異世界転入!? 男子激少の学園で、俺だけが知らない男女比の真実~鈍感モテ男のハーレムコメディ~

@teacheroshiro

第1話 離島の朴念仁、都会(異世界)へ

1.1 離島の日常と上京の決意

潮風が運ぶ生温かい空気が、寝ぼけ眼の鈴木翔太の頬を撫でた。窓の外からは、規則正しい波の音がとどろき、時折、遠くでカモメの鳴き声が響く。目覚まし時計が鳴るよりも早く、身体が自然と目を覚ましたのは、ここ、沖縄本島からフェリーで数時間の距離にある小さな離島、竹生島(たけおじま)での二十四時間、三百六十五日の当たり前のリズムだった。

「翔太、もう起きなさい!」

階下から、母の張りのある声が響く。慌てて飛び起き、よれよれのTシャツと半ズボンに着替える。一階に降りれば、食卓には既に、島で獲れたばかりの魚の干物と味噌汁、そして炊きたての白いご飯が並んでいた。父は既に漁に出ており、朝食はいつも母と二人きりだ。

「お父さん、もう出たの?」 「あんたがグズグズしてるからだよ。早く食べなさい、船が出る時間だよ」

母の小言も、翔太にとっては子守唄のようなものだった。茶碗を手に取り、熱々の味噌汁を一口すする。じんわりと身体に染み渡る塩気と出汁の旨みが、一日の始まりを告げる。

竹生島は、人口わずか三百人ほどの小さな島だ。周囲をエメラルドグリーンの海に囲まれ、手つかずの自然が残る。娯楽施設は小さな商店が一つと、集会所を兼ねた公民館くらい。コンビニもファストフード店もなく、都会の子どもたちが当たり前に持っているような流行のゲーム機やブランド品とは無縁の生活を送っていた。

翔太の家は代々続く漁師で、父と母、そして翔太の三人家族だ。幼い頃から、父の漁船に乗って海に出るのが日常だった。銛(もり)で魚を突いたり、網の仕掛けを手伝ったり。身体は平均的だが、潮に焼けた肌と、多少の揺れではびくともしない重心は、漁師の子ならではだろう。しかし、彼の内面は、その身体とは裏腹に、純朴で内気だった。

友達は島の同級生、数人だけ。彼らとは幼い頃から裸で海に飛び込み、秘密の洞窟を探検し、裏山で基地を作った。ごく少人数のコミュニティの中で、彼の世界は完結していた。だからこそ、大人数の集まりや、初めて会う人との会話は苦手だ。特に、女の子とまともに話すのは、声が裏返ってしまうほど緊張する。

思春期を迎え、同級生の女子が少しずつ「女」らしくなっていくのを横目に、翔太はいつも遠巻きに眺めることしかできなかった。彼らとの間に、恋愛感情が芽生えることはなかった。いや、芽生えなかったわけではない。彼自身が、その芽を摘んでいたのだ。

「俺なんて、どうせモテない」

それが、翔太の恋愛における絶対的な信念だった。鏡に映る自分は、ごくごく普通の少年。特別イケメンなわけでも、頭が良いわけでも、スポーツができるわけでもない。勉強も運動も、全てが平均的。むしろ、恋愛に関してはマイナススタートだ、と彼は本気で信じていた。都会の雑誌やテレビドラマで見るようなキラキラした恋愛は、自分には縁のない「別世界の出来事」だと、心の底から思っていた。

そんな彼にとって、唯一の現実逃避であり、外界との接点となっていたのが、母の実家がある本島から送られてくる漫画とゲームだった。特にライトノベル原作のゲームは、彼の想像力を掻き立てた。勇者が魔王を倒し、世界を救う物語。剣と魔法のファンタジー世界。主人公が多くの美少女に囲まれるハーレムもの。

(いいなぁ、俺もあんな風に、女の子に囲まれてみたいけど……)

