第2章 わたしの世界?⑨
先輩には会えなかったが、せめて拾った名刺だけでも返したい。
そう思ったわたしは放課後を待って一階の廊下の突き当たりにある保健室へと足を向けた。
【おやすみ中の人がいます。静かにノックしてね!】
うさぎが人差し指を口にあてているプレートにはそんな言葉が書かれている。
わたしは意を決してコンコン、と二度とノックをするとそっとドアノブに手をかけた。
「うわっ!?」
と、すごい力でドアが引かれてわたしは思わず前のめりに倒れ込んだ。
だれかに覆い被さる形で倒れ込んだわたしが顔を上げると、ポカンとした表情でこちらを見ている
「…………あーーー!!!」
思わずわたしが指を刺して大声をあげると、先輩はビクッと肩を跳ね上げさせた。
「ちょっと大丈夫…!?」
室内から白衣を着た養護教諭が心配そうにこちらに駆け寄って、わたしと先輩に怪我がないか手早く確認した。
「怪我はない?
(雪……? スノー……?)
まさか。
うそ。ほんとに?
どきん、どきん。
奇妙な符合に心臓の鼓動が速くなる。
わたしは先生に大丈夫です、と上の空で返事をした。
「あ、あの、その」
もじもじと手を組み替えながら目の前の先輩は何かを言おうとしていた。
「あ、はい」
「あ、あの………ご、ごめ、」
「ああ………いや、大丈夫です」
図書館でも感じた奇妙などもりのある言葉を、だがわたしはその時は全く気にしていなかった。
だって、先輩は……。
「ごめ」「そんなことより」「ヒッ」
わたしは逃げらないようガシッと先輩の肩を片手で掴むと、ポケットから名刺を取り出した。
折れないよう生徒手帳に挟んでいたのを無理矢理出したせいで生徒手帳がばさりと床に落ちたが、気にしてはいられない。
「このお菓子作家さんすごいですねあの勝手にQR読んですみませんダメだってわかってたけどあんまりにもすごすぎてこの人何者なんですか先輩とお知り合いなんですか教えてください……!!!!」
菓子オタクとしての血が騒ぎすぎて早口で一気に捲し立てたわたしを先輩はふたたびポカンと見上げ、顔を真っ赤に染めあげた。
それから俯いて、ブルブル震える手をゆっくりと肩まであげた。
「え?」
「わた、わ、……わたし、です……!」
「やっぱりーーーー!!!!!!」
「ヒィッ」
その日、魔女から引き離されたわたしの目の前に、季節外れの雪の女王が現れた。
草花菓子店の見習い魔女 あまがさ @cloudysky088
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