第10話 イアナの証言
拓海の解析結果は、私の中で将吾への疑念を確信へと変えた。
しかし、まだ肝心な部分が残っている。
なぜ、将吾はそこまでして遥を殺さなければならなかったのか。
そして、あの「ドラキュラに取り憑かれた」ような言動の真意とは。
私は、イアナの元を訪ねた。
イアナは、ホテルのラウンジで一人、静かに紅茶を飲んでいた。
彼女の表情は相変わらず物憂げで、まるで遠い故郷の空を眺めているかのようだった。
「イアナ、少し聞きたいことがあるんだけど…」
私が声をかけると、イアナはゆっくりと顔を上げた。
「美羽さん…」
私は、拓海の解析結果をかいつまんで彼女に伝えた。
将吾のSNSの不穏な投稿、そして削除されたメッセージ。
「将吾は、遥さんを殺す計画を立てていたんじゃないかって、思ってる。あの首の傷も、吸血鬼の牙に見せかけたトリックだったとしたら…」
私の言葉に、イアナは大きく目を見開いた。そして、静かに話し始めた。
「…やはり、そうでしたか」
イアナは、一呼吸置いてから、少し震える声で続けた。
「事件の前夜、将吾さんは私に、吸血鬼伝説について、さらに深く尋ねてきました。特に、『人間の魂を吸い尽くす』という概念について、執拗に…」
イアナの証言に、私の心臓が早鐘を打った。
将吾が遥を殺害する直前に、イアナに吸血鬼について尋ねていたという事実は、彼が計画的に犯行に及んだことを強く示唆している。
「将吾さんは、遥さんのことを口にしていましたか?」
私が尋ねると、イアナは迷うように視線を泳がせた後、小さく頷いた。
「はい。遥さんのことを、『光を嘲笑う愚かな存在』だと。そして、『闇がその魂を蝕むだろう』と…」
イアナは言葉を選びながら、将吾が語った言葉を再現してくれた。
その言葉は、将吾の削除されたSNS投稿の内容と酷似していた。
遥が将吾の「ドラキュラの末裔」という妄想を嘲笑したことが、将吾の逆鱗に触れたことは間違いない。
それが、彼の殺意を決定づけたのだろうか。
「それに…」と、イアナはさらに続けた。
「将吾さんは、ルーマニアの吸血鬼伝説と、ご自分が信じている吸血鬼のイメージが違うことに、少し戸惑っているようでした。私が語る、真のルーマニアの吸血鬼は、彼が想像するようなロマンチックなものではなかったから…」
イアナは、将吾が信じる「ドラキュラ」が、西洋のフィクションの影響を受けていること、そしてルーマニアで古くから伝わる「モロイ(生ける屍)」や「ストリゴイ(夜に活動する悪霊)」といった存在は、より陰惨で、人間の中の邪悪な側面を象徴するものであることを説明してくれた。
「彼は、『ドラキュラ』に、ある種の理想を求めていたようです。
しかし、遥さんの言葉が、彼のその理想を打ち砕いたのかもしれません」
イアナの言葉は、将吾の歪んだ心理を解き明かす重要な鍵となった。
将吾は、遥の嘲笑によって、自身の「ドラキュラの末裔」というアイデンティティが否定されたと感じ、その怒りが殺意へと転じたのだ。
そして、その犯行を、彼が信じる「ドラキュラ」の仕業に見せかけようとした。
イアナの証言は、私の中にあったパズルのピースを次々と埋めていった。
将吾の動機、そして犯行に至る心理。
警察が吸血鬼伝説に惑わされる中、私たちは真犯人の影を確実に捉え始めていた。
次に、拓海がさらに詳しい情報を見つけてくれることを願うばかりだ。
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