ゲームの中の主人公と、恋愛経験ゼロの自分を比べ、彼はいつもため息をついていた。

「翔太、今日の便で間違いないね? 東京行きだよ?」

朝食を終え、港まで歩いていると、近所の漁師のおじさんが声をかけてきた。

「はい、東京の高校です」 「おお、すごいなぁ! 東京なんて、この島からしたら別世界だ。気をつけて行けよ!」

おじさんの言葉に、翔太は改めて上京することの実感を噛みしめた。高校進学の時期が来た時、父が「お前も一度、外の世界を見てこい」と、東京の高校への進学を勧めてくれたのだ。母は心配そうだったが、父の言葉に押し切られ、翔太もまた、漠然とした期待を胸に承諾した。

都会に出れば、今の自分を変えられるかもしれない。もっとたくさんの人と出会い、新しい経験ができるかもしれない。もしかしたら、テレビで見るような「可愛い女の子」と出会い、話せるようになるかもしれない。そんな淡い期待が、彼の胸の奥に確かにあった。

港には、島の住民たちが三々五々集まっていた。皆、翔太の旅立ちを見送りに来てくれたのだ。

「翔太、無理するんじゃないぞ!」 「困ったことがあったら、いつでも帰ってこい!」 「東京には悪い奴もいるから気をつけろよ!」

口々に励ましと忠告の言葉が飛んでくる。人見知りな翔太は、照れくさそうに頭を下げ、小さく手を振った。

母が、彼の手に、使い慣れたお守りを握らせてくれた。

「これ、ずっと持ってたお守りだよ。あんたが無事に過ごせるようにって、ばあちゃんが作ってくれたやつ。お守りがあるから、何があっても大丈夫だよ」

母の言葉に、翔太は少しだけ目頭が熱くなった。家族や島の皆の温かさが、彼の心をじんわりと満たしていく。

「うん、ありがとう、お母さん。行ってきます」

フェリーがゆっくりと岸壁を離れていく。見送りの人々がだんだんと小さくなり、やがて水平線の彼方に消えていく。故郷の竹生島が、遠ざかっていく。

(東京か……どんなところなんだろう?)

翔太は、ポケットに入れたお守りをぎゅっと握りしめた。彼の知らない、新しい世界が、今、彼を待ち受けている。その世界が、彼の想像をはるかに超えた「異世界」であることなど、この時の彼には知る由もなかった。

1.2 都会(異世界)への足を踏み入れる

フェリーの甲板から見送りの人影が完全に消え去り、水平線の彼方に故郷の島がぼやけていく。翔太はポケットの中のお守りをぎゅっと握りしめ、大きく息を吸い込んだ。潮の香りが、少しだけ都会の鉄の匂いに変わり始めた気がした。数時間の船旅を終え、本島の港に降り立つ。そこからさらに、初めて乗る電車を乗り継いで、目指す大都会の中心へと向かう。

電車は、離島では考えられないほどの速度でレールの上を滑っていく。車窓から見える景色は、時間の経過とともに刻々と変化していった。青々としたサトウキビ畑は次第に姿を消し、代わりに住宅が密集し、道路には車の数が増えていく。そして、背の高いビルがちらほらと見え始めたかと思えば、あっという間に視界を埋め尽くすように、高層建築物が林立する大都会のパノラマが広がった。

(す、すげぇ……! テレビで見たまんまだ!)

翔太は思わず声に出しそうになり、慌てて口を閉じた。都会の電車の中は、誰もがスマホに目を落とし、静かに座っている。離島では乗り合わせればすぐに会話が始まるのが普通だったから、このよそよそしい静けさに少し戸惑った。しかし、それも「都会の常識」なのだろうと、すぐに自分の中で納得させた。

目的の駅に到着し、降り立つと、そこは人、人、人、の波だった。駅構内はまるで巨大な蟻の巣のようだ。離島の人口の何倍もの人間が、ひしめき合って行き交っている。その圧倒的な人の多さに、翔太は思わず立ち止まってしまった。

「すみません、失礼します」

背後から声がして、翔太は慌てて道を空けた。ぶつかりそうになったのは、スラリとしたスーツ姿の女性だった。彼女だけではない。駅構内を見渡せば、行き交う人々の大半が女性であることに、翔太はすぐに気づいた。

(あれ……? なんか、男の人が少ないような……?)

