第6話 おっさん俺、女子小学生魔法使い(成長後のすがた)と再会する
俺とアオイがダンジョン探索を始めて1週間が経った頃。
次第に顔なじみになってきた管理局員が今日の行き先を聞いてくる。
「あんたら、今日も初心者向けダンジョンですか?」
「そうだ。俺たちはまだ駆け出しだし、油断は命取りだからな」
一攫千金を狙わずに、地道に稼いでいく作戦だ。
ダンジョン探索用のアイテム購入代金のことを考えると、1回の攻略で得られる収入は微々たるものだ。
この前はデスナイトを倒してまとまったお金になったが、普段はそうはいかない。
「初心者向けダンジョンは3箇所ありますが、どれも先客がいますね」
管理局員が、カウンターの奥に置かれた端末を操作しながら言う。
『先客がいる』とは、入れないという意味に等しい。
ダンジョンには、誰かが攻略して帰還し、中に誰もいない状態になるとレアモンスターや財宝が復活するという仕組みがある。
だから、他のパーティが探索中のダンジョンに入っても、価値のあるものは回収済みで、労力や罠を踏む危険に見合わないことが多い。
それに、先に入ったパーティへの印象も悪くなる。後から来たパーティが未探索の場所にあるアイテムを横取りしたという構図になるからだ。
ダンジョン攻略がバッティングしても構わず後から入るパーティはハイエナと呼ばれ、メンバー全員の悪評も広まってしまう。
「危険度『激高』以上のダンジョンでしたら、高ランクパーティでも悠長に探索する余裕はないですし、先客がいてもハイエナにはなりません。いつでも入れますよ」
「冗談言わないでくれ、俺たちが入ったら10歩以内に死ぬ」
イメージとしてはいきなりデスナイトより強いモンスターの群れが殺到してくる感じだ。
「でしたら、今空いているのは危険度『中』のダンジョンですねえ」
「それでも俺とアオイだと厳しいな……もう1人、魔法使いでもいればいいのだが」
「私がまだ弱いせいですね……」
アオイがすまなそうな目を向けてくる。
2人だけのパーティということもあって、俺は次の難易度のダンジョン探索を避けていた。
見返りも大きくなるが、当然危険も大きい。
そして、パーティに入ってくれる3人目の探索者はまだいない。
まだまだステータスが低いアオイのパーティに参加するダンジョン探索者がいないことに加え、初心者を脱した者は大抵どこかしらのパーティに所属している。
「ちょうどフリーの探索者がいないんだ、アオイのせいじゃない」
そのようにアオイをケアした時だった。
女性の局員が俺たちに声をかけた。
「勇者アオイさん……ではなくて、セージさん。パーティを組みたいという探索者が来ていますよ……」
「え? 俺は勇者ですらないんだが。間違いじゃないのか?」
「『ユニークボスを倒したセージ』と一緒に探索したいということで……」
俺は腕を組んで考え込んだ。
初心者パーティがデスナイトを倒したことがちょっとした話題になっていることは知っていた。
だけど、周りから見れば活躍したのは『勇者アオイのパーティ』であって、俺のことなど誰も気にしないはずだ。
俺はアオイと顔を見合わせた後、
「とりあえず、会わせてくれ」
と局員に答えた。
しばらくして、局員は1人の女性を連れてきていた。
とても背が低く、丸い玉の付いた髪留めを付けたショートヘアで、長袖のボーダーの上に緩いTシャツを着ていた。
顔立ちは何だか幼い印象で……えっと、小学生かな。小学生だろう。そう思った。
だけど、出ているところは出ている。やっぱり中学生かな。中学生だろうと思考を訂正する。
「あなたが、セージ?」
「ああ、そうだけど」
「探索者に登録されてから、いきなりデスナイトを倒した。もしかして
急に、真顔でキーワードを問いかけられる。懐かしい単語だ。
奈落の死神――俺がダークコンクエストで率いていたパーティの名前だった。
「えっと、誰だ?」
まさかと思い、記憶に残っている仲間の名前をいくつか挙げる。
