第11話 しんぱい

その後、お猫様が平気になったと思ってお猫様に近づいてくしゃみが止まらなくなって悪化したので結局王都のお医者さんに見てもらってからサイハテに帰ってきた。

手紙で何があったか聞いていたらしいけど、その時の僕はあまりにも絶望した表情だったから父さんは叱れなかったと母さんから聞いた。


「イダーテ、しばらくシータくんのお家に近づいちゃだめよ。危ないから〜」


またシルディールさんが悲しい歌を歌っちゃったのか聞いたらそんなとこかしらねぇ〜と少し困った顔をしていた。


お手伝いができなくて暇なので、久しぶりに小屋でまーくんに王都で何があったかを話をしに行くと王都に行く前に用意してもらった万年筆で翻訳をしていた。

部屋が心なしか綺麗になっていて気のせいかまーくんの私物らしきものが増えている。

昼寝用のブランケットだろうか、枕まである。


「1ヶ月くらいだって言ってたのに更に半月?結構時間かかったな」

「ウン」


「身分の高い人と間違われて誘拐されて猫に助けてもらってはっちゃけてたら骨折って帰ることになったけど馬車でそれが響いて休憩してたら猫がいて治ったと勘違いした猫アレルギーは全く治っていなくてくしゃみで悪化して寝込んでいたと。猫量多くね?」


「だって治ったと思ったんだよアレルギー……」


イダーテはしょんぼり膝を抱えた。


「でもまあ、その誘拐犯に殺されなかっただけ良かったんじゃねーの?」

「そうだけどー」


お猫様にさわれると思ってたのに。

全然治ってなかった。

悲しい、とっても悲しい。


まーくんはその様子を見てため息をつくと、マントのポケットの中から紙を取り出した。


「やるから元気だせ」


畳んである紙を開くとそこには猫が、猫の生態がいっぱい描かれていた。


「魔獣猫様の生態?」

「魔獣図鑑に載ってたから翻訳した」


「まーくん……ありがとー!!」


キラキラと目を輝かせながら見つめていると照れたのかそっぽを向いた。

まーくんがくれた紙を眺めていると、今度は小屋の本とは別にしてある読めない文字が書かれた本を取り出して何かを書き始めた。


「何してるのー?」

「宿題。家庭教師がちゃんとやるなら遊びに行ってもいいって言うから」


へーと覗くと文字は読めないけど数字が並んでいた。

算数だろうか、通貨は違うけど数式なら共通だからわかる。


「しばらくお手伝い禁止だから、その間勉強しろって言われたけど誰に教わったらいいんだろうなぁ」

「先生みたいなのいないのか?」


「いないよー基本的なことは親から学んで、みんな学院に入ってから勉強するんだ。でも今のうちに勉強しておくのもいいかなーって」


「じゃあ、早脚もやってみるか?終わったやつならわかんないとこ俺が教えられる」

「魔界語わからないよ?」


「人語の翻訳ついてる本あるからそれ読んで覚えちまえよ。今度もってくる」

「ありがとー」


まーくん、見た目に反して本当に真面目で良い子だよね。

魔族ってもっと悪い子のイメージがあった。

でもやっぱ人類とは敵対しているわけだから付き合い方は慎重にならないといけない。


「そういえば、早脚帰ってくるちょっと前にピンクと薄茶のやつがやばそーなとこに入ってくの見えたからこっそり書き置きで教えたんだけど、あいつら大丈夫だったのか?」


「え?」


ピンクと薄茶といえばたぶんエリーとシータの事だ。

そういえば母さんがシータの家に近づいたらダメって言っていた。


イダーテは少しだけ顔を青ざめさせた。

能力が暴走したのかもしれない。


「悪い、もしかしたら聞いちゃいけねーことだったかも」

「んーん。バレるかもしれないのに危ないと思ってわざわざ教えてくれたんでしょ?ありがとう。ちょっと今から村長さんに聞いてくる」


「おう」


まーくんが返事を返した途端イダーテはシュッと消えた。


「いつ見てもビビるな」


***


「そんちょーさーん」


イダーテはすぐに村長の家にたどり着いて叫んだが返事がない。


「村長さんは今外にいるよ」


そう歩いてこちらに来たのは大きな紙の袋を2つ抱えたシルディールさんだった。

なんか、心なしかお腹がぷよぷよしている気がする。


「どうかしたのかい?」

「その、エリーとシータが怪我したかもって聞いて……」


「ああ、その事。大丈夫、謎のお手紙で早めに救出できたから……と言いたいところだけどエリーちゃんが魔力暴発を引き起こしちゃってね。シータが火傷を負っちゃったんだ。ちょうど治せる人がいなかったから、痕が残っちゃってしばらく包帯でぐるぐる巻きに隠す事になると思うけどあまり気にしないようにしてあげてね」