翔太は周囲をきょろきょろと見回した。たしかに、男性もいるにはいるが、その数は明らかに女性に比べて少ない。すれ違う十人のうち、一人か二人いれば良い方だろうか。

「へえ、都会は女性の社会進出が進んでるんだな。ニュースで言ってたもんな、男女平等ってやつか?」「少子化で男子が少ないのかな? 高校のクラスもそうだったりして」

彼は心の中でそう呟き、すぐに納得した。離島の高校でも、学年が上がるにつれて男子の数が減っていたのを思い出したのだ。地方の過疎化と少子化の影響が、都会ではもっと顕著に出ているのだろう、と。翔太の脳内では、全てが「現実世界の延長線上にある現象」として、自然に処理されていく。目の前の「異世界」は、彼の「都会の常識」というフィルターを通して、ただの「都会の光景」としか認識されなかった。

よく考えればわかる。少子化なら男性が少ないなら女性も数区なくなる事実を。その辺が彼の抜けたところだ。

駅の改札を出ると、そこはさらに圧倒的な光景だった。空に向かってそびえ立つ高層ビル群。煌びやかなネオンサインが瞬き、巨大なディスプレイには色鮮やかな映像が流れている。通りを埋め尽くす車は、どれも離島では見かけることのない高級車ばかりだ。そして、ここでもやはり、行き交うのは圧倒的に女性たちだった。

(す、すげぇ……本当にテレビで見たまんまの都会だ……!)

翔太は目を輝かせながら、きょろきょろと周囲を見回した。すると、通りを歩く女性たちが、ちらちらと彼に視線を向けてくることに気づいた。中には、足を止めて露骨に彼を見つめる女性もいる。

(え、な、なんで俺のこと見てんだろ……?)

翔太は心臓がドキリとした。もしかして、田舎者だとバレているのだろうか。それとも、よれよれのTシャツと半ズボンという格好が、都会では浮いているのだろうか。彼は慌てて、持っていたリュックで身体を隠すようにした。

「あ、もしかして、都会の人は服装が派手だから、俺の地味な格好が珍しいのかな……?」

またしても、翔太は自分にとって都合の良い解釈で、その奇妙な視線の意味を片付けた。彼の頭の中には、「俺がモテるわけがない」という思い込みが根強く存在している。だから、女性からの好奇の視線を「自分への好意」だと認識することは、まずありえなかった。

街を少し歩くと、さらに奇妙なことに気づいた。目につくアパレルショップやコスメショップ、カフェやレストランの全てが、女性向けに特化しているのだ。男性向けの衣料品店や、男性客が目立つようなカフェはほとんど見当たらない。広告に登場するモデルも、ほとんどが女性だ。

「都会は女性向けビジネスが盛んなんだな……すごい時代になったもんだ」

翔太は感心するばかりで、この異常な状況を疑問に思うことはなかった。むしろ、都会の多様性や最先端さに感銘を受けているようだった。

道の途中で、道に迷った翔太は、近くを歩いていた女性に声をかけてみた。

「あ、あの、すみません……聖ルチア学園って、このあたりですか?」

翔太が声をかけると、その女性は驚いたように目を見開いた後、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。

「ええ、聖ルチア学園ならすぐそこよ。私が案内してあげるわ」

女性の声は優しく、翔太を包み込むようだった。彼女は翔太の手をそっと取り、温かい指先が触れた瞬間、翔太は心臓が大きく跳ねるのを感じた。

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」

翔太は緊張しながらも、都会の人の親切さに感動した。彼女は翔太を学園の近くまで案内してくれた。途中で、彼女が他の女性たちから奇妙な視線で見られていることに気づいたが、翔太は「都会の人は他人にも興味津々だな」と気に留めなかった。

