第4話 アンヌの微笑み
ジャンがリカード伯爵令嬢の誕生会に顔を出すと、執事は少々お待ちください、と言って伯爵を呼びに向かった。
その間、ジャンはトマスの姿を探しながら主人の伯爵が来るのを待った。
小走りに伯爵と夫人がやってくるのを認めると、ジャンはにこやかに頭を下げた。
「今夜はご招待に預かり、ありがとうございます」
そこで遅れてやって来た伯爵令嬢のアンヌを見つけるとジャンはその手を取って絹のイブニンググローブに唇を触れた。
「誕生日おめでとうございます」
伯爵は顔を上げたジャンにわずかに緊張した様子で言った。
「忙しいところアンヌの誕生会に来てくれて感謝する」
夫人も嬉しそうに、よく来てくれましたと言った。
「いいえ、私こそ遅れて申し訳ありませんでした」
ジャンはそう言って伯爵夫妻に頭を下げると、顔を上げアンヌを見て言った。
「踊って頂けますか」
「申し訳ない、ちょっと手が離せない用事があったんだ」
ジャンはアンヌの手を取って広間まで行く間にそうつぶやいた。
「いいんですよ、来るのはもっと遅くなると思っていましたから」
音楽に身をゆだねて踊りながら、アンヌは嬉しそうにジャンに微笑んだ。
「父も母もまさかあなたが来るとは思っていなかったでしょうね」
「意地悪なことを言わないでくれよ」
「そんなつもりはありませんよ、ジャンは人気者ですから来てくれるだけで嬉しいということを伝えたかっただけです」
「トマスにはいくと伝えていたんだが、忘れたんだな」
「ご令嬢たちに囲まれてそれどころではなかったんでしょう」
フフッとアンヌは笑みを漏らした。
「しかしアンヌは相変わらず可愛いな。今日のドレスもその瞳の色に合わせたのか、よく似合っている」
ジャンはアンヌの青い瞳を見ながらそう囁いた。
「ルイーズ様のお見立てです。ジャンはあなたの瞳の色が好きなんですよ、とおっしゃられたので」
「参ったな、でも嬉しいな。それって僕のために着てくれたということだろう」
「それって庶民の言葉では、しょってるっていうんですよ」
ジャンはそれを聞くと声を上げて笑った。
「全くアンヌにはうかつなことは言えないな」
そんな話をしていると曲が終わり、アンヌはジャンにまた後でお話してくださいねとウィンクすると、飲み物を持ってやって来た青年に手を引かれて行った。
ジャンは微笑んで頷き彼女を見送った。
そして辺りを見回し、何人かの令嬢に囲まれて額に汗を滲ませているトマスを見つけた。
肝心なことをアンヌに伝えていなかったトマスをみて、いい気味だ、しばらく放っておこうと、ジャンは飲み物をもらうとテラスに向かって歩いて行った。
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