第7話 混乱と疑心暗鬼
遥の遺体が発見されてから、ブラム城は瞬く間に地獄絵図と化した。
警察のサイレンが鳴り響き、観光客や生徒たちの悲鳴が交錯する。
ルーマニア警察が駆けつけ、現場は規制線が張られた。
しかし、彼らの捜査は、私たち日本人には理解しがたい方向へと進んでいく。
「これは…吸血鬼の仕業だ」
そう断定したのは、初老のベテラン警官だった。
彼は遥の首筋の傷を検分し、真剣な顔で呟いた。
その言葉に、生徒たちの間にさらなる動揺が広がる。
「そんな…吸血鬼なんて、いるはずない!」
クラスメイトの一人が叫んだ。しかし、警官は首を横に振る。
「この地には、古くからヴァンパイアの伝説が根付いている。そして、その犠牲者は、時としてこのような痕跡を残すのだ」
警察が吸血鬼の仕業と断定する限り、まともな捜査は期待できないだろう。
このままでは、事件は迷宮入りになってしまう。
私は、遥の死を無駄にしたくないという思いで、ギュッと拳を握りしめた。
生徒たちの間では、疑心暗鬼が渦巻いていた。
「誰がやったんだ?」「もしかして、本当に吸血鬼が…?」。
そんな声が、そこかしこで聞こえてくる。
普段の賑やかさは消え失せ、誰もが互いの顔色を伺い、不穏な空気が漂っていた。
そんな中、佐々木将吾だけは、不自然なほど冷静な態度を見せていた。
彼は遺体が発見された場所から少し離れた場所で、ただじっとその様子を眺めている。
その瞳には、恐怖も悲しみもなく、むしろどこか満足しているような、奇妙な光が宿っているように見えた。
彼のSNSは、事件後も更新されていなかった。
私は、拓海に連絡を取った。
彼は現場から少し離れた場所で、警察の動きを注意深く観察していた。
「拓海、将吾のSNS、もう一度詳しく調べてほしい。特に、事件直前の投稿内容と、遥とのやり取りを重点的に」
私の言葉に、拓海はすぐに頷いた。
「わかった。すぐ解析してみる。あと、美羽、遥さんのSNSも見てみてくれ。何か手がかりがあるかもしれない」
私と拓海は、それぞれスマホを手に、情報収集を開始した。
遥のSNSアカウントには、事件直前まで楽しかった修学旅行の思い出が綴られていた。
そして、その中に、将吾の不気味な投稿をからかうようなコメントが、何度も繰り返し見つかった。
その一つ一つが、まるで遥の命を奪うためのカウントダウンだったかのように思えて、私の胸は締め付けられた。
一方で、イアナは、私たちが情報収集に奔走する姿を静かに見守っていた。
彼女の顔には、悲しみと、そして何かを深く知っているような、諦めにも似た表情が浮かんでいた。
彼女の持つルーマニアの伝承に関する知識が、この事件の謎を解き明かす鍵になるかもしれない。私はそう確信した。
混乱の中、警察の捜査は吸血鬼の仕業という結論へと傾きつつあった。
しかし、私は確信していた。
これは超常現象ではない。人間が、人間を殺した、れっきとした殺人事件なのだと。
そして、その犯人は、私たちのすぐ近くにいるはずだと。
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