葉山、スマホを見る。
ブウウウウウン……
車内の会話がひと段落して、車が走りだす。
……あー。
早く奈美のもとへ帰りたい。
そんな切なる願いは叶えられる気配もなく、俺はただ、どこへ行くともわからぬ車に揺られている。
奈美は……今、どうしているのだろう。目の前から突然、彼氏が消えたのだ。動転しているはずだ。あぁ、どうにか、奈美にすぐ帰るからと伝えたい。そして帰りたい。
――外の空気を吸いたくて、窓から身を乗り出してみる。焦げ臭さに後ろを振り返ると、薄い火煙と、爆発した建物の残骸が遠ざかっていった。
結局なんだったんだろうな、あの場所……。
わからないが、夜風が熱った体を撫でて気持ちがいい。
窓から身を戻すと、隣に座るレーナさんが話しかけてきた。
「ハヤマはさ……見たところ戦闘に慣れてなさそうだけど、どんな世界から来たの?」
「あー……そうですね、俺のいた世界はこの世界とかなり似てますよ。車はあるし、拳銃もある。服とかも…… 軍服着てる人はほとんどいないけど、文化とかは多分、似てるんじゃないかな。でも魔法はないです。魔石もない。……そうだ、この世界には『コンピューター』ってあります? スマホとか。スマートフォン」
「なにそれ〜美味しいの〜?」
助手席からマリアちゃんが振り返った。隣を見ると、レーナさんも首を横に振っている。コンピューターもスマホも知らないようだ。
スーツのポケットからスマホを取り出した。
「これがスマホ。離れた場所にいる人と話ができたり、誰かと連絡を取れたり、膨大な情報の海から調べ物ができたりします。今は…………圏外だから全然使えないけど」
「へぇ……不思議ね」
マリアちゃんもレーナさんも身を乗り出して、スマホに興味津々のようだ。
「すっごく便利なんですよ。あっちの世界ではほとんどみんな持ってる。コレなしじゃ俺、生きていけない」
「お前、そんな薄っぺらいもんに命握られてんのか」
ジョンソンがスマホをチラッと横目で見て笑う。
……ムッ。
だが反論できぬ。
あんなにお世話になったスマホも、この世界では使えなさそうだし、充電はあと半分残っているが、それが切れたらただの鉄屑だ。
――暗い車内で青白く光る、スマホの待ち受け画面を眺める。
バグってしまったのか、時計の数字は「19:45」から動かない。
固まった数字を睨む俺を、画面の中から、奈美が笑いながら見つめてくる。それは両手でサンドイッチを持ち、カメラ目線であーんと食べようとしている、子供みたいに無邪気な顔をした奈美。
ピクニックデートの時に本人に頼まれて撮った写真だ。撮ったあと、その場で強制的に待ち受けに設定させられて以来、俺はスマホを見るたびに、彼女と見つめ合っている。
「……この写真の女の人は?」
俺の視線に気付いたのか、レーナさんが指差した。
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