エピローグ③誰かのブログ
お久しぶりです。入院生活にも慣れてきて、精神の方もだいぶ落ち着いて来たと思います。まず初めにご心配おかけしました。申し訳ありません。文章を書くのは苦手で、読みにくいかと思います。しかし、事件があってからごたごたしてしまってファンの皆さんにちゃんとお別れを言えずに事務所を辞めてしまったことが心残りだったのでこうして病院のベッドからで申し訳ないのですが発信をしたいと思います。少しお付き合いください。
私がアイドルを目指した理由は、彼女の夢を近くで応援したいから、彼女の側に居たいから、と言う不純な動機からでした。彼女は中学時代、友人がおらずクラスで浮いていた私に声をかけてくれました。誰からも愛されていないと思っていた私は、きっとその時から彼女に惹かれていたんだと思います。優しくて可愛くて、不器用で、私の知っている彼女は完璧では無かったけど、私の知る限りでは一番魅力的な少女だったと思います。
私は私が嫌いでした。だから彼女と再会をし、彼女の夢を知った時、自分はどうなっても良いから、見返りなどなくても良いから、彼女の為に生きたいと子供みたいな夢を持っていました。
彼女はとても魅力的で誰よりもアイドルに向いている筈でした、しかし、彼女が向いているアイドル像と、彼女がなりたかったアイドル像がズレてしまっていて彼女はオーディションに苦労していました。事務所を辞めた今だから言ってしまうけど、あのオーディションで彼女は本来不合格のはずでした。何故か私をすごく気に入っていた事務所の社長に私が彼女とセットにする事を条件に事務所に入ると交渉した結果、二人でアイドルになりました。当時それが彼女の為になると思っていたのです。
親は私を理解してくれないから、親でさえ私など愛していないから、だから私は彼女に依存していた。でも今思うと私がただ子供なだけだったんです。両親は言葉選びは私と似て下手だったけど、いつも私を心配してくれていました。私がアイドルになると言った時、強い言葉で否定されました。しかしそれは成功するかどうか不安定な世界に娘を入れたく無いと言う一般的な親の愛だったと思います。オーディションに受かったことを彼らに伝えると、父はようやく私がアイドルになることを認めてくれました。悲しそうな顔で「本当にそれがお前のやりたい事なのか。」と言われた事を思い出します。正直言うと、アイドルになりたい訳ではなかった私にはきつい言葉でした。アイドルになってから嫌な思いをすることは沢山ありました。かつての同級生にありもしない事を広められて炎上したり、SNSでラインの超えた誹謗中心を受けたり、より沢山の人に嫌われました。そんな時、彼女が率先して私を庇ってくれて、私はより彼女に依存しました。自分の味方は彼女しか居なかったのだと。
それが勘違いだったと知ったのはあの事件の後でした。私が入院したと知った両親はすぐにお見舞いに来ました。二人とも泣いていました。母はずっと私を抱きしめていました。後で知った事ですが、両親は特典会には参加してなかったので気づかなかったけど、グループの節目のライブにはかならず足を運んでいたそうです。それを知り私は彼らに申し訳なくなりました。もっと彼らと会話をしていれば良かった。もっと彼らに相談すれば良かった。後悔が止まりません。
彼女に夢を叶えてほしかった、彼女に幸せになって欲しかった、彼女の側に居たかった。しかし今となってはただ彼女に生きていて欲しかった。聞いた話によると犯人の狙いは私だったようです。彼女は愛される人間で私は嫌われるような人間だったから結構納得しました。私が彼女とアイドルになった事でアイドルの私を気に入らない人間が事件を起こしたとなると事件の要因は私と言うことになります。今は親のことを思うと死んだのが私だったら良かったなんて言えないけど、事件当時はそう思いました。今は頻度は減りましたが、入院当初はあの悲劇が何度も何度もフラッシュバックして下品な話嘔吐していましたし、看護師が目を離したすきに壁に頭を打ちつけて死のうとしていました。今でもたまにそういう気持ちになったりします。
私は男性の平均身長よりも背が高く、彼女に近づく厄介なファンなどは睨みつけると去っていきます。だから私はよく彼女を自宅まで送り届けていました。彼女を守る騎士のつもりになっていました。しかし事件の日、包丁を持って走ってくる男に私は恐怖で動けなくなりました。本当の脅威には私は手も足も出なかったのです。彼女は私を庇いました。彼女だって包丁を持って襲いかかってくる男は怖かったはずなのに。私は何もできない無力な存在で彼女は私なんかよりもずっと強くて、私なんかが彼女を守ろうと思っていた事が今は恥ずかしいと思っています。
私はコンビニでバイトしている時に彼女と再会すべきでは無かった、店を出ようとする彼女に声をかけるべきでは無かった、彼女の夢を知るべきでは無かった、彼女とオーディションを受けるべきでは無かった、彼女とアイドルをすべきでは無かった、彼女にだけ依存せずに周りの人間を信頼するべきだった。意味のないたらればです。私は彼女と再会し、声をかけ、一緒にオーディションを受け、アイドルになって彼女に依存した。私のした数多の選択の結果、私は彼女を失いました。
私の彼女への想いは綺麗なものではなく濁りきっていて歪んでいた、私は手遅れになってからやっと全てを理解してしまった。
ごめんなさい。私の気持ち悪いエゴに皆さんを巻き込んでしまって。私は誰かに応援されるような価値のある人間ではありませんでした。
今まで応援してくれてありがとうございました。心配してくれてありがとうございました。それはそれですごく嬉しかったです。
最後に、私の事はどうか忘れてください。もう表舞台に出る事はありません、貴方達の見えないところでひっそりと生きていきます。でも彼女の事は、ルリと言うアイドルがいた事は永遠に覚えていてほしいです。
これでお別れです。短い間でしたが、本当にありがとうございました。さようなら。
BLUE ECHO 鯨井涼介 @kujirairyosuke
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