第8話 美羽の違和感
警察が「吸血鬼の仕業」と断定する中、私にはどうしても拭えない違和感があった。
遥の首筋の二つの穴。確かに牙のようにも見えたが、よく見るとその形状はあまりにも整いすぎている。
まるで、何か特定の道具で付けられたかのように。
現場はすでに規制線が張られ、誰もが立ち入りを禁じられていたが、私は遥の遺体が発見された場所を遠くから見つめていた。
薄暗い礼拝堂の裏手。地面にはまだ、乾ききっていない血痕が残っている。
その血痕の飛び散り方にも、どこか不自然な印象を受けた。
まるで、誰かが意図的に撒いたかのように。
「美羽、何してるんだ?危ないぞ」
私の隣に、拓海が立っていた。彼は険しい表情で、私を見つめていた。
「拓海、あの牙の跡、不自然だと思わない?それに、血痕の飛び散り方も…」
私がそう言うと、拓海は一瞬考え込んだ後、小さく頷いた。
「確かに、テレビで見た吸血鬼の映画の噛み跡とは少し違うような気がする。それに、これだけ出血しているのに、現場に残された足跡が少ないのも気になるな」
私たちはこっそりと、現場を遠巻きに観察し続けた。
警察官が写真を撮り、鑑識らしき人物が地面を調べている。
しかし、彼らの視線は、あくまで「吸血鬼の痕跡」を探しているかのようだった。
その時、私の視界に、小さな光るものが飛び込んできた。
それは、遥の遺体の近く、草むらに隠れるように落ちていたものだった。
警察官の足元に隠れるように落ちていたため、誰も気づいていないようだった。
目を凝らすと、それは私が遥にプレゼントした、小さなペンダントトップだった。
星の形をした、お気に入りのアクセサリー。
なぜ、こんな場所に?そして、どうして遥の首から外れているのだろう?
私は反射的にそのペンダントトップを拾い上げようとしたが、拓海が私の腕を掴んで止めた。
「待て、美羽。勝手に触るな。警察の証拠品になるかもしれない」
拓海の冷静な判断に、私はハッと我に返った。
そうだ。今はまだ、何も触ってはいけない。
しかし、遥がこのペンダントトップを肌身離さず身につけていたことを知っている私は、それが単なる偶然で落ちていたとは思えなかった。
その後、ホテルに戻されてからも、私の思考は止まらなかった。
遥のSNS履歴を何度も見返す。
将吾とのやり取り、特に「ドラキュラにはなれない」「ただの中二病」といった遥の挑発的な投稿。
そして、将吾の不穏な詩のような返信。
将吾は、いつも分厚い古書を持ち歩いていた。
あの古書には、一体何が書かれているのだろう?そして、あの本の表紙にあった奇妙なシンボル。
あれは、ただの装飾なのだろうか?
私は拓海に、将吾のSNS投稿の詳しい解析を改めて依頼した。
特に、削除された投稿がないか、徹底的に調べてほしいと伝えた。
「拓海、将吾の投稿、特に削除されたものがないか、徹底的に調べて。それと、彼の本の表紙のシンボル、もし画像が残ってたら特定してほしい。
何か手がかりになるかもしれない」
拓海は、私の真剣な顔を見て、強く頷いた。
「わかった。できる限り調べてみる。美羽も無理するなよ」
私たちは、警察とは違う視点で、この事件の真実を追い始めることを決意した。
警察が「吸血鬼の仕業」と結論付けようとする中、私には、これは人間による犯行であるという確信があった。
そして、その犯人は、将吾である可能性が、日に日に高まっていった。
遥の首筋の傷、そしてあのブックマークのようなものが、私の推理の出発点となるだろう。
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