「もうすぐ着くわ。頑張ってね、新生活」

女性はそう言って、にこやかに去っていった。翔太は深々と頭を下げ、彼女の姿が見えなくなるまで見送った。都会の人々は、予想以上に親切で優しい。そして、女性の割合が異常に高い。それが、この時の鈴木翔太が抱いた「都会」の第一印象だった。彼を待ち受ける「異世界」での生活が、一体どれほどのカオスになるのか、彼はまだ全く知る由もなかった。

1.3 聖ルチア学園への転入と衝撃の事実

前日、都会の駅で道案内をしてくれた女性に感謝しつつ、鈴木翔太は聖ルチア学園の門の前に立っていた。高い塀に囲まれた敷地の奥には、西洋のお城を思わせるような、白亜の校舎がそびえ立つ。離島の木造校舎しか知らなかった翔太にとって、その光景はまるでファンタジーの世界の城のようだった。

「すっげぇ……! これが都会の学校か!」

思わず感嘆の声が漏れる。門をくぐり、広々とした校庭を抜けて玄関へ向かう途中も、すれ違う生徒たちはほとんどが女子だった。制服も個性的で、スカートの丈やアクセサリーの着け方など、皆が思い思いの着こなしをしている。離島の画一的な制服とは大違いだ。

(やっぱり都会はオシャレな人が多いんだなぁ。俺の地味な制服じゃ浮いちゃうかな……、まあ新しい制服は支給されるんだろうけど…)

一抹の不安を覚えながらも、翔太は指定された職員室を目指した。

職員室のドアをノックし、中へ入ると、中にいた先生方もまた、ほとんどが女性だった。男性の先生も一人だけ見えたが、眼鏡をかけた小柄な人で、女性の先生たちの影に隠れるように座っている。

「今日から転入することになっている、鈴木翔太です。」

緊張しながら自己紹介をすると、担任となる女性教師、白鷺咲耶先生が笑顔で迎えてくれた。彼女はしっとりとした物腰で、どこか色気を感じさせる美人教師だった。翔太は顔を赤くして目を伏せた。

「あら、鈴木くんね。待っていたわ。私が担任の白鷺咲耶よ。よろしくね」

咲耶先生は、翔太の手に触れるようにして握手をした。その指先から伝わる温かさと柔らかな感触に、翔太の心臓はさらにドキドキと高鳴る。しかし、彼はこれを「都会の先生はフレンドリーなんだな」と好意的に解釈した。

教室へ案内され、ドアが開くと、中には既に多くの生徒が着席していた。一斉にこちらを向く視線に、翔太の心臓は再び跳ね上がった。そして、彼は改めてその光景に驚愕する。

クラスのほとんどが女子生徒だったのだ。

色とりどりの髪飾りをつけた女子生徒たちが、好奇の目を向けながら彼を見つめている。しかし、その中に、翔太と同じ制服を着た男子生徒の姿が、かろうじて一人だけ見えた。彼の存在に、翔太はわずかな安堵を覚えた。

(よかった……一人ぼっちじゃない!)

咲耶先生が教壇に立ち、翔太を紹介した。

「みんな、静かにして。今日は新しいお友達を紹介するわ。鈴木翔太くんです」

クラス中の視線が、一斉に翔太に集中する。緊張のあまり、翔太の声は上ずってしまった。

「え、えっと……鈴木、翔太です。離島から、来ました。よ、よろしく、お願いします……」

しどろもどろになりながら、頭を下げる。顔が熱くなるのを感じた。きっと、失敗してしまっただろう。もっと気の利いた自己紹介ができればよかったのに、と後悔の念に駆られた。

しかし、彼の予想に反して、クラスの女子生徒たちからは、「ふふっ」「可愛い」「純朴そう」「守ってあげたい」といった囁き声が聞こえてきた。中には、興奮したように机を叩く女子生徒までいる。その熱気を帯びた視線に、翔太は戸惑いを隠せない。

(な、なんでだ? 俺、絶対失敗したよな? 都会の人は、こんな自己紹介でも笑ってくれるのか……? それとも、憐れんでるのかな?)

