葉山、元気を出す。

「奈美。俺の恋人です」


 答えると、マリアちゃんが目を輝かせた。


「え〜! ハヤマさんの彼女〜!? めっちゃ美人じゃん〜!」


 そうでしょう! マリアちゃんはお目が高い!


 奈美は美人だ。みんなそう言う。俺もそう思う。自慢の彼女だ。


「……そうなんですよ。こんな美人な彼女に、俺、プロポーズしてたんです。そしたら返事を聞く前に、突然この世界に召喚されちゃったんですよ。ひどい話でしょ」


 つい、嫌味と恨みをこめて言ってしまった。でもこのくらい愚痴ったって、許されるよな?


 ちらりと横目で隣を見る。するとレーナさんは俺に向かい、バッ! と頭を下げた。


「うわっ! レーナさん?」


「…………ごめんなさい。あなたを……巻き込んでしまって……」


 そのかすかに震える声に、ハッとした。


 ――そうだ。レーナさんはただ……


 滅びそうなこの国を救うために、救世主を求めていただけなのだ。


 この人は悪くない。この人を責めるのはお門違いだ。


「……いや、俺の言い方が悪かったです。すみません。レーナさん。大丈夫ですから、頭あげてください」


 顔を上げたレーナさんは、見るからにしょんぼりしていた。悪いことをしてしまったな。


 ……でもちょっとでも罪悪感を持っといてもらったほうが、今後、交渉がやりやすそうだな。


 内心、ニヤリ。


「ハヤマさん……なにか悪いこと考えてない〜?」


「いいえまさかとんでもない」


 マリアちゃんがジロリと睨んでくる。


 ――その後は、この世界の話を3人から聞いた。


 どうやらこの世界は、俺の世界でいう20世紀初頭とかそこらへん、戦前のヨーロッパに雰囲気が似ているようだ。インターネットやテクノロジーはまだ未発達。そこに魔法が加わった感じ。


 えらくファンタジーかつ、戦乱な世にきてしまったものだ。


◇◇◇◇◇◇


 そのうち、前方にうっすら光の集まりが見えてきた。


 目を凝らすと、街だと分かった。その中に一際大きく、ひときわ目を引くシルエットが浮かぶ。


「……城だ! 城が見える!」


 ザ・城! という雰囲気の形に、テンションが上がる。しかし、レーナさんは元気のない声で答える。

 

「あの街はベルガ国第二の首都・ウェルペン。首都リュッセルが敵の手に落ちたから、あそこに撤退したんだけど、ウェルペンも敵の手に落ちちゃった」

 

「落ちたんかーい」


 レーナさんはため息をついた。

 

「ついでにベルガ国王も捕まっちゃったの。夜が明けたら、あの城の広場で処刑されちゃう」


「まじでピンチじゃないですか!!」

 

「そうよ〜! だからこれから捕まった王を助けに行くんだよ〜! 体勢を立て直すのよ〜!」

 

 そんなふうに、マリアちゃんは呑気な声で言うけども。


「えっと……敵に占領された街に乗り込むんですか……?」


「うん」


「この人数で……?」


「うん」 


「無理じゃないかなぁ……」


 正直に言うと、レーナさんが険しい顔になった。


「ハヤマ、諦めたらそこで試合終了よ」

 

 この世界にも安西先生っているの??


 いや、そんなに強気なら、なにか作戦はあるんだよな。

 

「……それで……はこれからどうやって王様を助けに行くんですか? まさかまた正面から突っこむんですか?」

 

「そうよ。あと皆さんだけじゃない。ハヤマも行くのよ」

 

「結構です」

 

「ひとり置いていかれたいの? あなた弱そうだしすぐ殺されるよ」


 ひ、ひどいよぉ。

 綺麗なのにおっかねぇよぉレーナさん。

 俺に選択肢は無さそうだよぉレーナさん。

 

 あゝどこまでもハードモードな我が異世界ライフ。


 早く帰りたいよぉ。


 本当なら今頃、奈美にプロポーズのOKをもらって、ホテルで甘い時間を過ごしていたはずなのに。


 あーあ。まじで早く帰りたいよぉ。


 ため息をつきながら、スマホをポケットにしまう。


 コツンと、固いものにぶつかった。


 ……石が、ポケットに入っている。

 

 そうだった。俺のポケットには今、『催淫の魔石』と『世界を滅ぼす魔石』が入っている。

 

 今世界の命運を握ってるの、実質俺だった。


 なんか元気、出てきた。

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