ドラキュラ伯爵と朝ご飯
もち雪
第1話
「もうこんな朝ごはんは嫌だ」
「何故だ? 名誉な事だぞ、私の作った朝ごはんを、食べているのだからな」
そう彼は言う。ドラキュラ伯爵のジョンルイズ、それが彼の名だ。黒いスーツを着込み、黒髪に黒い瞳で、端正な顔立ち、そしてその彼に肩車されている今も、ほうれん草のソテーとウインナーを、もぐもぐ食べている私が山田さん。
とある理由で、私はホテルで働いている為に、当たり障りのない格好をしている。具体的に言うと、凄く美味しいって評判のメニューの話しを聞き付けた時に、いつでもレストランへ入って行ける格好と、言えばわかりやすいかもしれない。
そしてここはあるアパートの地下室、以前は祖父たちのカラオケルームだったこの部屋は、今ですっかり棺おけ常備のドラキュラである、彼の住みかになっている。
天井の間際の小窓から光が僅かに差し込み、最低限おかれた家具も、沢山置かれて本たちも整って置かれてはいる。しかし地下室、特有の重い空気が部屋全体を覆っていた。
そしてこの状況を話せば長くなるけど、私はジョンルイズの手作りの朝ごはんを、食べるためここに来た大家の孫。
ここのアパートがホテルに近いと言う理由で、管理人室の隣の102号室に、私は住んでいる。ジョンルイズは普段警備員をしていて、祖父がナンパして来たらしい。新しく暮らす事になった私の為に。
ーーでも、どうかなー? 美味しいものに目が無いっていうのは、祖父譲りだ。だから、どこかで彼の料理を、祖父は口にしたのかもしれない?
けれども、祖父の目論見通りか知らないが、彼の家に私は押し掛け、祖父も私がお世話になっているからと言い、最高の料理の素材を持って来ては、それを半分食べて帰る。
そんな素晴らしい関係の私たちの前に、朝食中であるが、災いが起きた。仮にGとする。奴が出た。
ジョンルイズは「あっ」と、言った。私は女性であるし、怖いから……、残ったパンを右手で、おかずの残ったお皿に乗せる。
そしてフォークもそこに乗せて、お皿をしっかり両手で持って、ジョンルイズの棺おけに乗るが……。
「私の寝床を足蹴にするな」
「ジョンルイズ! なら、私の朝ごはんを守って!!」
「仕方ない。肩にでも乗ってろ」
そう言うわけで、肩車するジョンルイズと、肩車される私に、つかの間の平和が訪れた。
「ジョンルイズと、ジョンルイズの朝ごはんに感謝いたします」
そう、私は感謝したが、けれど……私たちは気付いてしまった。根本的解決をはからなければ、問題は解決しない事に。それほど、今回の災いは活きがいい。
そして「もうこんな朝ごはんは嫌だ」なんて、問題発言も出てしまったと言うわけだ。それは私が悪い。料理はいかなる時も、楽しくなければいけない。
もしも料理が美味しくなければ……私は平常心を保てなくなるだろ。
でも、大丈夫。私の基準は甘い時は、甘いから……。
「ご馳走様でした。今日も最高ハッピーに、美味しかったです。その
礼を致します」
「そうか。旨かったらいいんだ」と、ジョンルイズは上機嫌になり……。
だから、私は……ガーーン!! と、Gを靴底で撃退しておいた。
「俺は靴底で奴を潰した、女の血を飲むのか!?」
彼はそう呟く。彼はその容姿通り、繊細だった様だ。
「嫌なら……」
勝手知ったる彼の家で、Gの戦闘後の処理行っていた私は、ちらっと彼を見る。
「そう言うわけでは……」
食事がとれないと、彼も困るらしく。そう言った彼の前に、手を洗って私は立つ。
「それに料理も、美味しく食べて貰いたいなぁーって、そう思うんですよ」
「もうこんな朝ごはんは嫌だ」
美意識の高い、ドラキュラ伯爵のジョンルイズは、やつぱりちょっと納得出来なかったみたい。
でも……、顔はちょっと嬉しそうに笑っていたので、今日は良しとしましょう。
終わり
ドラキュラ伯爵と朝ご飯 もち雪 @mochiyuki5
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