第6話 血塗られた最終日

夜が明け、修学旅行最終日の朝。太陽が昇り始めたばかりのブラム城は、昨日までとは打って変わって、どこか不気味な静けさに包まれていた。

清々しいはずの朝の空気は、なぜか重く淀んでいるように感じられた。


私の不安は的中した。

朝食会場に向かうため部屋を出たところで、廊下で騒ぎが起きているのに気づいた。

何人かのクラスメイトが集まっており、その中央で担任の先生が顔色をなくして電話をかけている。

ざわめきの中から、断片的な言葉が耳に飛び込んできた。

「遥がいない」「見つからない」。


心臓が大きく跳ねた。嫌な予感が全身を駆け巡る。

私は人垣をかき分け、先生の元へ駆け寄った。


「先生、遥が、遥ちゃんがどうかしたんですか!?」


先生は私に気づくと、青ざめた顔で力なく首を振った。


「霧島さん…佐藤さんが…見つからないんだ。部屋にもいない…」


その言葉に、血の気が引くのを感じた。

遥は、いつも一番早く起きて、朝食前にSNSを更新するような子だ。

彼女がいないというのは、尋常ではない。


私たちは先生に促され、遥の捜索に加わった。

生徒たちは手分けしてホテルの敷地内を捜索し始める。

私の心臓は不規則なリズムで脈打っていた。

将吾の不穏な投稿、遥の軽率な挑発、そしてイアナが語った「闇に誘われる」という伝説。

すべての点が線で繋がっていくような、恐ろしい感覚に襲われた。


そして、その予感は最悪の形で現実のものとなった。

ブラム城の敷地内、普段は立ち入り禁止となっている古びた礼拝堂の裏手。

木々が鬱蒼と茂る薄暗い場所に、遥の姿があった。


「遥…っ!」


私が声を上げた瞬間、足がすくんだ。

遥は、そこに横たわっていた。顔色は蒼白で、意識がない。

そして、その首筋にはっきりとした二つの小さな穴が開いていた。

まるで、鋭い牙で噛み付かれたかのように。


遥の喉からは、真っ赤な血がにじみ出て、土に染み込んでいた。

その光景は、あまりにも衝撃的で、私はその場に立ち尽くすしかなかった。

脳裏に、将吾の不気味な言葉がフラッシュバックする。

「汝の血は、やがて我が飢えを満たすだろう」。


やがて、私の叫び声を聞きつけた他の生徒や先生が駆けつけてきた。

遥の姿を目にした瞬間、阿鼻叫喚の叫び声が響き渡った。


「吸血鬼だ…!本物の吸血鬼が出たんだ!」


誰かの悲鳴が、ブラム城の静寂を打ち破った。

現場は一瞬にしてパニックに陥った。

先生たちは生徒たちを落ち着かせようと必死になるが、その声も震えている。


私は、恐怖に支配されながらも、遥の首筋に開いた二つの穴から目が離せなかった。

それは確かに吸血鬼の牙のようにも見えたが、どこか不自然な、人工的な鋭さがあるようにも感じられたのだ。

そして、遥の遺体の近くに、奇妙なものが落ちているのが目に入った。

それは、将吾がいつも持ち歩いていた、あの分厚い古書から抜け落ちたかのような、小さな、古びたブックマークだった。


修学旅行最終日、ルーマニアの古城で起こった信じられない惨劇。

この血塗られた事件は、一体誰の、何のための犯行なのだろうか。

私の好奇心と推理の歯車が、この瞬間、急速に回り始めた。

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