第13話 隠された真実の手がかり
ホテルに閉じ込められたままの日々が続き、生徒たちの間に広がるのは、焦燥感と疲労の色だった。
しかし、私の中では、事件の真実を突き止めたいという思いが、日に日に強くなっていた。
ルーマニア警察の動きが鈍い中、頼れるのは自分たちの情報収集能力だけだった。
私は、遥のSNS投稿を最初から最後まで、文字通り穴が開くほど見返していた。
何気ない投稿の中に、何か見落としている手がかりがあるかもしれない。
そう信じて、指を滑らせていく。
そして、ある写真に目が留まった。
それは、事件の前日に遥が投稿した、ホテルでの夕食の様子を写した写真だった。
彩り豊かなルーマニア料理が並び、友人たちが楽しそうに写っている。
その写真の背景、少しピンボケした場所に、佐々木将吾の姿が小さく写り込んでいた。
将吾は、食事の席から少し離れた場所で、壁にもたれかかるように立っていた。
いつものように分厚い古書を手にしているが、その時、彼の右手には、何か小さな光るものが握られているのが見えた。
「これ…!」
私は思わず声を上げた。
写真の解像度を最大まで上げ、その光る物体にズームする。
しかし、写真が不鮮明で、それが一体何なのかはっきりとは分からない。
だが、その形状は、まるで小さな金属製の棒状の物体のようにも見えた。
そして、その先端がわずかに鋭利な形をしているような、かすかな光の反射があった。
私の心臓が大きく脈打った。
遥の首筋にあった、あの不自然な二つの穴。
そして、拓海が突き止めた、将吾が常に持ち歩いていた古書に隠された、あのブックマーク。
もし、あのブックマークが特定の操作で鋭利な刃物に変形する仕掛けになっていたとしたら、この写真に写っているのが、まさにその凶器の変形した状態ではないのか?
私はすぐに拓海に連絡を取った。
「拓海!遥の写真を見て!将吾が写ってる写真に、何か写ってる!」
私の興奮した声に、拓海もすぐに遥のSNSを確認してくれた。
「本当だ…!これは…」
拓海も、写真の中の小さな光る物体に気づいたようだった。
「これ、将吾が持ってた古書のブックマークじゃないか?変形した状態の…」
拓海の言葉に、私の確信は強まった。
将吾が、遥を殺害する凶器を、あろうことか古書の中に隠し持っていたのだ。
そして、その凶器を、事件の前日にすでに手にしていた。
それは、彼の犯行が、周到に計画されたものであることを示している。
「あのブックマークが、まさかそんな仕掛けになっていたなんて…」
拓海は驚きを隠せない様子だった。
彼はすぐに写真のメタデータ(撮影日時や場所などの情報)を確認し始めた。
その写真は、事件発生の前日、夜のディナー中に撮影されたものだった。
つまり、将吾は、遥が生きている間に、すでに凶器を手にしていたのだ。
次に、私はイアナの言葉を思い出した。
彼女が語っていた、ルーマニアの吸血鬼伝説における「特定の儀式や道具」。
将吾が、その道具を模倣して、今回の凶器を作り上げた可能性はないだろうか?
「イアナ、将吾が聞いてきた『特定の儀式や道具』って、何か具体的なものがあった?」
私は、イアナに尋ねた。イアナは少し考え込み、やがて静かに語り始めた。
「ルーマニアの古い伝承には、吸血鬼を討ち取るための特殊な銀の杭や、聖なる水に浸した木製の十字架などの話があります。しかし、それとは別に、**『影の牙』**と呼ばれるものも…」
イアナの口から出た「影の牙」という言葉に、私は思わず息をのんだ。
それは、将吾が手にしていた凶器と、遥の首筋の傷を完全に説明できる言葉だった。
すべての点が、まるでパズルのピースのように、ぴったりと繋がり始めた。
将吾は「ドラキュラの末裔」という妄想に囚われ、遥の挑発に激高し、自らが信じる吸血鬼の「牙」を模倣した凶器を使って遥を殺害した。
そして、その犯行を「吸血鬼の仕業」に見せかけようとしたのだ。
だが、まだ解決していない謎が一つある。
なぜ、将吾はそこまでして、遥の死を「吸血鬼の仕業」に見せかけようとしたのか。
そして、彼の心をそこまで蝕んだ「闇」とは、一体何なのだろうか。
真の「ドラキュラの末裔」は、本当に将吾自身なのか、それとも…。
事件の核心は、まだその深淵に隠されている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます