第3話 伯爵令嬢の宴
明かりが広間をいっぱいに照らし、その下に若い男女が集っている。
そんな様子を眺めながら、リカード伯爵は部屋の入り口で来客の挨拶を受けていた。
夫人のモニカと令嬢アンヌもその傍らでにこやかに招待客を出迎えていた。
ひとしきり来客が途絶えると、リカード伯爵は招待した客に令嬢を紹介し、彼女が十六才になったことを伝えると、お祝いの言葉が来客から令嬢に注がれた。
伯爵の挨拶が終わってしまえば、あとはそれぞれにダンスをしたり、会話を楽しんだりするだけだった。
アンヌの周りには青年貴族たちや貴族の子弟が集まり、あたらめてお祝いの言葉を伝え、ダンスに誘ったり、食事を楽しんだりしている。
伯爵と夫人はできるだけ娘の邪魔にならないように、しかし、来客たちを退屈させないように接待に励んでいた。
そんな伯爵が辺りを見渡して気にしていたことがあった。
招待したはずのある人物が見当たらなかったからだ。
「ロラン男爵のご令息が見当たらないが」
夫人は伯爵のその言葉に首を振った。
「あなた知りませんの」
「何をだ」
「ロラン男爵のご令息は毎夜パーティの招待状を山のようにもらうそうです。上は王族から下は金持ちの平民まで。だからいつ来るかなんてわかりませんし、来られないこともあるのですよ」
リカード伯爵はそれを聞くと、驚いたように言った。
「当代一の人気者とは聞いていたが、それほどとは思わなかった。しかし、それであれば予め行く所を選んで他には断わりを入れれば良いのではないか」
伯爵がそういうと夫人は苦笑して答えた。
「ご令嬢であればそうしたこともできるでしょうけれど、ご令息がそのようなことをするとは聞いたことがありません。招待には応じることにして、行けなかった家には後日、花束と謝罪のお手紙が来るそうです」
「それはなかなか大変だな。人気者もそれなりの苦労があるということか」
「ですからご令息が顔を出した家では、しばらくそのことで自慢話が絶えないくらいですの」
「ウーン、それではあまり期待しないで待つとするか」
伯爵は腕を組んで残念そうにそう言った。
「アンヌも容姿は悪くないし、縁談もそこそこありますが、同世代の令嬢の中では親の欲目で見ても中の上と言ったところでしょうね」
「なかなか女親の目は厳しいな。私にとってはもう少し上だと思うのだが」
ふふ、と夫人は笑い声を漏らした。
「アンヌは少し大人しいですからね。そこが奥ゆかしくて良いところでもあるのですけど」
伯爵はうんうんと頷きながら、楽しそうにしている我が娘に目を細めていた。
「しかし、ロラン男爵の令息、ジャンと言ったか。彼はまだ婚約者はいないのだろう」
「そうですねぇ。先日もどこでしたかお茶会でたまたま男爵夫人とお話をしましたが、本人に任せているので、誰かいれば話すでしょうと笑っていましたよ。でも、婚約したとなれば、王国の令嬢たちの嘆きはしばらくは収まらないでしょうね」
リカード伯爵は、到底想像ができない男爵の息子の話に圧倒され、もはやここに来る来ないを気にしていたことすら忘れてしまっていた。
そんな伯爵と夫人は、会場にどよめく声に何事かと顔を上げ、辺りを見渡した。
そして執事が慌ててこちらに向かってくるのに気が付いた。
「どうした」
伯爵が訊ねると執事は満面の笑顔で答えた。
「ロラン男爵のご令息のジャン・ロラン様がおいでになりました」
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