第22話「襲撃-②」
エクレールと散策しつつ熊でも出ないかなー、てか熊って食えるん? なんて歩いてたら、なんかデカい蛇が現れた。
森の木々が芝生に見えたくらいには縮尺狂ってんじゃねーのって異物感。これはエンパイアーステートビルの高さあるわ。
別に爬虫類は嫌いじゃないけど、羽まで生えてんのはちょいキモい。
いや、まさかね? 学園長から《
ま、一応。あそこら辺ってみんな居たとこだし、様子くらい見ますか。
「そんな軽いノリで来たら、大当たりじゃねーかよこんちくしょー。恨むぞ」
ウチはそんなアンニュイを抱えたまま、異形の蛇を見下ろす。
風となり、字の通りに飛んで来ていた。そして空に居座ったまま考えていた。ウチはどうすべきかと。
学園長からヤバい時以外は戦うなと言われてたけど、これは流石にヤバい寄りだよなーというのが心の大部分。
これは全力を見せたら遠ざかってしまいそうとかそんなんじゃない。いや、あの子はそんなんじゃないから。ウチだけはわかってるけど。
「いや、オタ姫に夢中なオタ
そんなみみっちー理由じゃなくて、なんならそれよりもっとしょーもない理由。
単に、
つーか地上じゃ苦戦してるっぽいし、本音言うとそっちに
あ、やば。ちょいモヤって来たぞ? なんだこれ、恋かよ。とっくに捨てたウチの中の女がキュンキュンでトキメキなのか?
「あーキモ。気になるあの子の前で大はしゃぎとか、ほんとわかりやす過ぎか?」
絶賛スプリンクラー中な蛇がまたシャーシャーと騒いでる。
あーもー。うっさいな。
カッコいいとこも見せたいし、ちょいイラつき上がってきたし、憂さ晴らししよっか。
「《
蛇革のタイトなチュニック。エナメルのような光沢を放つニーハイブーツ。同じく黒のアームウォーマー。どちらにもベルトが蛇のように何本も巻き付いている。
「結構ミニで恥ずいんだぞ、ちくしょー。ゴスっぽいつーかもはやバンギャっぽいつーか……」
まったくウチのガラじゃない。嫌いじゃないけど、こういうのを着てる女の子見て、カワイーとはなるけどさ。
自分が着ちゃうのはちょっと違う。見えちゃうってば、こんな丈じゃ。
一人で羞恥のキショダンスを踊っていると、蛇がこちらを視認した。
いや見んといて。そんまま無視しといてよ。
蛇が吼える。地上への無差別な範囲攻撃から、対象への指向性を持たせた攻撃に変わる。
……ま、対象ってウチなんだけどね。
何十本もの激流が放たれ、互いを捻じ上げるようにして一本に
シアンの《
迫る
ウチを呑み込んで赤い濁流となるはずだった水流は、ガラス戸に当たったように、手に当たる寸前で弾かれる。
あ、やべ。地上で戦う下々のこと考えてなかった。結構な量が滝のように降り注いだけど、まぁ上手くやってくれてるかな。
「んー、守るつって被害出しちゃ世話ないよね。風で覆ってみる?」
閃いたウチは、ろくろを回すような手つきで辺りの空気を動かしていく。大気を支配し、その力を方向づける。丸め、尖らせ、練り上げる。
竜巻。小型の──って言っても蛇が入るくらいのサイズだけど──ウチらを中心とした台風の目、風の檻が出来上がる。
「キュアアアアアアアア!」
その蛇体が竜巻に当たったのか、鱗が剥げている。通常の生物じゃないから赤くはないが、断面が痛々しい。
「あー無理無理。そんくらいだとここから出られないし、入っても来れないよ」
観念したのか、蛇はこちらに向き直り一鳴き。
すると羽の先一つ一つから、レーザーのように細い水が飛ばされる。高圧洗浄機とか、工業用のウォーターカッターみたいだ。
あーはいはい、力押しがダメだったから次は手数勝負ね。実にセオリーに則ってる。
シアンもこんなんしてたなーとボンヤリ見ていると、軌道がぐにゃぐにゃと追尾ミサイルのように動き回る。おお、水がサーカスしてる。
うーわアトラクションみてー。綺麗だなーと思いながらも、右手をスライドさせる。
すると横薙ぎの突風が吹き荒れ、迫り来る水のレーザーを全て竜巻へと押し込みすり潰した。
一つずつ相手にするのは面倒なので、まとめて消し飛ばす。風をぶつけて相殺するのは先ほどと要領は同じだ。
「けっこー小賢しい真似するじゃ……ん?」
数十メートルは離れていたはずの蛇の顔が、眼前にあった。
水を囮にしたところで、
「いやー悲しいね。ウチの戦闘IQは蛇以下なのかよ」
迫る大きな牙を、片手で制した。
ブランコを押す感覚で、反動をつけてそのまま押し返す。その大きな身体は下の木々へ突っ込み、土煙をあげながら横倒しになる。
勝ち方がゴリラじゃん。こんなんパワーで押し勝ってるだけだし。
倒されただけでダメージはなかったのか、蛇は再びウチの目線まで上がってくる。
だが、警戒しているのか何も仕掛けない。その虚ろな目でこちらを捉えたまま、舌をチロチロと出している。いや可愛いな。
「君ぃ、ちょい暴れすぎ。──《
様子を窺っていた蛇は自重に耐えられず、ピンと立てていた身体を崩す。こんだけ大っきいなら、そうもなろう。
《無常の果実》が
人にかければその指の一本どころか、心臓の鼓動すら止まる。自らの体重にすら耐えられず骨が折れ、皮膚もボロボロと剥がれていく。
エログロを通ってきたウチもあんまし使いたくはない、だいぶゴアめな技。
「蛇の形しててよかったよ。まだ見られるから。──ん? おおっ!」
地表から何か近づいてくると思えば、既に虫の息となった蛇からの反撃だった。いやガチめにガッツあるなぁ。
けれど、悲しいかな。先ほどまでの水勢は何処へやら。ダムの放水から放水車のホースくらいの弱々しさにダウングレードしていた。
「せめて奥義で葬ろう──ってヤツ? 優しーく、シバいたるかんね」
迫る水を見下ろしながら、右手をあげて台風を創る。
始めは木の葉、小石を巻き上げるに止まっていたそれは、瞬く間に地を、木々を引き剥がすほどに成長する。
雲を巻き込み、天を捻じ曲げ、星を覆うほど風の暴力。規格外の台風を、集めて纏めて、押し固める。要は爆弾だ。
「ま、楽になりなよ。
風の爆弾を眼下の蛇目掛けて、そっと落とす。
それは、苦し紛れの水をあっさりと打ち破り、巨体に炸裂する。
瞬く間に密閉されていた風が解放され、異形の蛇を散り散りに吹き飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます