第7話 本戦開始

前回、波乱はありつつも無事予選を通過したニヒツ。


パンチグマシン諸々の弁償はヒュースが立て替える形で収まった。


「すみません!すみません!」

「いいよ、出世払いでね。」

「はい!必ず…」

「アハハ…」

(冗談なんだけどなぁー)


黒騎士の年収は数十兆円を超えるので、あまり痛くはないのだが、ニヒツは相変わらず真面目だった。


それから三日を挟み、ヒュースと共に抵抗本土”帝都シルバーズジュエル”へと出向き…


「高層ビル…って奴ですか…」


車の窓から見える多くのビル群に、街で見た建物以上に衝撃を受け、ついに声が出亡くなったニヒツ。


「まぁーな、本土は近代化が進んでいて、他の村々と比べれば未来の世界に来たような感覚になるだろうな。」

「ですねぇ…」

「フッ!試験までまだ一週間もあることだし、今日ぐらいは回って見てもいいんじゃないか?」

「いいんですかぁ!!!」


ニヒツは目を輝かせてその提案に乗った。


「はぁ~楽しかった。」

「それは何より…」


一通り遊び周り、ヒュースと共に止まっている部屋にはそこら中にクレーンゲームで取った景品やコンセプトカフェで買ったコースター、メイドカフェで貰ったチェキに、競馬で稼いだ金とテーマパークのグッズに服屋で買った服などなど…


「トレーニング用具も沢山買えたし、このマ・ン・ガ?なる本も沢山手に入りましたぁー。」

「それはよかった、楽しんで貰えて私としても嬉しいよ。」

(まさか、最初に貸したお金を競馬で10倍にして返してくるとは思わなかったけど…)


ニヒツの豪運とか色々に驚愕するヒュースであった。


それから数日間の間、初日で遊んでいたのが嘘のように修行や試験への対策に励みついに…


「はぁ!」


威力は豆鉄砲レベル、大きさも小さいし距離も飛ばないながら、少しだけ形になる程度には魔弾を使えるようになったニヒツであった。


「あの…今まで本当にありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそ。色々楽しませて貰ったよ…」


そこは本戦会場前、ここまで共にしてきたヒュースともこれ一旦の別れ。


「次会う時は、立派な騎士として…是非私の騎士団に入ってくれ。」

「はい!必ず…」


すると最後にヒュースは、ニヒツにとある箱をプレゼントしてきた。


「なんです?これ…」

「開けて見なさい。」


それは”白い形態型ドローン”だった。


『プロトコル・545、認証データー確認、所有者登録ヲスマセテクダサイ』

「えっと!えっと!」

「これはこうやってやるんだよ、あとこれはこれで、ここはこう…」

「あぁー!なるほど、凄いですね。空中に透明な画面が…」

「今時の子は皆持ってるからね、なれておいた方がいいよ。」

「はい!」


諸々の設定を済ませたのち、ニヒツは再びヒュースにお礼をして、ヒュースは自身のバイクに乗り込み空を飛んで街の方へと消えて行った。


「…いつか、絶対お礼をしなくっちゃ。」


決意新たにニヒツは本線会場の自動ドアをくぐり、受付を済ませたのち、ゲートをくぐってついに…


「ここが…」


帝国国立魔法騎士団養成学校、入学試験予選会場のグラウンドへと、足を運んだ。


「相変わらず凄い数だな…」


現在ニヒツがいる収容人数5万5千人を誇る帝国最大のドーム、”ジュエリードーム”。


そこに集う全ての者が予選参加者三千万人のあの場で、実力と技術、才能を見せつけ、選び抜かれたわずか五千名の一人。


(わかってる、ここにいる全員が選び抜かれた猛者ばかり…)