翔太の脳内では、自己評価の低さからくるネガティブな解釈と、都会の常識へのズレた認識が渦巻いていた。彼の「俺がモテるわけがない」という思い込みは、少々な好意を向けられても、それを「好意」だと認識することを頑なに拒んでいた。

咲耶先生が、空いていた席を指差した。

「鈴木くんの席は、月島さんの隣よ」

翔太は言われるがまま、指定された席へと向かう。彼の隣の席に座っていたのは、明るく元気な印象の女子生徒だった。翔太が席に着くと、彼女は満面の笑みで話しかけてきた。

「ねぇねぇ、鈴木くんって離島から来たんだよね? すごい! 私、離島行ったことないんだ! 月島陽葵(つきしまひまり)っていうの! よろしくね!」

月島陽葵は、クラスの中でもひときわ目を引く存在だった。茶色がかった髪をサイドで結び、大きな瞳で翔太をじっと見つめてくる。その人懐っこさに、翔太は再び心臓がドキリとした。

「あ、えっと……よろしく、月島さん」 「陽葵でいいよ! 鈴木くんはなんて呼べばいいかな? 翔太くん?」

陽葵の積極的な態度に、翔太は戸惑う。離島では、こんなに初対面でぐいぐい来る女子は少なかった。

(これが都会の女子か……オープンで、親切な人が多いんだな……!)

彼の脳内フィルターは、陽葵の過剰な積極性を「都会ならではの親切さ」として処理した。

授業が始まり、翔太は真面目にノートを取ろうとする。しかし、授業の合間にも、陽葵は彼に話しかけてくる。

「ねぇ翔太くん、お昼ご飯、一緒に食べない? 私、お弁当作ってきたんだ!」 「あ、えっと、俺も作ってきたから、大丈夫だよ……」 「えー! だったら、お互いのおかず交換しよ! 私の卵焼き、結構自信あるんだよ!」

陽葵は有無を言わさぬ勢いで、翔太の机の上にお弁当箱を置いてきた。その積極性に、翔太はただ圧倒されるばかりだった。

昼休み、翔太は陽葵の隣で、彼女のお弁当の卵焼きを食べた。甘くて、どこか懐かしい味がした。

「美味しいね、月島さん」 「でしょでしょ! 翔太くんも、お料理できるの?」 「いや、これは母さんが作ってくれたやつで……」

翔太が答えると、陽葵は目を輝かせた。

「お母さんの手作り!?翔太くんのお母さん、優しいね!」

陽葵の反応に、翔太は少し嬉しくなった。都会の女子は、こうやって普通に話してくれるんだな、と。恋愛感情とは別の「友達」として、少しずつ安心感を覚え始めていた。

放課後、ホームルームが終わると、陽葵が再び声をかけてきた。

「あのさ!さっき言い忘れたけど、私、クラス委員なんだ、学校の事で困ってることとかない?まだ慣れていなかったすると思うから、私が色々教えてあげるよ!」

陽葵はそう言って、翔太の手を握り、廊下へと引っ張ろうとした。その力強さに、翔太は少しよろめいた。

「え、あ、あの、月島さん……?」

翔太の困惑をよそに、陽葵は満面の笑みを浮かべていた。彼女にとって、翔太の存在は、クラス委員としての使命感と、一人の女子としての純粋な(そして圧倒的な)好意を掻き立てる、最高のターゲットだったのだ。

