第9話 拓海の解析

ホテルの一室。

生徒たちが不安と疲労に沈む中、私と拓海はパソコンの画面に向かい合っていた。

拓海は、将吾のSNSアカウントから得られた情報を、驚くべき速さで解析していく。

彼の指がキーボードの上を忙しなく滑り、次々とデータが画面に表示されていく。


「美羽、これ見てくれ」


拓海が差し出した画面には、将吾の過去数ヶ月分のSNS投稿が時系列で表示されていた。

その中に、遥の死の直前、明らかに異常な高揚感を示す投稿がいくつも見つかった。

まるで、何らかの計画を実行する直前の興奮を抑えきれないかのようだ。


「『夜明けが、血の饗宴を告げる』…事件当日の朝に投稿されてる」


私の指が、ある投稿を指し示した。早朝、まだ周囲が暗い時間帯だ。


「これ、予約投稿機能を使ったんじゃないか?将吾がその時間に投稿したにしては、あまりにも冷静すぎる」


拓海の指摘に、私はハッとした。

確かに、将吾のSNSは、感情的でありながらも、どこか計算されたような印象があった。

彼が、あらかじめ計画を立てていたとしたら…。


「それから、削除された投稿が見つかった」


拓海の次の言葉に、私は息をのんだ。

彼の指が、画面の隅に表示された小さなサムネイルを指し示す。

そこに表示されていたのは、遥の顔写真と、その上に重ねられた血のような赤い文字で書かれた、おぞましいメッセージだった。


「『汝の罪、血で贖え。ドラキュラの怒り、身をもって知るべし』…」


私が読み上げると、拓海の顔が険しくなった。


「これは…遥さんの投稿に対する、将吾からのメッセージだ。明確な殺意が読み取れる。そして、この投稿は事件直前、遥さんが将吾を嘲笑する投稿をした直後にアップロードされて、すぐに削除されている」


拓海は、投稿のタイムスタンプと、将吾がホテルに戻ったとされる時間を照合する。

結果は明白だった。将吾がホテルの部屋に戻った後も、彼はこの投稿をしていた。

そして、そのメッセージは、まさに遥の死を予見しているかのようだった。


「将吾が、遥さんを殺したんだ…」


私の口から、絞り出すような声が出た。

確信が、恐怖と共に胸に広がる。しかし、拓海は首を横に振った。


「まだだ。これだけでは決定的な証拠とは言えない。

将吾が、あくまで『ドラキュラに取り憑かれたフリ』をしている可能性もある。

それに、どうやってあの『牙の跡』をつけたのか、まだ不明だ」


拓海は、将吾がいつも持ち歩いていた古書の画像を検索していた。

そして、一つの画像に目が留まった。

それは、将吾のSNSに過去に投稿されていた、彼の手元が写った写真だった。

そこには、古書の間に挟まれた、小さな、古びたブックマークが写っていた。


「これだ…」


拓海の指が、画面に表示されたブックマークの画像を指し示した。

それは、遥の遺体のそばに落ちていたブックマークと酷似していた。

そのブックマークの先端は、一見するとただの装飾のように見えるが、よく見ると、微かに鋭利な二又の突起が確認できた。


「もしかして、これが…?」


私の言葉に、拓海は深く頷いた。


「このブックマークが、特定の操作で鋭利な刃物に変形する仕掛けになっていたとしたら、遥さんの首筋の傷の謎が解ける。まるで吸血鬼の牙に見せかけるための、巧妙なトリックだ」


私の脳裏に、遥の首筋の傷が鮮明に蘇る。

あの不自然なほど整った二つの穴。

そして、将吾が肌身離さず持ち歩いていた、あの古書。

すべてが繋がっていく。


「将吾は、最初から遥さんを殺すつもりだったんだ。そして、それを『吸血鬼の仕業』に見せかけようとした…」


拓海の解析によって、将吾が犯人であるという確信は、さらに強固なものとなった。

しかし、まだ肝心な動機、そして将吾がそこまでして遥を殺害しなければならなかった理由が、私には見えていなかった。

そして、イアナが語っていた「闇に誘われる」という言葉の意味も。

事件の全貌は、まだ明らかになっていない。

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