「油断は…できない…」


そう身構えていると、背後から聞き覚えのある声がした。


「おぉーい!ニヒツくーん!。」

「”イエローさん”」


彼女の名はイエロー・タイガーアイ、前回ニヒツに加点制度の事を教えてくれた黄色いメッシュの彼女だ。


「ふぅ~、知ってる人に会えてほんっっっとーーーに良かったよ。これから一緒に頑張ろうね!」

「はい!お互い、悔いのない戦いをしましょう。」

「あぁ…その事なんだけどさぁー…」

「どうしました?」


ここは入学者を決める戦場、例え仲が良くとも試験が始まれば敵同士、だからこそ慣れ合うのではなく明確に高め合うライバル同士としての胸を伝えたニヒツ。


しかし…、なんだかイエローの様子がおかしい。


「ここだけの話なんだけどさ、たぶんこの予選…」


彼女が試験の内容について語ろうとした瞬間、試験官からの号令が入り、一同が背筋を伸ばして自然と隊列を作り、敬礼をして試験官の方を向いた。


「諸君!まずはおめでとう、そして”地獄”へようこそ。君達全員が”かの英雄”に憧れ、ここに集ったことは重々に理解しているつもりだ。もしかしたら、己で進んでここに来たものばかりではないかもしれんがね…。」


試験官は”とあるツンツン頭の生徒”を睨み付け、その様子はニヒツは見ていた。


(なぜ彼を?…)


目つきの悪い男ではあったが、特段他の参加者との違いはないが…


「うっうん!すまない、長話は好きじゃないだろう…”ドローン”はしまいなさい、”フードの君”…。」


そしてもう一人試験官に名指しされた生徒は、黒いフードを深々と被って自身の携帯ドローンを操っているどこか不気味な男だった。


「ひやぁ!」


その時だった、突如上がった奇声に試験管は再び視線を変える。


「何か…質問かね、実験番号5010、”ネイビー・トルマリン”くん…」

「いや…何で僕の名前を…」

「当然だろう、参加者全員の顔と名前は覚えているさ。で?質問はあるかね?」

「いえ!何も…ございません。」


試験官が話している男は金髪の成りに対して、凄まじくおどおどと挙動不審な男だった。


「ふむ、ならばよかろう。それでは諸君、長話もなんだから担当直入に言おう…第一次試験は24ブロック、約200名づつで行われる”バトルロワイヤル”だ。」

「バトルロワイヤル?」

「ニヒツくん知らないの?ちょっと前にゲームとかで流行ったじゃん。」

「えっと僕、電子機器のない田舎育ちなもんで…」


その後試験官が話したルールは、以下の通りである。


「合格条件は、制限時間5時間以内に、最後の一人になるこおと。」

「五時間以内!?」

「無理に決まってんだろ、200人だぞぉ!」


衝撃の合格条件に、周囲が騒ぎ始める。


「そしてもう一つ、それぞれのブロックには必ず5名、プロの魔法騎士団の皆さんが配備されているエリアが存在する。」


そう試験官が話始めると、奥の扉からぞろぞろと魔法騎士団が隊列を組んで現れる。


「こいつらが今回のひよっこ共か、シッシッシ!」

「侮るなよ、今年も”あいつ”がいる。」

「げぇ!マジかよ、ちびっまいそぉー」


わらわらと集まった騎士団員の一部は、とある参加者を警戒している様子だった。


「彼ら24名は昨年度に学園を卒業し、晴れて魔法騎士団に入隊した卒業生だ。階級は最低の第五級だが、侮るってはいけない、何せ彼らはこれから君達が挑む地獄の試験を乗り越え入学し、地獄よりもさらに厳しい学校での学びを終え、卒業試験をパスしたエリート中のエリート。まだ学び舎にすら立てていない君達では”束”になっても勝てるかどうか…」


試験官の言葉に、一部の生徒は引っかかりを見せていたが、ニヒツは特に何も思うことは無かった。


「故に、倒せとは言わない。奪い取ればいい、彼らはバッチを取られた時点で例えどんな状況だろうと”強制的にログアウト”するように指示してあるから安心したまえ。」

「ログアウト?」


ニヒツはたった一言、聞き覚えの無い言葉に困惑していた。


「すみません試験官!」

「何だね。」

「あの、騎士団員の方々の場所はどこに…」

「あぁーそれなら、君達の携帯型ドローンにマップを送ってある。」


試験官がそう告げると、ニヒツの背後で浮いていた携帯型ドローンから「ピロピロ」と通知音が流れる。


「これか…ん?」


しかし、そのマップを見てニヒツはある違和感に気づいた。


(ここ…どこだ?)


