第14話 アリバイの崩壊

遥の写真から得られた手がかりは、将吾が計画的に犯行に及んだことを強く示唆していた。

しかし、まだ彼の犯行を決定づけるには、いくつか足りないものがある。

その一つが、事件当夜のアリバイの崩壊だった。


私たちは、将吾のSNS投稿のタイムスタンプと、彼がホテルに戻ったとされる時間を照らし合わせた。

将吾は警察に対し、遥が殺害されたとされる時間帯、つまり夜中から未明にかけては、自室で寝ていたと証言していた。


「拓海、将吾の投稿、もう一度詳しく見て。特に、事件当日の日付が変わる頃から、遥さんの遺体が発見されるまでの時間帯の投稿を」


私の指示に、拓海は素早くキーボードを叩いた。

画面に表示される将吾の投稿履歴。

それは、遙の死を予見するような、不穏な内容で埋め尽くされていた。


「これだ…」


拓海の指が、ある投稿を指し示した。

それは、事件当日の午前3時頃に投稿されたものだった。

ブラム城の薄暗い中庭を写した写真と共に、「夜の帳が降り、血の渇きは満たされる…」という、まるで事件の実行を報告するようなメッセージが添えられていた。


「これ、将吾が自分で投稿したんだよな?」私が尋ねると、拓海は首を横に振った。


「それが、おかしいんだ。この投稿のIPアドレスを辿ってみたんだけど、ホテルのWi-Fiからじゃない。外部の、別のネットワークからアクセスされている」


拓海の言葉に、私は息をのんだ。

将吾はホテルの自室で寝ていたと証言している。

しかし、この投稿がホテルのWi-Fiからではないということは、将吾がその時間に、ホテルの外に出ていた可能性を示唆している。


「待って。さらに詳しく調べてみたら、このIPアドレスは、ブラム城の敷地内にある、普段は使われていない旧管理棟のネットワークからのものだ」


拓海の次の言葉に、私は驚きを隠せなかった。

旧管理棟は、ブラム城の敷地内にあるが、宿泊棟とは離れた場所にある。

そこに、将吾がいたとすれば、彼の完璧なアリバイは完全に崩れる。


「将吾は、事件当夜、自室にはいなかった。ブラム城の旧管理棟にいたんだ」


私の確信が、さらに深まった。

将吾は、遥を殺害するため、あらかじめ旧管理棟に侵入し、そこで犯行に及んだか、あるいは犯行の準備をしていたに違いない。

そして、犯行後、旧管理棟から自分のスマホで、あの不気味な投稿をしたのだ。


次に、イアナが語っていた「影の牙」という言葉と、将吾が常に持ち歩いていた古書に隠された凶器について、私たちはさらに深く考察した。


「イアナ、ルーマニアの伝承で、『影の牙』って、具体的にどんなものなの?」


私が尋ねると、イアナは少し躊躇いながらも、話し始めた。


「それは、闇の力を持つ者が、その魂の一部を宿らせて作り出す、と伝えられています。見る者に恐怖を与え、まるで実体のない影のように現れて、獲物の生命を奪う…」


イアナの言葉は、まるで将吾の凶器そのものを表しているかのようだった。

古書に隠され、特定の操作によって現れる鋭利な二又の突起。それはまさに、「影の牙」そのものではないか。

将吾は、ルーマニアの伝承にある「影の牙」の概念を、自らが作り出した凶器に投影していたのだ。


「将吾は、その『影の牙』を使って、遥さんを殺したんだ。そして、あたかも自分がドラキュラに取り憑かれたかのように見せかけた」


私の推理は、すべてが一本の線で繋がった。

将吾のアリバイの崩壊、遥の写真に写り込んだ凶器、そしてイアナが語る伝承。

すべてのピースが、将吾の犯行を決定づけている。


しかし、まだ一つだけ、納得できない部分があった。

将吾はなぜ、そこまでして「ドラキュラ」という存在に執着し、遥を殺害する必要があったのか。

その根源的な動機が、私にはまだ見えていなかった。真の闇は、まだその姿を現していない。

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