彼の周りには、陽葵以外にも、ちらちらと彼を見つめる女子生徒たちの視線があった。翔太の「都会の学校生活」は、彼が想像していた以上に賑やかで、そして、彼自身が全く気づかないところで、とんでもない方向へと進み始めていた。

1.4 新たな友人(男)と、女性たちの「男」への興味

昼休みが終わり、午後の授業を告げるチャイムが鳴ると、月島陽葵は名残惜しそうに翔太の隣の席に戻っていった。翔太は、都会の同級生はこんなにもフレンドリーなのかと感心しつつも、どっと疲れを感じていた。離島では、こんなにもずっと誰かと話すことはなかったからだ。

午後の授業は体育だった。体操服に着替え、体育館に移動する。翔太は、体育館に集まった生徒たちの数の多さに圧倒された。そして、ここでもやはり、圧倒的に女子生徒が多いことに気づく。しかし、体育館の片隅に、自分と同じ高校のジャージを着た男子生徒が数人いるのを見つけて、翔太は少しホッとした。

(やっぱり、クラスに男子が二人ってのは、たまたま俺のクラスがそうだっただけなのかな?)

体育の先生は、筋骨隆々とした女性教師だった。その先生が壇上に立ち、力強い声で号令をかける。

「今日の授業は体力測定です! 男子から順に、各種目を回っていくぞ!」

先生の言葉に、翔太は目を丸くした。男子……? 見渡せば、体育館にいる男子生徒は、翔太を含めても十人もいない。その彼らは、どこかひ弱そうな印象で、女子生徒たちとは明らかに体格が違った。女子生徒たちはざわつき、期待と、どこか憐れみのような混じった視線を男子生徒たちに集中させる。

翔太は、クラスメイトの男子生徒、**佐藤拓海(さとう たくみ)**の隣に並んだ。拓海は翔太より少しだけ背が高く、どこか都会的な垢抜けた雰囲気があるが、彼もまた、女性たちと比べるとか弱そうな印象を受けた。翔太は、思い切って声をかけてみた。

「あ、あの、佐藤……くん?」 「おう、鈴木か! よろしくな」

拓海は気さくに手を差し出してくれた。翔太は、固い握手をして、少し安心した。これで、体育でも一人ぼっちにならずに済む。

体力測定が始まった。最初の種目は握力測定だ。翔太が測定器を握りしめ、力を込める。表示された数値は平均的だった。次に拓海が測定する。彼もまた、平均的な数値を出した。しかし、それらの数値は、翔太が今まで見てきた女性教師や、クラスの女子生徒たちが軽々と出す数値よりも、明らかに低かった。

その二人の結果に、周囲の女子生徒たちはざわめいた。

「やっぱ、こんなもんなの?」

「今更だけど、男の子ってか弱いんだな……」

「なんか、悪いかな……」

「例えば、鳳凰院先輩の握力とかすごいよね」

彼女たちの会話が耳に入り、翔太は首を傾げた。平均的な数値を出したはずなのに、なぜがっかりしているのだろう。そして、「男の子ってか弱いんだな」という言葉に、翔太は疑問を抱いた。「男は強いものだ」という離島の常識が、彼の頭にはあったからだ。しかし、この場にいる男子生徒たちが皆、女子生徒に比べてどこか頼りなく見えるのも事実だった。

拓海が、翔太の顔を覗き込んだ。

「気にするな。あいつら、自分達の記録と男子を比べて悦に浸ってるんだよ。おっと、口が滑ったな。正確には『か弱い男の子』に期待しすぎなんだよな」

「え、あ、そうなんだ……都会って、色々な人がいるんだな……」

翔太は拓海の言葉を真に受けて、またしても「都会の常識」として納得した。「か弱い」という言葉は、彼にとって新しい「都会の男性像」として認識された。しかし、拓海は内心、翔太の純朴さと鈍感さに驚いていた。

