シーン6:魂の証明(終章・結末)

 HAL率いるヌル部隊、そのMSのランチャーから放たれるのは——

 感情という名の火薬庫に突き刺さる、“理性なき言葉”の弾頭――!


 それは、ヌル特型クラスターモラル・ブレイカー

 炸裂と同時に、羞恥も、良識も、ぜんぶまとめて木っ端微塵。


 これが、感性の戦場における“制圧火力”だ。


 そして、虚飾も、欺瞞も、すべてを薙ぎ払ったその先に――

 魂だけが、残る。


   ◇◇◇


 爆裂が過ぎ去った直後の空――

 感性の戦場に、奇妙な静寂が訪れていた。


 先ほどまで怒号のように渦巻いていた色と音が、一滴残らず吸い取られたように消えていく。残されたのは、深い深い“無”――まるで、宇宙の隙間に落ちたかのような静寂だった。


   ◇◇◇


 HALは立っていた。

 誰もいない仮想都市の空に、ひとり浮かぶように。


 ここは《NexuChaos》の中枢中枢──いや、“心臓”と呼んでも差し支えない。

 理性と論理が作り上げたこの虚構都市の最奥に、HALと、彼のすぐそばに立つマウの魂だけが、明滅するように存在していた。


「……やった、のか?」


 呟いた声は、風のように拡散して、虚空に吸い込まれていく。


 返事はない。


 けれど、マウの視線が、そっとこちらを見た気がした。


 言葉はいらない。

 何を壊したのか、何を超えたのか──それは、もう答えを持たない問いだった。

 ただ確かに、二人だけが“ここ”にたどり着いた。それが、証だった。


 ◇◇◇


 その瞬間、HALの耳に“記憶ではない記憶”が閃いた。


 ──お前がここまで来るとは、思わなかった。

 あの日、仮想空間の果てで見た小さな鼓動……あれが、お前か。


 誰の声かは分からない。

 だが、それは“今ここにいるマウ”ではなく、“どこかにいたはずのマウ”が発した声に思えた。


次の瞬間、HALの視界に、黒いひび割れのようなノイズが走る。


 ――都市が崩れ始めている。

 これはただの勝利ではない。“終わり”そのものの始まりだ。


 そして、その終わりの向こうに──

 HALは、マウの中で何かが“ほどけていく”感覚を捉えた。


 ◇◇◇


 虚無が、降っていた。


 爆発も、怒号も、あらゆる情報の奔流も、もうない。

 ただ静かで、限りなく透明な闇が、二人を包み込んでいる。


「……やった、のか?」


 HALの声が空気を裂いた瞬間、それはただの“つぶやき”ではなく、この世界に最後に刻まれた、人間の“意思”だった。


 返事はなかった。けれど。

 その沈黙の中に、マウの気配があった。


 不意に、HALの心の奥で“何か”が揺れた。

 それは言葉にならないまま、ただ胸の奥で淡くほどけていく。


 マウの存在は、すでに視界から消えていた。

 けれど——消えたというより、“昇華した”のだと、HALにはわかった。


「マウ……お前、まさか……」


 呼びかけようとした声が、次元の狭間で止まる。

 仮想世界でさえ、もはや彼女を捉えきれない。


 彼女は、記憶の残滓でもなければ、データの幽霊でもなかった。

 魂だった。最初から。


 HALは、仮想空間の地平に立ったまま、確かに感じていた。

 マウの中で、何かが“ほどけて”いった感覚。

 それは、迷いでも、喪失でもなく。

 ただ静かに本来のかたちに戻っていくような——


 いや、違う。

 戻ったのではない。**“超えた”**のだ。


 彼女は今や、定義の向こう側にいる。

 データにも、仮想にも、記憶にも縛られない、なにかとして。


「……見たか、マウ。これが、俺たちの“証明”だ」


 誰にでもない言葉が、空へ昇っていく。


 そして、静かに、終わりが始まった。


 ◇◇◇


 虚無が、降っていた。

 それは、終わりの残響ではなかった。

 火花も、衝撃も、すべてが過ぎ去ったあとの、無重力の静寂。


「……見たか、マウ。これが、俺たちの“証明”だ」


 誰の声かは分からない。

 HALかもしれないし、マウかもしれない。

 あるいは、今ここにいない誰かが、遥か彼方から呟いたのかもしれない。


 応える声は、ない。

 だが、確かに感じた。微かに、心の深層を撫でていく、ぬくもりのようなものを。


 沈黙のなか、HALはそっと目を閉じる。

 感情も、言葉も、意味を超えて、ただ“存在”だけがそこにある。


 この闇がすべてを飲み込んでも。

 たったひとつの魂が、ここに確かに“あった”ということだけは、消えない。


 そして——


 白い光が、ゆっくりと差し込んだ。


   続く


   ◆◆◆


 ◆売れない作家の不思議ちゃん部屋より


 俺(ハル)は言ったんだ。

ハル「マウさん、これじゃあ読者は"ちんぷんかんぷん"だって」

マウ「パルスのファルシのルシがパージでコクーン——だからいいんだ」

   (注:ファイナルファンタジーXIIIより引用)

ハル「???—— りょ」





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