第20話 年功序列と成果主義
異動してきた副主任にモヤつく事が多い。
30代前半ぐらいか?若くして副主任という管理職に就いたんやから、自分に自信があるかもしれん。
50代でなんにも役職を持たない私の事を、いちいち、あれこれと言ってくる。
同じ部署ばかり長くいちゃいけないだとか。
もっと、リーダーシップを発揮して、スタッフを先達してほしい・・・とか。
副主任としては、指導のつもりかもしらん。
私よりも長くいるスタッフも、こんなことぼやいていた。
「うちの部署のやり方に固執してる、みたいに言われたんですよ。」
「そんなに、変えたいんかねぇ?」
「画期的なやり方なら、まぁ、こっちも納得したりするんですけど。
ナーンか、今の方法のマイナーチェンジじゃね?と感じちゃって。」
そう、そうなのよ。スタッフは、あんまり困ってないかもしれないのに。
副主任は違うのよね、事を大きくしているというか、重箱の隅を突くというか。
とにかく、お一人で張り切りこいていらっしゃるんだが、見ていて一人ピエロみたいでおかしい。
確かに、長くいることの弊害もある。経験年数が長い人の意見が、自然と幅を利かせたり。若いスタッフは、意見があっても採用されなかったり。
副主任は成果主義派。成果を上げてなんぼやから、病床数稼動率とか超過勤務時間削減とか、数字に直結するものを重視する。
数字重視は管理者としての姿勢でええのよ。
ただ、成果主義だけを正解にしないでぇ〜、と反論したい。
管理者だから、コスト削減も大いなる課題。昨今は病院閉鎖も増加しているし、病院として経営が成り立たないというのも理解しているつもりだわさ。
消耗品の使用について、うるさく言われるのもわかっているつもり。
ただし、この標語には辟易した。
【一回で成功しよう!採血と抹消静脈針】
抹消静脈留置針や真空採血管の、無駄使いはやめましょう!1回で成功させるのは、患者さんのためです!
かーっ、こっちかて、好きで無駄うちなんかしとらんワイ‼️
第一、病院きて点滴やら注射💉受ける患者なんて、産婦人科や小児科やないんやから、9割は高齢者なんやい。
皮膚はカサカサ、弾力のない血管ばかりや。
あー、あかん。ビールチャージ🍺
おタケさん、急いで。
「はい、お待ち。アライちゃん、荒れてるわね。」
「異動してきた副主任。コスト、コスト口うるさく言うけど。」
「病院も大変ねぇー。」
「副主任が採血3回も失敗して。その採血、結局私が代わりにとったんやから!」
「お見事。」
「針のムダ使いするないうなら、自分の技術も磨いてほしいわ。」
私は、今働いてる病棟で古株やけども、入院してきた患者さんと世間話しながら、腕の血管やら症状やらを観察しとるんだい。
傍目からは仕事サボっとるように見えるんかもしらんけどさ。
年功序列の世界で、手抜いとるみたく思われるんのも癪やな。
副主任の採血フォローかてしとんのに。
「その経験も、アライちゃんの身になってるのよ。」
うーん、そうかなぁ。
おたけさん、今日のあては?
「とっても身につく、豚の角煮。」
身につくものが贅肉だなんて、嬉しいやら悲しいやらだわい。
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