そして俺が、
「……ぱせり?」
と呟くと、女性がはにかむように微笑んだ。
「やっぱり、セージだ」
「ぱせり……いや、本物か?」
信じられない思いで、目の前の女性――『多分ぱせり』を見つめる。
はせりはダークコンクエストでパーティを組んでいた魔法使いで、終盤ではトリッキーかつ高火力に仕上がった彼女が頼もしかった。
パーティメンバーとはオンライン上でしか交流したことがないので、女性であることすら知らなかった。
「いやまて、若いというか子供過ぎるだろ……」
あの時から15年は経っている。小中学生の子供がぱせりであることはありえないと思うのだが……。
アオイよりも年下に見える。
「背は低いままだったけど、私は20代、
「マジか……」
見た目が若すぎるにも程がある。合法なんちゃらだ。
子供にしては静かで、大人しすぎるくらいの雰囲気に納得する。
「でも、あの時は小学生だったのか」
「セージが色々教えてくれたから、あのゲームは楽しかった」
そういえば、ぱせりはダーコンの初心者エリアから出たあたりで、モンスターを倒せずに困っていたんだっけ。
それを俺が助けてから、ついてきてくれるようになっていた。
「冒険者登録名『セージ』。本当にセージでよかった」
なるほど、デスナイトを倒したルーキーの名前を見て、同一人物かどうかを見に来たのか。
「また一緒に、パーティを組めたら嬉しい」
ぱせりは囁くような喋り方で、静かに言った。
「あの、すみません」
アオイが遠慮がちに口を開いた。
「2人は昔からの知り合いですか?」
「ああ、昔のゲーム仲間だ」
俺は簡単に紹介した。すると今度は、ぱせりが興味深そうにアオイを見つめた。
「この子が噂の勇者……。事前評価ベリーバッド……セージが見込んだということは、伸びしろがありそう」
「初めまして」
アオイの挨拶に、ぱせりは黙ってこくりと頷いた。
「たぶん、セージの作戦で生き延びた。セージは昔のように強い?」
「俺は適正値は並だ。まあダーコンも初期ステは並だったから、変わらないと言えばそうだと言えるな」
「私は魔法使いスキルを既に取っている。昔セージに言われたように、慎重に。また一緒にパーティを組みたい」
ぱせりのステータスを確認すると、レベル18。俺とアオイよりもかなり高い。
探索者としてそれなりに経験を積んでいたのだろう。
無駄なスキルも取得していないようで、戦力としてはぜひとも欲しかった。
確かに魔法使いがいれば戦術の幅は広がる。
しかし……勇者はアオイだ。
「アオイはどう思う?」
「え、私ですか?」
アオイが慌てたような表情を見せる。
「私は、セージさんが考える通りで……魔法が使える方がいてくださると心強い、ですっ」
「よし。ぱせりがいれば、危険度『中』のダンジョンも行けるはずだ。3人でパーティを組もう」
「やった……。これからまた、よろしく」
ぱせりが嬉しそうに、拳を握った両手を胸の前に持ち上げていた。
しかし、彼女は続けて静かに言葉を発する。
「新参者は、ライバル……ばちばち」
「えっ……?」
言われたアオイも、少し驚いている。
俺は何か波乱の予感を感じつつも、気のせいだと思うことにしてダンジョンへの転送手続きに向かった。
◇ ◇ ◇
パーティ編成の手続きを済ませた後、俺たちはこれまでよりも危険なダンジョンに向かった。
「セージは想像通りの人間だった。あの時のイメージと変わらない」
探索を始めてすぐ、ぱせりが懐かしそうに呟いた。
「いや、年とったから俺おっさんなんだが……」
昔からおっさんに感じていたのだろうか。ダークコンクエストでは自分の年齢と同じくらいの剣士のアバターでやっていたのだが。
そして話を続ける間もなく、すぐに敵が現れた。
ゴブリンの小集団だ。初心者ダンジョンでは多くても2体同時だったが、ここでは片手で数えられないくらいで同時に襲い掛かってくる。
「ぱせり、前衛でぶっぱなしてくれ」
