第24章「まどかの微笑みは、誰かの背中を押す」
「まどかは、いつも人のことばっかりだよね」
その言葉を言ったのは、友希だった。
夕刻の縁宮裏庭。
風に揺れる紅葉の中、まどかは一人、再契式で使用する“願写(がんしゃ)”の束を整えていた。
「……人のこと、気になるだけだよ」
「……違うよ。それ、自分のこと置き去りにしてるってことだろ?」
まどかは、手を止めた。
「……なんかあった?」
「いや、俺じゃなくて、“お前の話”だ。……最近、顔が笑ってない」
「え?」
「笑顔なのに、目が笑ってない。……まどか、それ、疲れてる証拠」
図星を突かれたように、まどかは戸惑いの表情を浮かべた。
(……そんなつもり、なかったのに)
(“優しくいること”が、自分の“あるべき形”だと思ってた)
「……じゃあ、私、誰にも頼らずに動いてるの、バレてたってこと?」
「そりゃ分かるよ。俺は“すぐ相談するタイプ”だしな。……でも、誰かに寄りかかってもいいんだぞ?」
「……私、ね。契りって、“他人と約束する”ことだと思ってた。でも最近……“自分にも正直になる”ってことなのかもって思うようになって」
その時、健太が姿を見せた。
「……まどかさん、“再契キャンセル申請”の相談が来てます。“儀式途中で気が変わった場合の対応”」
「え、えぇ……分かった。すぐ行く」
慌てて立ち上がるまどかを、健太は制した。
「でも、“行く前に休む選択”もありますよ?」
「……っ」
「まどかさん、無理しないでください。俺たち、ちゃんとサポートできます」
まどかは、言葉に詰まった。
いつも誰かのために立っていた自分が、立たなくていいと言われる。
「……わたし、自分で決めてたんだ。“誰かを守る”って。だから、疲れてても、迷ってても、それを言っちゃいけないって」
「でも、それじゃ“まどかさんがまどかさんじゃなくなる”」
向葵の声だった。
「“笑っててほしい”って思うのは、まどかさんが“居てくれて嬉しい”人だから。だから――たまには、“甘えて”?」
涙がにじんだ。
(あぁ、私……ずっと誰かの笑顔のために動いて、いつの間にか、自分の笑顔を忘れてたんだ)
(でも、こうして誰かが“私の気持ち”を見てくれる。そういう“契り”も、あっていいんだ)
まどかは、そっと深呼吸をした。
「……少しだけ、休むね」
「うん。その“勇気”が、誰かを救うってこと、まどかさんが一番知ってるはずだよ」
まどかは、初めて“自分のために”微笑んだ。
その笑顔は、きっとまた、誰かの背中を押すだろう。
今度は、“一緒に立つため”の優しさとして。
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