こわくても
ルティには、トトしかいなかった。
トトだけがルティとカティを見分けて、ルティを守って闘ってくれた。
トトだけを信じて、トトだけを愛してきた。
一度、捨てられただけでも衝撃だったのに。
二度めは、こわれる。
「…………むりだ…………」
自分は、勇敢だと思ってた。
ぴんちの時には立ちあがれる。
卑怯なことなんてしないし、敗戦確実だろうと決死の覚悟で闘えると。
でもほんとうに窮地に立たされたら、足がすくむ。
指がふるえて、こわくて、声が出ない。
──……ああ、じぶんは、ほんとうは弱くて。
トトにかっこわるいところを見せたくないから、頑張ってこられたんだ。
そのトトがいなくなってしまったら。
弱い自分が、たちのぼる。
「……トト」
こんなにも、依存して
こんなにも、頼って
こんなにも、だいすきで
絶対、伴侶になるんだと思ってた。
ぜんぶ、自分のひとりよがりだったなんて
こわれる
茫然とルティは砦を見あげる。
最後通告を聞きたくなくて、よろめくようにきびすを返した。
「え、兄ちゃん、帰っちゃうの? 来たばっかりなのに?」
帰りの馬車に乗ろうとしたら、御者のおじさんにあんぐりされた。
「……なんか、気後れしちゃって……」
…………もう……いい…………
カティのところに行く。
泣いてなぐさめてもらおう。
ちいさな手を、おそろいの手を、離れたことなんてなかった手を思いだしたら、泣けてきた。
うじうじして、後ろ向きで、みっともなくて、情けない。
そんな自分がいるなんて、知らなかった。
恥ずかしくて、情けなくて、ちいさくなる。
だらしないとか、勇気を出せとか、根性見せろとか糾弾されてしまう人たちの気もちが、ようやくわかった。
だって、拒否されたら、こわれてしまう。
何もかも、お終いになってしまう。
ふるえる指をにぎりしめるルティに、おじさんは眉をあげた。
「彼氏でも追いかけてきたのかい」
「……え……?」
思わず、ルティは顔をあげていた。
「そういう顔をしてる。乗合馬車をやってると、色んな人たちを乗せるんだ。色んな人生を乗せる。
輝く笑顔の人もいれば、亡くなった人を乗せて故郷に帰ることもある。駆け落ちの人もな。
色んな人がいて、色んな人生があるんだ」
おじさんは、微笑んだ。
「ぜったい後悔するんだ。後悔しない人生なんて、ない。どうあがいても、失敗も恥も山になる。
だから思いっきり、やりたいことを、やりなさい」
ルティの頭を、ごつごつの手が撫でてくれる。
「年長者からの、おせっかいだ」
しわの目じりで、笑ってくれた。
恥ずかしいし、情けないし、ふるえるし、捨てられたら、こわれる。
それでも、ここでトトに逢えなくて、他の男に走っても、トトを忘れられない。
絶対、後悔する。
わかっているなら、こわくても、前へ。
捨てられて、くだけても。
また、ひろいあつめて、立てばいい。
生きてるかぎり、何度だって、やり直せる。
何度だって、立ちあがれる。
そう思って、王都を出てきたんだ。
もう一度、あなたに逢うために
ふるえる指で、ルティは目をぬぐった。
「……ありがとう。俺、いってきます!」
あたたかな手が、背を叩いてくれる。
「がんばれ!」
ごつごつの手をあげて、笑ってくれた。
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