カティは相変わらずクヒヤ殿下を避け、ハーレム造成に邁進しているようだった。


 ちょこっと『クヒヤ殿下いいな♡』と思ったかもしれないが、やはりきらきら男ハーレムには勝てなかったらしい。



「カティ♡」


 コタ王子のカティを呼ぶ声がとろけてゆくたび、今日処刑か、明日処刑かと家族で抱きあって、ぷるぷるしてた。





 ココ王立学園がお休みの日の昼下がり、下町にある質素な家の扉を叩いたのは、水の王子だった。


「こんにちは、はじめまして。クヒヤ・ヌ・トロテと申します。トロテ王国第二王子です」


 胸に手をあてた、真白な衣をまとう王子が、とろけるような笑みで告げる。


「カティの伴侶として、ごあいさつに参りました」



 …………………………。


「…………え…………?」


 家族皆で、ぽかんとした。



 まるきりクヒヤに捕縛されて連行されているのは、カティだ。



「え、え……!? カティ、どうしたの──!」


 カティのぴんくの目が、泳いでる。



「……何のイベントも起きないように、めちゃくちゃ避けたんだけど、なんか、それがよくなかったらしくて……」


「僕になびかない男がいるなんて、信じられなくて。追いかけたのなんて、初めてです。つかえまらえて、うれしいよ、カティ」


 ぎゅむりと抱きしめられたカティの、ぴんくの目が遠い。



「……だ、だいじょぶなのか、カティ」


 あわてて駆け寄るルティに、カティのぴんくの瞳がさまよった。



 ちょこっとクヒヤ殿下がいいなと思ったにしても、やっぱりハーレム狙いじゃなかったの……!?


 いや、そっちに行くと処刑だけど……!


 心配する家族に、カティはもごもご呟いた。



「……僕が他の男となかよくしても、皆、ゆるしてくれるんだよ。カティは可愛いから仕方ないねって。カティは皆のものだからって。……それってさ、僕のこと、皆と共有できるくらいしか、すきじゃないってことだよね」


 ちいさな指が、ちょこんとクヒヤの袖をにぎる。

 涼やかなクヒヤの顔が一気にとろけて、カティをぎゅうぎゅう抱きしめた。



「ああ、カティ、なんと愛らしい……!」


 カティの髪に顔をうずめて、ちゅっちゅしたと思ったら、すうすうしてる。


 ……嗅いでる……!



 まあぴんくの髪の主人公なだけあって、カティは髪も肌も、ものすごくいい匂いがするので、気持ちはわかる。わかるが、家族の目の前で嗅ぐなよ……!


 ドン引きする家族の前で、カティはほんのり朱いまなじりでつぶやいた。



「クヒヤは僕のこと、すごく、すごく愛してくれるんだ。『他の男と共有するのなんて絶対いやだ』『カティは誰にも渡さない』『僕以外を見ないで』『愛してる』『ずっとそばにいて』『いてくれなきゃ死んじゃう』って──」


 最後のは、かなり危ないと思うよ、カティ──!



「僕、こんなに愛されたことなくて、ああ、これが愛なんだって……」


 ほだされてる!


 ほんのこの間までハーレム希望だった、ぴんくの髪の主人公全開だったカティが、ヤンデレに、だまされてる──! いや、愛されてる……?



「僕の最愛の推しは、クヒヤだったんだよ。顔も性格も大すきだし、こんなに愛してくれるなら、僕……♡」


 ぴんくの髪の主人公なのに、攻略対象に、陥落させられてる!



「……あ、あの、カティ、ほ、ほんとに、いいのか……? 後悔しない?」


 心配で聞いたルティに、カティは笑った。



「するかもしれない。後悔しない選択なんて、存在しないのかもしれない。

 ああすればよかった、こうすればよかったって、いつも思うよ。でも選んだそのときは、自分は一生懸命だったんだよ」


 ぴんくの髪が揺れて、カティのおでことルティのおでこが重なった。



「がんばって選んで、間違ったら謝って、後悔をたくさんして、傷ついて、泣いて、それでもやさしい光のほうへ向かおうと踏みだせることを、しあわせっていうんだよ」


 おそろいの顔で、笑ってくれる。



「僕は、しあわせだよ。これからも、ずっと」


 いつも隣にいてくれた、大切なかたわれの腕が、抱きしめてくれる。




「ルティも、しあわせになってね」



 世界でいちばんのしあわせを分けるみたいに、笑ってくれた。








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