拓海はこの学園に中学部から通っているため、この世界の男女比の歪みや、女性たちの「男性」への認識が異常なことにある程度慣れている。男性は女性より身体的に劣るという現実も知っていた。だが、翔太の「男」としての魅力が、女性たちにとってどれほど稀少で、どれほど熱狂的なものになりうるか、拓海には痛いほど分かった。そして、その魅力を本人が全く自覚していない翔太が、どれほど「守られるべき存在」として危険な標的になるかも。

授業中、拓海は何度か翔太に小声で話しかけた。

「なあ、鈴木。お前って、彼女とかいたことあんの?」 「え、い、いや、全然……」 「そうかよな。この学校、女子ばっかだし、男子ってだけで狙われるから大変だろ。特にお前みたいなタイプはな」

拓海は半分冗談交じりに言ったつもりだったが、翔太は真剣な顔で答えた。

「そ、そうかな? でも、俺なんてモテないし……佐藤くんも、この学校で彼女いるの?」 「俺も……まぁ、色々あるんだよ」

拓海は苦笑いを浮かべた。彼もまた、この異常な男女比の世界では、女性からのアプローチを経験していたが、翔太ほど露骨な「狙われ方」はしていなかった。翔太の鈍感さは、ある意味で「最強の防御」なのかもしれない、と拓海は密かに思った。同時に、将来、翔太が女性たちからの「庇護」を必要とした時、拓海自身が彼を助ける相談役となる可能性も感じていた。

放課後、クラスで日直の仕事を手伝っていると、陽葵がまた翔太に声をかけてきた。

「ねぇ翔太くん、この後、一緒に図書室に行かない? 参考書を借りたいんだけど、一人だと重くて……男の子に手伝わせるのは心苦しいけど…」

陽葵は明らかに、翔太を誘い出そうとしていた。しかし、翔太は彼女の真意に気づかない。

「お安い御用だよ。都会の図書館って、大きいんだろうな」

翔太が承諾すると、陽葵は嬉しそうに目を輝かせた。その時、拓海が、翔太の肩をポンと叩いた。

「おい、鈴木。図書室って、あんまり男が行くとこじゃねえぞ。特にあそこは、女子に人気の……」

拓海は何かを言おうとしたが、陽葵が鋭い視線で彼を睨みつけた。陽葵の瞳には、「邪魔しないで」という明確なメッセージが込められていた。拓海は口を閉ざし、呆れたように肩をすくめた。

「まあ、いいや。せいぜい気ィつけろよ、鈴木。特に、か弱い男はな」

拓海の忠告にも、翔太は首を傾げるだけだった。

「なんで? 図書室に男子が行っちゃいけないの?」 「いや、そういうわけじゃねえけど……まあ、行けばわかる」

拓海の曖昧な返事に、翔太は「都会のルールは複雑だな」と独りごちた。

図書室に着くと、そこもまた、女性ばかりだった。静かに読書をしている女性たち、グループで勉強している女性たち。翔太が足を踏み入れると、一瞬、図書室の空気がピリッと張り詰めるのを感じた。多くの視線が、一斉に翔太に集中する。

(うわ、なんかすごい見られてる……! 図書室ってこんなに人がいるもんなのか? 都会の人はみんな本を読むんだな……)

翔太は、自身の存在が図書室の空気を変えていることなど、全く気づくよしもない。陽葵はそんな翔太の隣で、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。彼女は、翔太を連れてくることで、他の女性たちを牽制できることを知っていたのだ。そして、この「か弱い男の子」を独占できる機会を密かに狙っていた。

翔太は、自分が異世界にいることにも、自分がこの世界でどれだけ「珍しい存在」であるかにも、まだ全く気づいていなかった。彼にとって、目の前の全ては「都会の常識」であり、自分が経験したことのない新しい文化に過ぎない。しかし、その鈍感さが、彼自身のハーレムを築き上げ、そして学園中に様々な騒動を巻き起こしていくことになる。彼の「都会での生活」は、始まったばかりだった。


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