第8話

「おゎ、、、、」

 感嘆の声を上げる僕の視線の先には、ピンク色の吹雪が舞っていた。

 桜の花が新学期の訪れを告げるように校舎までの道筋を晒しだす。

 校門から校舎への一直線上の道の両端に植えられた桜の木からは、風が吹くたびに花びらが舞い、絵に書いたような光景となっていた。

 薄紅色の花弁に視線が行きがちだが、鼻をくすぐる匂いから、桜の木自体の眠くなるようなあの陽気さが感じられる。

「おら行くぞ。」

 そう言われて慌てて夏樹の後ろについていく。いくら僕にペースを合わせてくれているとは言え、この体で一度離されたらついていくのは大変だ。

 春の日差しに若干の眠気を覚えながらピンクのカーテンを通り抜ける。

「ね〜。でさ、この前打ちの猫ちゃんがさ〜」

「え〜まじウケるw」

「でしょ〜うちのねこ様マジかわいい」

 そのまま歩いていく途中に、スマホを片手に喋り倒している女の子たちが居た。見た感じ新入生なのだろうか、、、入学式に既に喋り倒しているのはかなり肝が座っているような気がする。


 そのまま少し行った先に、見慣れた昇降口が見えてきた。ガラス越しに見える建物の中には、少し色褪せた下駄箱が見える。

 治さん曰く、「既に転入云々の手続きは済ませてある!楽しんでこい!」とのことなので、何も考えずにそのまま夏樹と一緒に靴箱まで行く。

 中に入った瞬間、何人かが僕のことを驚いたような、怪訝な目で見つめてきた。やめて!そんなにジロジロ見ないで!恥ずかしいから!

 そんなことを思いつついそいそと夏樹の影に隠れる。何人か女子がそれ見てすごい表情をした気がする、、、

 心臓は既に緊張でおかしいくらいに音を立てているがそれを悟られぬよう、さっさと終われと思いつつ急いで靴を履き替えに行く。

 人差し指を靴と足の間に差し込み、その足を後ろに引くようにして靴を脱ぐ。

 僕は右からいつも靴を脱ぐのだが、人によって変わったりするのだろうか?なんて考えながら、その動作を続ける。

 同じように左手でもう片方の靴を脱ぎ、それぞれ手で踵の部分を持って自分のところに入れようとする。

 自分の下駄箱に靴を入れようとして、突然夏樹に止められた。

「おい、お前そこに入れたらだめだろ。」

 そう言われてハッとする。

 そうだ、僕はいま転校生。このスペースは日暮 夜夢のものであって水元 夜見のものではない。

 つまりいま夏樹が言ってくれなければ僕はここで自らの正体について他の人にバレるところだったのだ。グッジョブ夏樹!

「まだお前の分の下駄箱ねぇんだろ。というかそもそも入学式の日だし、俺等はクラス替えもある。あとでまとめてするときに下駄箱も割り振るんじゃねぇの?ひとまずそれは鞄の中にしまっとけ。」

 そ う だ っ た !

 なぜ僕はこうも物忘れが酷いのだろうか、、、なんてことを思いつつ、鞄の中にしまっておいた上靴と手に持っているものを取り替える。

 そして同時に反対の手で上靴を手に取り地面に落とす。

 そのまま足を入れ、踵を踏まないように指を噛ませる。

 いつもならばなんの思考もないその動作に、違和感を覚える。

 いや、ないとおかしいっていうかなんというか、、、

 体が女の子になったからだろうか。靴のサイズは合っているのだが、なんというか動作そのものが僕の意思に反して非常にゆったりとなる。

 以前とは体の重心が違うため、一つ一つ感覚を確かめているせいだ。下手したら転けそうでちょっと怖い。

「おらいくぞ。父さんから職員室まで連れてけって言われてんだ。とっとと行くぞ。」

 お前は僕の保護者か?と思いつつ先導されながら職員室へ行く。あくまで先導されつつ、だ。これは決して僕の足が遅いからではない。ここで何も水に職員室まで行けば怪しまれるだろうと思って仕方なくしているのだ。何度でも言おう、仕方なくなのだ。

 あとなぜか用務員のおじいちゃんおばあちゃんが温かい目で見てきた。やめて!もう僕のライフはゼロよ!

 その後は万事つつがなく終わった。というよりはさっき言った通り治さんがある程度手続きを終わらせていたので、教師陣とのちょっとした顔合わせだけだった。

「クラスや諸々のことは入学式が終わった後で発表するからね。教室についたあとで転入生の紹介はするだろうから、簡単な自己紹介でも考えておきなさい。」

 と、一年の頃にお世話になったハゲの先生が言っていた。本当は達磨というあだ名が付いていたことまで知っているので、正直一瞬その言葉が口から滑りそうになったときは本気で焦った。

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