そう、そのマップに記載されたエリアが帝国内のどこの事なのかわからなかったこと、それと同時に…


(こんな地形が本当に存在するのか?教科書通りなら帝国の大地は全て…)


ニヒツの疑問は正しかった、妖精族の国帝国は気性変動が激しく、常に台風や嵐に猛吹雪と異常気象が絶えない国なのだ。


そしてもう一つの帝国の特徴として、領土のほとんどが崖に覆われていることである。


そのため平原はなく、崖の下の空間にそれぞれの集落が出来ている状態で言ってしまえば大きな集落はあれど、大会を開くような広いスペースがどこにもないのだ。


(帝国は異常気象の影響で緑が絶えた荒地のような大地のはず、それを昔の人々が”エメラルド家”手動の元、技術を結集し”テラフォーミング”技術を開発して、何とかまともに生活できるように、63個の地区にそれぞれ一台ずつわけ、その地区の領土を支配する貴族の下で僕達平民が暮らしていると聞いたことがあるが…)


ならば、このマップはやはりおかしい、こんな広大な緑豊かな場所が帝国のどこかにあるはずが…


「他に質問は…」

「あ!あの…」


ニヒツが疑問を口にしようとした瞬間、遮るようにして一人手を上げた者がいた。


「あの、私形態型ドローン持ってないんですけど…どうしたら?」

「あぁーそれなら心配いらないよ、支給品があるから、他にも持っていない者は名乗り出てくれ、この後人数分受け渡しを行うから。」


彼女が質問を終えると、ニヒツはもう一度発言しようと手を上げる。


「どうしたのかね、眼帯の君。」

「あの、このマップに書かれた場所って帝国内のどこですか?」


その質問が来ると、試験官も周囲の生徒も少し驚いた様子だった。


「あっあのね、君はそうか…”人間族”の村には伝わってないかもしれないが、今の時代は実際の場所で試験は行わないんだ。」

「え?」

「このキューブが見えるかな。」


試験官がニヒツに説明しながら取り出した一つの青いキューブ。


「今から君達には、ここに24個ある青いキューブにそれぞれ触れてもらう。そうすると、”仮想世界”と呼ばれる場所に飛ばされるからそこで戦ってもらうことになっているんだ。」

「なるほど…」


ニヒツは説明を受けてなお、理解しきれていない部分があった。


(仮想世界ってなんだろう。)


ニヒツは科学技術にはかなり疎いのだった。


「うっうん!気を取り直して、次に失格条件を話そうか。」


失格条件、その言葉はこの場にいる全参加者にとって耳の痛い言葉だった。


「一つ、上記の合格条件のいずれも制限時間内達成できなかった場合。」


それが意味するところは、5時間と言う短い間に最後の一人が絶対に決まるわけではないと言うこと。


「当然、バッチ所有者は人数から除外される。それと関連して二つ目、”合格バッチ”を制限時間いっぱいもしくは最後の一人になるまで所持していること。」


その言葉を聞いて、参加者全員に激震が走る。


「え!奪ったら合格じゃねぇーのぉ!」


一人が思わずそう反応した、そしてそれを聞いていた試験官がそれに答えるようにして続けた。


「今の言葉を聞いて君達もわかったとは思うがね、速くバッチを奪えばいいと言うわけではない、バッチを奪っても他の参加者に奪われれば君達は再び生き残りをかけた戦いに逆戻りになってしまうわけだからね。」


試験官が述べた二つの失格条件の意図をニヒツは考えていた。


それは恐らく、試験中に隠れ潜み死を恐れる参加者の排除と200人と言う数を否が応でも順当に減らしていくための処置であることに…。


「では諸君、列になりそれぞれのキューブの方に触れなさい、定員は一つのキューブにつき200名づつだからね、速めに並んだ方がいいと思うがね。」


試験官のその発言の直後、一斉に動き、会場は大混乱を極める。


「ニヒツ君、一緒に行こ。速くしないとチーム組めなくなっちゃうよ。」

「チーム?」

「いいからいいから、速く速く。」


イエローとニヒツは押し合う行列の中を何とか潜り抜け、キューブに触れることに成功した。

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