第8話 仮想世界
前回、第一次試験”バトルロワイヤル”について説明を試験から聞き、いくつかの疑問や不可解な点はありつつも、ニヒツは無事イエロー共に信じられないほど緑が豊かな大地の上に立っていた。
「凄い…ここが…仮想世界…」
「おーい!ニヒツくーん。」
一緒に入ったイエローが、ニヒツの方に手を振って近寄って来る。
「はぁー、一緒に入ったに別の場所にリスポーンしたら意味ないじゃん。」
「リスポーン?」
「ハハ!もしかしてきみ、仮想世界のことも知らなければリスポーンとかログアウトのことも理解してない感じかな?」
「アハハ…すみません…」
「オッケー!じゃー説明してあげるね。」
イエロー曰く、仮想世界とは自身の思考と肉体をデータと呼ばれる状態にして、現実ではないどこかに行く技術である。
そこでは人を殺しても、仮想世界の外に出されるだけで、本当に死ぬわけではない。
最初に言っていたリスポーンとは、仮想世界に入ると最初に起きる現象で、どこからともなく人が現れる事を指す。
「こんな所かな、わかった?」
「はい…何となく…」
若干要領得ない感じではあるが、取り合えず試験が始まった以上は敵を倒す他に選択しは無いので、ニヒツとイエローは歩き出すことにした。
「それで、チームって言うのは…」
「そりゃーあれだよ、仲間って奴。」
「それは分かってますよ、何でチームを作るんですか?」
「だってこの試合のルールってさ、どう考えてもチーム作れって言ってるようなもんじゃない?」
「え?そうなんですか。」
「魔法騎士からバッチをぉ~ってとこで言ってたでしょ、”束”になってもって。」
「はい」
「つまりそれって、”徒党を組んで相手を攻め落とせって”ことじゃない。」
「あーなるほど。」
「それに、どうせ合格者が最大6名でバッチを護ることを考えても、最大人数の6名ぐらいのチームを組むのが最善でしょ。」
イエローの説明を聞いて先ほどの大混雑の理由をニヒツを遅れて理解した。
(そうか、同じチームを組むためには先に組んでいた仲間と一緒のブロックに行く必要がある…)
もし残ってしまい、あまりの所に入ることとなればチームとは組めず一人で戦い抜くことになるため試験合格への難易度がぐんとあがる。
「てことは皆さん試合前にチームを?」
「そうだね、基本的には…」
「じゃーもしかしてイエローさんも僕以外に!」
「えっへへ、いないよ。私友達少ないし…」
ニヒツはその発言を聞いて、少し反省した。
「すみません、踏み込んだ話をしてしまって、気に障りましたか?」
「ううん、仕方ないよ。だって私…」
「おっと!誰かと思えば”人殺しちゃん”じゃん。」
二人が会話をしながら歩いていると、背後から聞こえた女性の声。
「あなたは?」
「あんたには話し掛けてない、ねぇー人殺しちゃーん…」
「それ!どう言う意味ですか…」
煽るような口調、背後にいる三名の生徒は彼女の言葉に続いて笑っている。
「あんた知らないの?あぁーそっか、確かあんた辺境の村に住む”人間”とか言う弱小種族の生まれだっけ。」
「何を…」
「なに?やんの…」
その直後、森の方から放たれた二つの弾丸。
「死にな、仲間外れでなかよく…」
弾丸の速度、秒速200m、それを見切り対応できる人間などいるはずかない…
(チャリンチャリン)
そう思っていた。
「なにぃ!」
【これで終わりですか?】
銃弾を受け止め、瞬時に放った殺気に当てられ、後ろにいた三名の女性が倒れる。
「なにあんたぁ!本当に人間!?」
「はい、そのはずです…」
最後に残った彼女もまた恐れて震えが止まらなくなっていた。
「ちょっと!あんた…」
「図に乗り過ぎっすよ。」
森の方から走りだし、突如としてニヒツの背後に現れた二人の女性がその後頭部に銃口を突き付けている。
「あっあんた!知らないんでしょ、その子のこと…」
「知りませんね、でも関係ありません。」
「あるわよ!そいつの親父…”人殺し”なの…」
「え…」
彼女の言葉を聞いて、ニヒツはなぜ彼女が「人殺し」と揶揄されているのかを理解した。
「そいつのタイガーアイって家系わね、だいだいモンスターと契約するテイマーの家系で、そいつの親父は使役したモンスターを使ってサーカスをやっていたの…」
「サーカス…」
「そこでとある日事件が起きたの、そいつの親父がいつもようにショーをやっていた最中…火の輪をくぐるはずだったサーベルが突然暴れ始めて、観客を襲い始めた…」
「…」
「それでね、一人…喰い殺しちゃたんだよ、そいつの”ママ”をね。」
それを聞いたニヒツの目に影が落ちる。
「止めようとしたんだろうね、怒れるモンスターの前に立ちふさがって観客を護ろうとして死亡。その後そいつの親父は管理運営上の問題ありとして、殺人罪で逮捕されたの。」
「…そうですか…」
「ねぇ!ドン引きでしょ、テイマーのプロフェッショナルとか浮かれてたタイガーアイ家の人間が、まさか自身の未熟さでモンスターを操り切れず自分の奥さんをぶっ殺しちまうとかさぁぁぁ!!!キャッハハ!」
彼女の高らかな笑いが周囲に響き渡り、それとは対照的に視線を落とすイエロー。
「でも…僕は彼女の”友達”です。」
「え…」
予想してなかった言葉に、イエロー本人含め周囲の全員が唖然としている。
「は?なに言ってんのあんた、そいつの親父は力足らずで人殺してんだよ。怖くないわけ?」
「はい、全く。」
「だって、そいつも同じことするかもよ。自分のペットも操り切れずに人を…」
「そうなったら、友達として、全力で止めます。そして、次からはそうならないように…彼女が努力すればいい。」
イエローはその場に泣き崩れ、銃口を突き付けた二人はその引き金に指をかける。
「それはやめておいた方がいい、怪我…しますよ。」
「は?なに言ってんのあんた。」
「この状況どう考えても君っちがふりっすよ。」
「どうかな…」
二人はニヒツの発言に当然おののくことは無い、なぜならどう考えても零距離で銃口を突き付けている自身らの方が圧倒的に有利だからだ。
「いいよあんた達、そのバカ殺して。」
「「おっけぇ!」」
二人がかけていた引き金を同時に引いた瞬間。
「あれ、どうなってんだ一体…」
「姉さん、安全装置はいったままだったす!」
「は?そんなわけないだろ、さっきまで…」
「かけておきました、貴方達が僕の背後に立った時点で…」
その言葉に、背後にいた両者が同時距離を取り、驚愕する。
「ありえいっすよ…そんなの…」
「そんなわけ…ないだろ…」
二人の目にはすでにニヒツの姿が変わっていた見えていた。
先ほどまで見ていた小柄で弱弱しい眼帯の少年は既におらず、かわりに…
【もうやめませんか?僕は女性を殴りたくない…】
「「ひぃ!!!」」
そこには明らかな化け物がいた。
「あっ!あんた…」
仲間だった二名はニヒツの放った殺気にやられ、最初の三名動揺に戦闘不能によりログアウト。
そしてその光景を見ていたリーダらしき女は、腰を抜かして膝を落とす。
(あっあれ?おかしいなぁー、膝に…力が…)
恐怖のあまり涙目で、自身の体に何が起きたのかも理解しきれていない彼女の前にニヒツは近づき…。
「納得していただけましたか、僕は強いのでサーベル一体に殺されません。ぶん殴って弱らせてから、取り押さえます。」
「そう言う問題じゃないでしょ!人殺しの…人殺しの娘よぉ!」
「だから何ですか、お父さんはお父さん、彼女は彼女です。それに人は過ちを犯す者、人殺しは決して許されませんが、それでも起きてしまったこと、やってしまった罪と向き合い…”やり直すために”刑務所があるんです。」
「でっ!でも…」
「もういいですか?チェックメイトで…」
最後のニヒツの言葉に、殺気は無かった…。
むしろ優しくすらあったその言葉に、目の前の彼女は白目を向いて答えた。
(プシュン)
周囲に響き渡る消滅の音、彼女達全員が完全にログアウトしたことを意味する現象。
ニヒツはそれを眺め、自身がこうならないようにと再び気を引き締める。
「あの!」
イエローはそんなニヒツを引き留め、声をかけた。
「私を…受け入れてくれるの?」
「そうしない理由がありますか?」
イエローは再び泣きだし、ニヒツは泣き崩れないように彼女を抱き寄せた。
(お父さん、私ずっと悩んできたけど…やっと先に進めそうです。”この人”となら…)
イエローが落ち着くまでには5分程度がかかったが、泣き止んだ後、その後の計画を立てつつ二人は先に進むのだった。
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