おにいちゃん




 よろめきながら、ルティは腕のなかに飛びこんできた人に目をみはる。


「カティ?」


「クヒヤ殿下に、何か言われたの!?」


 ぴんくの瞳が、心配に揺れている。

 おそろいのぴんくの髪をなでたルティは、首をふった。


「俺が無礼を働いたのをゆるしてくださったんだよ」


 ぽかんとカティが口を開けた。


「……無礼? ルティが?」


「ちょっと間違った。失礼なことしちゃった」


 ぴんくの瞳を瞬いたカティが、ルティの頭を慰めるように、なでてくれる。


「ルティでもそんなことあるんだね」


「山ほどあるよ」


 ほんとうはめちゃくちゃ緊張していたのだろう、ようやく肩の力がぬけて、カティと笑った。



「ルティがお使いから帰ってこないから『トトといちゃいちゃしてるんだろう、連れ戻せ、夕飯が作れない』って、おとうさんがおこだよ。探しに来たら、クヒヤ殿下と話してるから、びっくりしたんだ」


「そっか、ごめん」


 首を振ったカティが、ルティを上目遣いで見あげる。



「……クヒヤ殿下、何か言ってた?」



「何かって?」



「……僕のこと」


 ちいさな、消えてしまいそうにちいさな声に、ルティは目をみはる。



 ──ああ、これは、もしかしたら


 きっと、カティは──……



「本人に直接聞くといいよ」


 ふうわり、笑った。



「……いじわる」


 ふくれたカティが、ルティの頬をてのひらでつつむ。



「また僕に似てるからって、声を掛けられたの?」


「いや、こんな下町にいるから、びっくりして『クヒヤ殿下』って口にしてしまったのは俺なんだ」


「そうなの?」


 ルティは自分とおそろいのぴんくの瞳をのぞきこむ。


 そっと、告げた。



「クヒヤ殿下は、俺とカティを間違えなかったよ」


 カティが息をのむ。



「……ほんとに?」



「全然ちがうって」


「……そっかあ」


 カティの声に、喜色が混じる。



「俺も、うれしかった」


 微笑むルティに、カティの唇がすねたみたいに尖る。


「……も?」


 ふくれるカティの頬が赤くて、つついたらカティは吹きだして笑った。



「も、だろう?」


「そうかもしれないね」


 カティの耳がほんのり朱くて、ルティは笑う。



「お使い、まだなんだ。手伝ってよ」


 カティの手をひいたら、ぴんくの眉がさがった。


「僕が行くと、皆、タダにしてくれるから、わるいなって思うんだよ」


「……ほんとに思ってる?」


「ちょっぴし?」


 ふたりで笑って、手をつなぐ。




 こうして肩を並べて歩けるのは、あと少しなのかもしれない。



 大人になって、大すきな人ができて、伴侶ができて、魔法で子どもに恵まれたら、どんどん離れてしまう。


 だからこそ、今はこんなにきらめいて。


 夕陽に染まるカティの笑顔が、沁みてゆく。




 つながる指があたたかくて、ふたりで歩いた。


 生まれたときからずっと一緒だった、かたわれ。


 喧嘩ばかりだったけれど、離れる日は、そう遠くないのかもしれないと思ったら、カティの笑顔に泣きたくなった。




「どうしたのー、ルティ!」


「抱っこして」


 腕をのばしたら、笑ってくれる。



「はいはい」


「はいは、1回でいい」


 ふくれるルティを、抱きしめてくれる。



「はいはい、いい子いい子」


 ちいさな手が、頭をなでてくれる。



 カティはいつだって、ルティの、おにいちゃんだ。





「おお、カティとルティじゃないか!」


「一緒にいるなんて、珍しいな!」


「おまけしてあげるから、買っとくれ!」


「カティとルティに食べてほしくて、新作のお菓子だよ!」


 皆の元気な声に呼ばれて、両手がもらいもので、いっぱいになってゆく。



「カティまで帰ってこないじゃないか! 夕飯ができてないと、かあさんが泣くだろう──!」


 走ってきた父に笑った。




 ずっと、ずっと、こんな日が続くと思っていた。


 明日は今日の続きで、変わり映えはしないのだと。




 それが幻想だったと、わかるのは



 明日は、まっさらな日で、今日を撃ち倒すこともあるのだと気づくのは




 すべてが崩壊したときだ。












────────────────


 ずっと読んでくださって、心から、ありがとうございます!



 カティがご不評みたいで(笑)どきどきしていたのですが、めげずにずっと読んでくださった、あなたさまに、感謝の気もちでいっぱいです。



 ハッピーエンドしか書かない人なので(笑)もだもだしつつ楽しんでくださったら、とてもうれしいです!



 商用フリーAIくんが頑張ってくれた絵をインスタにあげています。@siro0088


 https://www.instagram.com/siro0088/




 え!? みたいな楽しい絵も作ってくれるので、出てきたらせっかくなので、掲載してみることにしました!(笑)



 とりあえず井戸に嵌まっている(笑)トトとルティをあげてみました(笑)



 おまけの絵も一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!




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