていた。
まるで、大切な宝物のように。
「間違いない。遥のペンダントだ」
拓海も、その動画を見て驚きの声を上げた。
動画の撮影日は、遥の死の数日前。
つまり、将吾は、遥が殺害される前から、すでにあのペンダントを手に入れていたことになる。
「どういうこと?遥が殺される前から、将吾がペンダントを持っていたなんて…」
私の頭は混乱した。
遥が自ら将吾にペンダントを渡したとは考えにくい。
とすれば、将吾は、遥を殺害する以前に、何らかの形でペンダントを奪っていたのだろうか。
「まさか…将吾は、遥を殺す前に、ペンダントを奪って、自分の『コレクション』に加えていたんじゃないか?」
拓海の言葉に、私は背筋が凍るような思いをした。
もしそうだとすれば、将吾の狂気は、私の想像をはるかに超えている。
彼は、遥の命だけでなく、彼女が大切にしていたもの、彼女の「魂」の一部までもを自分のものにしようとしていたのかもしれない。
イアナが語っていた「魂の代償」という言葉が、脳裏をよぎった。
次に、私たちは、将吾の古書の「吸血鬼の歯型」トリックを裏付ける証拠を探した。
将吾のSNSには、古書を読んでいる様子の写真が多数投稿されている。
その中に、ブックマークが写り込んでいるものもある。
しかし、どの写真でも、ブックマークは平らな状態にしか見えない。
「拓海、あのブックマークが変形する仕掛けだって言ってたけど、証拠になる写真はないかな?」
私の問いに、拓海は首を横に振った。
「残念ながら、変形した状態が写っている写真は見つからない。将吾も、凶器だと悟られないように、細心の注意を払っていたんだろう」
しかし、拓海は諦めなかった。
「だが、一つだけ気になることがある。将吾が投稿している古書の写真、よく見ると特定のページが何度も開かれているんだ。そのページには、奇妙な図形が描かれている」
拓海の言葉に、私は将吾のSNSを再び見返した。
確かに、将吾が投稿している古書の写真の中には、同じページが何度も開かれた状態で写っているものがあった。
そのページには、見慣れない記号や図形が複雑に描かれている。
「これ、もしかして、あのブックマークの変形方法が書かれているんじゃないのか?」
私の言葉に、拓海は大きく頷いた。
「その可能性は十分にある。もしそうなら、その図形は、将吾が凶器を操作する際に参照していたものかもしれない」
私たちは、将吾のSNSの隅々まで目を凝らし、彼の狂気の裏に隠された真実の証拠を追い続けることを決意した。
遥の無念を晴らすためにも、そして、将吾の異常な行動の背後にある、さらなる闇を暴くためにも。
この事件は、単なる殺人事件ではない。
人間が人間を支配しようとする、恐ろしい企みが隠されているに違いないのだ。
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