親切な他人

 いつもは診察→カウンセリングの順番なのだが、この日はカウンセリング→診察の順番だった。

 待合室でぼーっとしているとOさんに呼ばれて私はカウンセリングルームに踏み入った。

 Oさんは今日も穏やかに笑い、椅子を勧めてくれた。

 調子はいかがでしょうと続けて聞いてくれた。


「はい、めちゃくちゃ良くもなく、めちゃくちゃ悪くもなく、ちょうどいい感じかなと……」

「そうですか! いいですね、日常というのはいいことです」

「私もそう思います……ちょっと体がだるい日というか、気分の波? みたいな、以前からの持病である吐き気とめまいが起こる日があったんですが、これは今婦人科で処方してもらっているホルモンに作用する薬の影響もあるかなと」

「なるほど、婦人科さんでの薬……」

「はい。ああえっと、ずっと月経が来てなくて婦人科さんに行ってるんです。あっ、後、前回教えてもらった瞑想なんですが、吐き気とめまいが起こりそうな時に思考を止めて一気に深呼吸するルーチンをすでに組んでいたことに後で気がついて。Oさんに教えてもらう前からやってた! って」

「すでにやってらした! そうですかそうですか、いいですね、自分の体のために色々と行えるのは良いことです」

「はい! いやまあたまに瞑想をぶっちぎってめまい吐き気起こっちゃうんですけど、まあそれはそれっていうか……これからも瞑想は続けていこうかなって」


 私はこの辺りで結構自分に「どうした?」と思っていた。なんていうか、めっちゃ喋ってしまったのだ。色々な話が口をついて出てくるし、うんうんと微笑みながら聞いてくれるOさんがいるだけで心がほぐれるような気がした。

 ふと思い出した。

 島本理生先生の「ファーストラブ」だったと思うが、カウンセリングは「親切な他人をお金で買うこと」と書かれてあった。実際の文章は違うかも知れない。でも大体のニュアンスはあっていると思う。

 親切な他人……。

 私はOさんを見つめ、また口を開く。


「あの、今日は……商業出版や、それに関する執筆とか……悩みとか、ぼやきとか、なかなか他の人に話せないようなこと、聞いてもらってもいいでしょうか……?」


 結局私のいちばんの悩みってこれなのだ。商業。商業出版。ありがたいことに書籍化していただき、その後もWEB連載契約をしていただいた。二冊目についても全くの白紙では一応なく、見掛けたコンテストには応募して一次選考は通らせてもらったりはしている。

 でも、なんというか、当たり前だけど大変だ。

 ぼーっと書き続けてきて運良く書籍化した私に足りないものは覚悟とか信念とか矜持とか、小説執筆に対する貪欲さみたいなものだったりするのかも知れないと思うのだ。


 Oさんは私の葛藤を包み込むような笑顔を向けてくれた。


「どうぞ、なんでも話してください。小説の方のお仕事、どうなんでしょうか?」


 優しい声色に頷いてから、私は商業小説について語り始めた……。


 詳細は割愛である。ズコー!で申し訳ないが、割愛である。何せ本当にずっと弱音や不安について口にしていた。不特定多数の読者さんが訪れるカクヨムに記すにはとにかく恥ずかしい。

 それにやはり、親切な他人であるOさん相手だからこそ吐露できた部分がある。

 言ってしまえば「迷惑をかけても良い」と思えるのだ。何せOさんは全身全霊で相手をしてくれているが仕事だ。悩みも愚痴も聞いてくれるし、相談内容によっては瞑想のように確立されている方法を提案してくれたりもするし、非常に親切だ。でも他人だ。

 だから私は家族や友人に話せないことを口に出せたように思う。


 あらかたの思いを話し終わった私は少し落ち着いていた。

 Oさんは全て聞いてくれた。穏やかな雰囲気と声色に癒しや安堵を感じながら、私は心の中で一つだけ謝った。


 すみません、Oさん。

 あなたとドクターのボイズラブを妄想してしまうことだけは、この先もどうしてもやめられないと思います……。


 もし書いちゃってカクヨムに載せ始めちゃった時は私のことを○してください。

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