「りょうかい」
「えっ、私が前衛じゃないんですか?」
剣を構えたアオイは意外そうに言った。
「本来ならそうだが、今はぱせりのレベルが高い。先に前に出すんだ」
戦闘が始まると、俺は昔の感覚を思い出していた。
強力な攻撃魔法には『詠唱』という時間が必要だ。ぱせりは前衛にいるので中断されやすい。
しかし、俺のスキルがゴブリンたちを足止めする。
『スロウエリア』
デスナイトを倒して上がったレベル分のスキルポイントで獲得した新スキル。
俺は、ぱせりに向かって殺到する敵をまとめて遅らせていた。
なお、敵からの攻撃を1回だけ無効化する『イージス』は、ゴブリンの集団相手には役に立たない。
「アオイは『スタンアディション』と、『オールスラッシュ』だ」
「はい!」
アオイに指示したのは、攻撃に足止めの効果を付けるスキルと、剣から衝撃波を放って全ての敵を攻撃するスキルの組み合わせだ。
今必要なのは全体に向けた攻撃なので、アオイを後ろに下げても問題がない。
「はあああっ!」
光る衝撃波がアオイの剣から放たれ、命中したゴブリンが次々にすっころぶ。
そして――
「“めちゃでかい炎が敵を飲み込む”――『ファイアーストーム』」
ぱせりの詠唱が完了し、ゴブリンの群れが炎に飲み込まれて、悲鳴を上げながら消滅する。
ちなみに詠唱は、何かを呟き続けていればよく、内容はどうでもいいのだった。
「す、すごい……」
しばらく周囲を焼き続けた炎が消えると、アオイが感嘆の声を出した。
「ナイス連携だ」
「やっぱりセージの指揮が、1番早い」
ぱせりは満足そうに言った。
俺たちはこの調子で、火力担当のぱせりを前に出して危険度『中』のダンジョンを攻略した。
◇ ◇ ◇
ダンジョン探索を終えて管理局で報酬を精算する。
そして帰宅しようとすると、ぱせりもまたちょこちょこと俺たちに着いてきた。
「お、どうしたぱせり。ファミレスでも行くか?」
パーティを組んでダンジョン攻略を終えたのにすぐ解散というのは、味気ないなと気がついた。
「セージは、アオイと家が一緒のようだけど、私も住んでいい?」
「え?」
「え?」
俺もアオイも、一瞬ぽかんとしてしまう。
ぱせりの口から出た話は、飯でも食おうどころではなかった。
まじか。確かに家には空き部屋があるが、俺が女性2人と同居するとなると……。
「うーん、それは……」
「私は大丈夫ですよ」
アオイが快諾する。
「ぱせりさんも一緒だと心強いですし、パーティメンバー同士で話せることもありますから」
「いや、なんか俺はまずいような気がするんだが……」
「私は合法だけど?」
ぱせりがにっこりと口の話を吊り上げた。少し妖しげに。
そうかもしれないが、そういう意味じゃない、と言いたかった。
「まあ、家は広いし……」
「やった。ありがとうセージ」
俺は、自分でも意外なほど断れない男だった。
一緒に住めることを喜ぶぱせり。押しかけられてしまった。
「部屋は空いているんだね。私はセージと同じ部屋でもいいけど」
「俺を惑わすのはやめろ……大人をからかうんじゃあない」
「私、大人で合法だけど?」
「自分の服をめくって腹を見せようとするんじゃあない! やめろやめろー!」
ぱせりと俺はお互いに突っ込みを繰り返す。
さらに、アオイまで混ざってくる。
「わ、私もセージさんと同じ部屋でも、別にいいですけど?」
「アオイ!? なんでぱせりに対抗するんだ!?」
「だめだよ。JKは非合法。私が勝つ」
「何の勝負をしているんだよ!?」
こうしてパーティメンバーが増えていきなり騒がしくなり、俺たちの3人の暮らしが始まることになった。
だが戦力が増えたことで、ダンジョン探索はもう少し稼げる場所でも順調に進みそうだった。
そして、かつての仲間が合流したことで、俺は輝かしい日々が再びやってきたように感じていた。
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