初の対面メンタルクリニック
遂に受診の日がやってきた……。
けっこう緊張していた。何せ今まではオンライン、しかもろくに指名もしていなかったのでドクターはランダム。
これからは同じドクターにかかることとなる……。
もしも合わないなと感じたら病院を変えたほうがいいだろうし、その場合通えるところは限られているので慌ただしく探す羽目になるだろう。
いいドクターですように!いいドクターですように!いいドクターですように!
祈りながらやってきた。
Sクリニックは路地に沿って静かに建っており、私を無言で迎え入れた。
「あ、あの、予約の……初診の……草森です……」
ドキドキしながら受付する。看護師さんたちはみなさん朗らかである。この時点でちょっとだけ肩から力が抜ける。
いいところみたいだ……。ほっとしつつ待合室で姿勢を正して待っていると、初診だからはじめに詳しい病状を教えて欲しいと看護師さんに呼ばれた。
案内された別室で問診票を書いた。胃もたれから始まり、不眠になり、消化器内科とオンラインメンタルクリニックにかかり、アコファイドもベルソムラもまともに効かず……。
恨み言を書き連ねた日記のようになった。恥ずかしいと思いながらもこれが今の私のありったけの不調。
意を決して手渡した。それを笑顔で受け取った看護師さんは、読みながらぱちっと目を丸くした。
「寝る前に睡眠薬を飲み、午前四時に起きたときにも飲んでいたんですか?」
「はい、そう言われて」
「これ、辛くなかったですか……!」
「えっ……あっ……辛かったです!!」
思い返せば寝る前にデエビゴ1錠、午前四時にもデエビゴ1錠、合計2錠を放り込んだ状態で、九時頃には労働を始めていた。もうめっちゃフラッフラだった。あれはやはり、午前四時に飲んだ睡眠薬の効果がずっと体に残っていたからなのだ。
看護師さんはたいへん親身になってくれた。胃もたれについても優しく労ってくれて、何も食えなかったあまりに体重が七キロほど減ったことも辛かったでしょうと言ってくれた。
なんかもうこの時点ですごい満足を覚えていた。
もしもドクターと合わなさそうだったとしても、この優しい看護師さんがいるならここに通えると心の底から思った。
来て良かった……とうっとりしていると名前を呼ばれた。
まだ診察してなかったんだったわと焦りながら診察室に入り、準備されている椅子に座った。
大きなモニターを机に置いた男性医師がそこにはいた。
口元に浮かべた笑みがなんだかニヒルなドクターで、T先生というらしかった。
「草森さん。えー、主な症状は不眠」
「あ、はい……」
「オンラインのメンタルクリニック? 最近はそんなのもあるんだねえ。僕もやってみようかな」
ニヒルに笑ったたままぼやいていた。暖簾に腕押しというか、ぶん殴られて鼻血を出しながらも微笑んでいそうな気概を感じるため、なんとなくオンライン診療では人気が出そうだ。
などと考えていると、そのままオンラインでも良かったのではと言われた。
金がかかり過ぎたのだと説明してから、私は自分の胸元に手を当てた。
「あの、それの他に……そろそろ病名が欲しくて」
そう、この時の私は病名が欲しかった。早朝覚醒と機能性ディスペプシアという病名、症状名はあったけど、なんというかこのずっと続いている不眠と胃もたれを筆頭にした異様な不調に説明をつけて欲しかった。
T先生は途中のページを開いた本を渡してくれた。
心身症という症状について書かれたページだった。
「心身症……」
「ええ。まだ初診なので断定はしませんが、とりあえずの病名が欲しいと言うのであればこれです」
「は、はい……」
「睡眠障害についてのガイドブックもついでにお渡ししますね」
睡眠障害用の本をもらった。ちょっとパラパラ見てみたが、睡眠記録をつけるページなどもあって良さそうだ。
鞄に入れてから改めてT先生を見る。
先生は私の問診票に視線を落としたあと、胃もたれ、と言いながらこちらを向いた。
「アコファイドは効かない?」
「はい、ぜんぜん効いてません」
「じゃあこれ、スルピリドを飲んでみますか」
「スルピリド」
「ええ、精神薬でありつつの胃薬です」
「の、飲んでみます」
T先生は頷き、オンラインで処方してもらっていたミルタザピンと消化器内科で処方してもらっていた半夏厚朴湯を一緒に出すと言ってくれた。
この後に次回の予約を取った。診察終わりで予約を取れるのはありがたいなあと思いながらシフトを見て、次回をしっかり取り付けた。
「お大事にしてくださいね」
部屋を出る直前、T先生はニヒルよりも優しい寄りの微笑みで見送ってくれた。
私は会計し、真横にあった薬局で薬を処方してもらい、帰宅してから初めましての薬を眺めた。
スルピリド。
アコファイドからこの薬に変えたことにより、結果としては食事がそれなりに摂れるようになった。
でもいいことばかりじゃないのがあっちこっち診療日記。
スルピリドが一因となり、私はまた違う診療科にも行くことになるのである。
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