第6話
朝日が差し込む。結局一睡もできなかった。
大きなあくびが出る。まだ眠たいが仕方ない、そろそろ動くべきだろう。
「ねえ、ニコラ起きてる?」
私の問いかけにニコラは何やら言葉にならない返事をよこす。
どうやら彼女も眠れなかったようだ。寝付いたのはついさっきだろう。
起こすのはちょっとかわいそうな気もするが今後のことを考えると仕方ない。
「ねえ、起きてよ。ニコラ」
肩のあたりをポンポンと叩き目覚めを促す。
するとニコラは薄く目を開け起き上がった。
「トリッシュ。もう起きたんですかぁ? 今日は早いですね」
そんなことを言いながら大きく伸びをする。
どうやら少し寝ぼけているようだ。
「もう朝だよ。おはよう、ニコラ」
ベッドの上で胡坐をかき私はニコラに向き直る。
「おはようございます」
そういって目を覚ますニコラ。
はっきりとしてきた意識で私の姿をとらえそして、顔色を変えた。
目を見開く。すごく驚いているのがわかった。
「だ、誰ですか⁉」
一瞬私のことがわからなかったようだ。
焦った声をあげるニコラ。私はその姿にフフッと笑い声をあげる。
「おはよう、ニコラ。私はステラだよ」
「そ、そうでした。すみません寝ぼけていたようです」
少しばつの悪そうにニコラは顔を赤くする。
寝ぼけるのは気にしなくていいと思う。
「ふふっ。トリッシュって誰?」
先ほど呼び間違えた名前に興味がわいた。
名の響きから女性であることはわかった。ニコラに親しい人だろう。
「私の、お師匠様です……」
「へえ、ニコラの先生かぁ」
その名前に聞き覚えはない。どんな人なのだろう。
今は一緒に暮らしてはいないみたいだけど。
「さて、まずは身支度をして朝食にしましょう」
私が好奇心を高めているとニコラは話題を変えた。
「そうだね。何か作るよ」
「食材、もう少ないですね。買い出しに行かねば」
あった食材は干し肉とレタスっぽい野菜。人参みたいな根菜類。
そして、パンのような穀物を焼いてできたもの。
頭にようなとつけたのは元の世界のものはこの世界にはないはずだから。
見た目は同じということで似たものとしか言えない。
色やにおいが記憶のものと違うけど食用というのだから毒とかはなさそうだ。
まあこれだけあればお腹は膨れる。
私はニコラの許可を得てハンバーガーのようなものを作る。
あとは昨日作ったスープがある。干し肉を入れてかさましする。
これで食材はすべて使い切った。
「朝食出来たよ」
「意外と手際がいいですね。それにおいしそうです」
「意外とってひどいなあ。まあ、食べてみてよ。お口に合うかな?」
ちょっとパンが大きいからそのまま嚙り付くのは難しかった。
ニコラはいくらか苦戦して干し肉とレタスを挟んだパンにかぶりつく。
「お肉の塩気と野菜の組み合わせ意外と合いますね」
「お口に合ったみたいだね」
「ええ。おいしいです」
ニコラの感想を聞きながら私も自分の分を口に含む。
干し肉はかなり固いので包丁で切り目を入れてあるのだがまだ硬かった。
でも味は悪くはない。二人ともあっという間に食べきってしまった。
「今日はどうするの?」
最初の予定では私の魔法の練習だったが食材がないという。
買い物にも行かないといけないだろう。
「私は街へ買い出しに行ってきます。その間、留守番をお願いします」
「え? 私もいっしょに行くよ?」
「駄目です。街はステラには危険すぎます」
「街が危険ってどういうこと?」
「街には悪い人間も多いのです。最低限身を守れなければ人さらいの格好の餌食です。その点ステラは護身術も身に着けていませんよね?」
そうそう悪者に出会うとも思えないけどそういわれると少し怖い。
よく考えたらお金自体持っていないのに買い物もない。
私は仕方なく家に残ることになった。
その後もう何度目だよといい加減辟易するほどニコラは私に戸締りをすること。
かってに戸を開けないように説明して町に向かっていく。
「もう、わかったってば。小さい子供じゃないんだから」
「いいえ、ステラは小さくてかわいいです。だから余計に危険なのです」
ニコラが魔石を持っていることは有名らしい。
その留守に賊が押し入らないとも限らないという。
魔法の触媒たる魔石はとても高価だという。
それねらいで強引な手を使うこともあり得るとか。
「怖いわ、この世界。やばすぎでしょ。どんだけ私に厳しいのさ」
「幸い殺されるようなことはまずないですけどね」
「どうして?」
「この世界が呪われているからです。人は殺されても死なない。かつて最強の魔女が作った優しくも残酷な呪い。不殺の呪いの影響です」
この世界ではその呪いのせいで人は殺されても死なない。
寿命や病以外では死ねないのだ。不殺の呪いのせいで。
『人は、人を殺してはならない。誓約を違えれば相手は蘇り、不死の復讐者となる』
人を呪わば穴二つ。人を殺せば自身を殺しにその相手が蘇って襲ってくる。
だから人殺しはなくなる、はずだった。
「戦を止めるため魔女と王の交わした契約。でも人の王はそれを逆手に取った。敵に自国の兵をあえて殺させ、不死の兵とした。不死の兵が復讐を成す前に相手は戦で命を落とす。復讐を遂げられない亡者は他の者たちを襲い始め世界は復讐者にあふれていく」
「どこの世界も戦争好きな連中はいるのか……」
私の感想にニコラは頷き話をすすめる。
「泣きつかれた魔女は亡者を一掃します。しかし、それが悪かった。魔石として死者の魂を得られると知られたがために、魔女は殺されてしまいました。魔女だけはアンデッドにならない。魂を封じる血のせいで……」
まったくもって救いがない。魔女は悪くないのにだ。
今この世界で蠢いているアンデッドはそういったわけで存在する。
いまだこの世界で人殺しはなくなっていないということだ。
「不殺の魔女。トリッシュ。彼女は優しすぎたのです」
「トリッシュって、ニコラの師匠の名前?」
「そう、私は魔女の弟子。蒼い血になれなかった出来損ない」
私に告げられるニコラの秘密。
私は魔女の弟子に弟子入りしたのだ。
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