気にしないで欲しいとシルディールさんが中腰で優しい声で話すが、イダーテは少し引っかかった。


「もしかして、治せる人いなかったのって僕が王都に行ってたから?長引いたから……?」

「そうじゃないよ。元々村長さんとエルダさんは外に用事があったし、本当にたまたま外の村の治癒師も不在だったんだ」


息子のシータが怪我をしたのだからシルディールさんが悲しい歌を歌ってなかったらいいんだけど。

みたところ枯れ草はなかった。


「エリーは?大丈夫?」


「うーん、そこなんだよね。また部屋から出てこなくなっちゃって」


そう言いながら村長さんの家を見た。

どうやらエリーは家の中にいたらしい。


「僕が様子みてきてもいい?」

「そうだね、頼もうかな。そうだ、これエルダさんが買って来た王都のお菓子なんだけど持って行ってくれる?」


「わかったー」


シルディールさんから一袋渡され、思っていたよりずしっと重みがある。

僕も王都にいる時おみやげにお菓子はいるかと聞かれたけど、エルダさんこんなに買ってたの?

思わずシルディールさんのぽっこりお腹をみた。


シータは大丈夫なのだろうか。



「エリー、お兄ちゃんだよ。イダーテお兄ちゃん」


お花のプレートがついたドアをノックしたが返事はない。


「お兄ちゃんからお話あるから入るよー?」


中に入ると本を下敷きに眠っているエリーがいた。


「エリー風邪ひくよー」

「むにゃイダーテお兄ちゃん?」


呼びかけると目を擦りながらゆっくり起き上がった。

机に置かれているのは魔術ではなく治癒についての本だった。


「治癒の勉強してたの?」

「うん、シータが私のせいで怪我しちゃったから治す方法探したくて……シータの腕、真っ黒になっちゃったの」


「エミアさんには聞いたの?」

「聞いたよ。でもすぐ治す方法は今のところないって」


エリーが暗い顔をした。


「そっか、みつかるといいね。でもエリーが頑張りすぎて倒れたら良くないよ。シータも悲しくなっちゃう。ちゃんと休憩してね」


はいこれシルディールさんから、とお菓子を渡すとエリーが目を細めた。


「お菓子……最近いっぱい貰うから食べきれなくて」

「んー他の人には内緒なんだけど、実は二人を助けてくれた子がいたんだ。その子にあげようと思うんだけどいい?」


「うん!イダーテお兄ちゃん全部持ってっていいよ」


「王都のお菓子だよ?いいの?」

「じゃあ一箱だけもらう。その子何が好き?お礼したいな」


まーくんが好きなものといえば勇者や聖女に関連するものだろう。


「うーん、村にある勇者とか聖女とか英雄の物語が好きみたい」

「物好きすぎる」


「え?」


「シータとイダーテお兄ちゃんの家の間くらいに小さな小屋があるでしょ?本がいっぱいあるから持って行って読んでもいいよって言われて、何冊か持って帰って読んだんだけど……」


古代語が読めるのかすごいなと思っていたら、エリーがとてもとても真っ黒な目をして言った。


「どれも物語の最後に誰か死んじゃうの。ちょっと危ない能力持ってる勇者が魔王を倒しても、石を投げられて怖いって街の外に追いやられたりして。悲しい本ばっかりだったから読むのやめちゃった」


「そ、そっか」


「じゃあ家に持ってきた本、覚えたからあげるね。ありがとうって伝えておいてくれる?」

「もちろん」


シルディールさんにもう大丈夫そうと伝えて、エリーから預かった本とお菓子を両手で抱えて走った。

エリーがあの様子だとシータも甘いお菓子にはとうに飽きているだろう。

シルディールさんのお腹が大変な事になってしまう前に、まーくんに太らないお菓子は知らないか聞いてみよう。

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早脚の村人はお猫様に逢いたい〜だけどくしゃみが止まらない〜 青咲花星 @aosaki_castella

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