第30話 誇り高き勝者とお祭り騒ぎ その4


パーティの喧騒は城全体を包んでいた。



ガレリオに借りていた、あの静かな一室――本棚とティーセットのある馴染みの空間で、凛人はひとりくつろいでいた。



 礼儀作法もよくわからないし、あんな煌びやかな宴の空間は、正直苦手だった。


「……こっちのが落ち着く」


 ソファに腰を沈めて紅茶を啜っていると、ノックの音がした。


「リント、入るよー」


「あーい」


 気の抜けた返事をする凛人。


マーヤやリオ達だ。


華やかだが、決して豪奢すぎない青のドレスは、肩口から流れる布地の曲線が、彼女の細身の体をやわらかく包んでいた。


首元と髪に散りばめられたアクセサリーが、ろうそくの光を受けて控えめにきらめく。


その一粒一粒が、彼女の静かな気配と溶け合っていた。



公式の場ではこうした姿も多いらしい。普段の騎士服を好む彼女とは違う、少し距離を感じるような──けれど、それでも目を奪われる美しさだった。


そして、何より目を引いたのは──髪だった。


あの赤みがかった長い髪は、思い切りが過ぎるほど短く切り揃えられていた。

肩にも届かないほどで、まるで別人のような印象すら与える。

だが、驚きと同時に、凛人は不思議な納得を覚えていた。


この髪型も、今のマーヤにはとてもよく似合っていた。


耳元で揺れる小さな宝石が、星のように瞬いている。


その横顔に宿るのは、儚さ──そして、どこか吹っ切れたような強い意志だった。


正直、部屋に入ってきた瞬間、凛人は思わず言葉を失った。

反応が、二拍ほど遅れた気がする。


現代の日本で、特別に「推し」なんていたわけじゃない。

けれど、もし目の前の彼女がステージに立っていたなら──そう思わされるほど、印象的だった。


(……聞くのは、やめておこう)


髪を切った理由なんて、聞くのは無粋だと、どこかで知っている。

現代でもこの世界でも、そういうのはあまり変わらないのかもしれない。


だから、軽く笑って言った。


「お、似合うじゃん」


マーヤも、後ろにいたリオたちも、一瞬だけ目を見開いて──そして、ふっと笑い出した。

からかうでもなく、見下すでもなく、ただ、楽しそうに。


「リントさんは、本当に面白いネ」


リオが軽くとぼけるように言って、皆の笑いを誘った。


変わったのは、髪型だけじゃなかった。


 マーヤは、それまで自分のことを「私」と呼んでいたのに、急に「ボク」と言い出したのだ。


 最初のうちは──

「わた……ボクは!」

と、何度も言いかけて言い直す様子が見られた。口調にぎこちなさが残っていて、どこか無理をしているようにも感じる。


 けれどその不自然さの奥には、何か強い決意のようなものがあった。


気にはなった。けれど、リオたちも、とくに何も言及しない。


 となると──そういうことなのかもしれない。

 わざわざ突っ込むような話じゃないのだろう、と凛人は判断して、あえて口には出さなかった。



-それにしても


ここにボクっ娘の誕生である。


短い髪型と相まって、


(これはこれで非常に有りである!)


凛人は心の中で勝手に親指を立てていた。


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