選ばれし者
今日の放課後、例のロボットの下に集合。頭の中で、彼女の声をそのまま再生する。
声が終わると同時に、目の前の景色はあの空き教室から山のふもととロボットの巨大な足に切り替わった。その間の記憶が全くない。これは、定期テストで苦労しそうだ。
俺は興奮のあまり制服を着替えずに待ち合わせ場所へと来てしまった。だが、どうやらそれはみんなも同じだったらしい。
「みんな制服だね」
小林が面白そうに呟く。
丸山が来た道を眺めて首を傾げた。
「それにしても、呼びかけた本人はまだか?」
「確かにちょっと遅いかもですね」
結局、卯乃が来たのはそこから十分経ったあとだった。
「遅れてごめんなさい」
仏頂面でそう告げた卯乃は、ちゃっかり私服に着替えていた。制服の六人に囲まれる一人の私服は、かなり浮いている。
「話したいことって?」
丸山がそう
「夢を見るの」
夢。彼女が指すのはあのロボット。
もしかして、と俺は次の一言を待つ。
「あのロボットに、夜な夜な呼ばれている。皆もそうなんじゃないの?」
誰も何も言わなかった。その沈黙は完全に肯定の意味合いを兼ねていた。なぜ俺たちも同じ夢を見ているとわかったのか。そんな疑問よりも「皆も同じなんだ」という安堵感が勝った。
一幕おいて、全員の喉を詰まらせていた異物がなくなったように、口々に「私も」「俺もだ」という声が上がる。
「俺ら、マジモンの選ばれし者やん!」
浜田が誇らしげに口角を上げて呟いた。
「そんな選ばれし者たちに提案なのだけれど」
未だにロボットへと向けられた指先を見つめながら、「私たちなら、ロボットのコックピット内部に入れるんじゃない?」と静かに促される。
俺たちはすでに興奮していたから、その誘いを理性で断ることは出来なかった。
俺はロボットを見上げる。コックピットの入口らしきものは、ロボットの背中――人間で言うと肩甲骨の辺りだ。
「これ、どうやって乗るん?」
浜田の意見に、卯乃を除いた全員が首を捻る。一方の卯乃はつかつかとロボットに寄り、その機体に手を添えた。
彼女の手の甲に白色に光る線が浮かぶ。すると、卯乃は突如姿を消した。
「……え!?」
目の前の出来事が信じられなかった。神隠しにでもあったのかと慌てる俺たちの上から、機械音とともに声がした。
「ねえ」
上を見ると、コックピットの入口らしき扉が開いて、中から卯乃が顔を出していた。あれ、窓だったんだ?
「入ってきてよ」
むすっとした表情で卯乃が言う。俺たちは好奇心に負けて、一斉に機体に手を当てた。
六色の光がそれぞれの手の甲に浮かぶ。赤、オレンジ、黄、緑、青、桃色。何が起きているのか、さっぱりわからない。確かなのは、この胸の高鳴りだけだった。
光に目がくらんでいる内に景色が変わって、俺たちはコックピットらしき部屋の中にいた。
大きなモニター。メカニカルな操縦席。アニメや漫画でしか見れないような内装。なんて素敵なんだろう。大きな期待と高揚感に心が踊る。
操縦席はグレーで、底辺がない二等辺三角形の形をしていた――これじゃただの二等辺だ。ボタンやレバー、小さなモニターが多数ある。部屋の奥には大きなモニターがあり、そこから外の世界が見えた。なるほど、この画面はロボットの目の役割をしているらしい。
俺たちが適当に座ると、机に文字が浮かび上がってきた。
操縦席の卯乃は薄い白色で
小林は深い青色で
浜田は明るい黄色で
柴田は澄んだ桃色で
丸山は白の線とオレンジ色で
康弘は鮮やかな赤色で
俺は深い緑色で
それらの文字は眩い光を放ったあと、徐々に色を失った。
「な、なんじゃこりゃ……」
隣に座った康弘が感嘆の声を漏らしている。
凄い、凄いぞこれ!
俺は溢れ出てくる興奮と歓喜の渦に飲み込まれた。
こんなの、本当に漫画やアニメの世界じゃないか。
これから、どうなるのだろう。このロボットで、何が出来る?
巨大な怪獣が現れて町を襲ったり、突然空から降ってきた隕石を止めたり。子供じみてはいるけれど、色々な可能性があってわくわくする。
このロボットが現れてからずっと夢見てきた光景が、現実になるなんて。
「私たちは、選ばれし七人の
地面が少し揺れている気がする。地震だろうか。
二等辺の頂点に座る卯乃が言った。
「だから……」彼女の視線が遠い。俺も、卯乃が見ているモニターの遠いところを見る。
見て、その瞬間息を飲んだ。
「アレを倒すのも、私たちの役目」
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