第29話 誇り高き勝者とお祭り騒ぎ その3
数日後、グレイヴェルン城では、
壮麗な夜会が催された。
招かれたのは、領内の貴族、商人、騎士、
教会関係者、名士たち――およそ三百名。
煌びやかな装飾に包まれた大広間には、
名門楽団が奏でる優雅な調べが響き渡り、
城全体が祝福の空気に包まれていた。
この夜の主役は、マーヤと警護団だった。
まずは警護団の見習い騎士たちが、
一斉に“下級騎士”へと昇格。
この昇格は、騎士人生において大きな節目だ。
一生に一度あるかないかの名誉であり、
彼らの人生を根底から変える出来事だという。
そしてリオ、グラたちは、
ついに正式な「騎士叙任」を受けた。
褒賞は名誉だけではない。
金銭の賞与に加え、小規模ながら土地の授与も行われた。
与えられたのは、耕作権や維持管理付きの貸与地。
上手く運用すれば、毎年一家族を十分に養える
だけの収益を生むという。
現代日本風に言えば、
年収が四〇〇万〜六〇〇万円ほど増えるイメージだろうか。
しかも、子孫にも継承できるという。
地味に見えるが、将来にわたって
重くのしかかる現実の問題を軽くする、
実に現実的なご褒美である。
加えて、「騎士叙任」を得たことで
家名の再評価を受ける者もいた。
先の敗戦で汚名を着せられていた家は名誉を取り戻し、
それが縁談や社交界の立場にまで影響することは、
想像に難くない。
まさに人生を塗り替える瞬間だった。
その中でも、ひときわ注目を集めたのは――
マーヤ。
マリアンナ・セレスタ・フィオラリスである。
彼女の名は、グレイヴェルンの民を救った功績とともに、王国の記録に刻まれることとなった。
その勇気と尽力を称え、王からは「銀月賞(ぎんげつしょう)」の勲章が授与された。
そしてもう一つ。
彼女に爵位を授ける案も持ち上がっていた。
だが──マーヤ自身が、あらかじめその話を辞退していたのだという。
「……もう、担ぎ上げられるのはごめんなの」
そう口にした彼女の髪は、かつての長く艶やかな姿を失っていた。
貴族社会において、美徳とされた長い髪を、自らの手でばっさりと切り落としたのだ。
それは、ただの髪型の変化ではない。
身分や役割、過去から自分を切り離す、強い意志の表れだった。
領主である父も、その決意を汲んだのだろう。
最終的に王国は、急遽別の称号を用意し、マーヤに与えることとなった。
「マリアンナ・セレスタ・フィオラリス殿には、
神韻継承の旅と、
王国各地における文化・治安の巡察を兼ねた役職として――
《巡察公女(シュルヴェイユーズ・ド・ルメリア)》
の称号を与える。
これは国王陛下の勅命により、
銀月賞と共に叙任されるものとする」
その証として、神韻の
王国の紋章と、神韻魔法の印が刻まれた銀の腕輪。
それは細いが重みのある銀の輪で、
王家の紋章と、神韻魔法を象徴する古代文字が刻まれていた。
これは名誉と責任の象徴でもあった。
一方、そのパーティに姿を見せなかった者が一人いた。
凛人である。
彼にも褒賞は用意されていたが、
当人の希望により、最小限のものとなった。
「目立ちたくないし、責任とか持ちたくないんですよ、絶対に」
「僕は帰るんですから」
そう言い放った凛人は、「後生です」と深々と頭を下げ、
領主に直訴。ついには、授与式自体の辞退を認めてもらった。
礼を欠くかとも思ったが……
正直、もう付き合いきれない。
あれこれ気疲れして限界だった。
彼に与えられたのは以下の三つだけ。
・神韻魔法に関する特別顧問の名誉称号
・グレイヴェルン城の客室における無期限の滞在許可
・“帰還支援”の名目での資金と研究協力
――それだけだ。
だが、凛人にとってはそれで十分だった。
城の侍従たちは、こっそりと彼のことを
「お忍びの賢者様」と呼んで一目置いているらしい。
みんなマーヤや領主家の人々を慕い尊敬しているからこそ、
マーヤを助けた凛人にも、同様の感情が芽生えるのだろう。
一方で、マーヤが発していた謎の“ミコト語”を
聞き間違えた侍女たちは、なぜか彼を
「お忍びの“ど変態”様」と呼び出した。
混ざったエルセリア語とミコト語の造語で、
当の侍女たちは意味などわかっていない。
だが、笑顔でそう口にするあたり、
親しみはあるようだ。
その夜――
宴の喧騒が遠くから微かに届く、城の一室。
静けさに包まれた部屋の片隅で、凛人は月を見上げていた。
ランプの柔らかな灯りが、彼の横顔を照らす。
(……華やかすぎるのは、疲れるんだよなぁ)
遠くで笑い声が弾けた。
それはまるで、別の世界のことのように思えた。
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