第12話『ステラの行方』


 まず、わたしは魔王さんと一緒に、魔王城の周辺へと足を運んだ。


 ステラはここにもちょくちょく遊びに来ていたし、もしかすると目撃情報があるかもしれない。


「……ステラちゃんですかい? 今日は見てませんぜ」


 お城の復旧作業をしていた魔族さん(オークという種族らしい)に魔王さんが尋ねるも、彼は首をかしげた。


「そうか……このあたりで、怪しい者を見た覚えはないか?」


「怪しい者……? そういえば、人間を見ました」


 魔王さんが尋ねると、オークさんは思い出したように言った。


「人間……?」


「ええ。やせ細った男で……最初は街から迷い込んだのかと思いましたが、いきなり話しかけてきたんっすよ」


「その者は、なんと?」


「汚れた血を持つ子どもを知らないか……と。知らないと答えたら、いつの間にか姿を消していましたがね」


「……わかった。ありがとう」


 お礼を言って、わたしと魔王さんはオークさんと別れる。


「魔王城の近くに人が来ることは、珍しいんですか?」


「基本、人間は我々魔族を恐れているからな。それこそ、迷い込んだのだろう」


 魔王さんはそう言って、別の魔族に声をかけに行った。


 ……人は魔族を恐れる。


 当然のように口にされた言葉に、わたしはなんともいえない気持ちになっていた。 


それこそ、ステラがなんの抵抗もなくこの場所を訪れていたのは、あの子が魔族と人間が共存する村の出身で、魔族に対する偏見を持たないということが大きいのだろう。


 ……その後も魔王さんと二人、魔族たちから話を聞いて回るも……有力な情報もないまま、日が暮れてしまった。


 わたしたちは落胆しつつ、一旦シェアハウスへ戻ることにした。


「勇者さん、そちらは何か情報がありましたか?」


 帰宅してすぐ、人間の街で情報収集をしていた勇者さんに問いかける。


「ステラの目撃情報はありませんでしたが……街の中に、怪しい男がいたと」


「怪しい男?」


 勇者さんの言葉に、わたしと魔王さんは声を重ねる。


「私も実際に目にしたわけではありませんが、通行人を呼び止めては、片っ端から話を聞いて回っていたそうです」


「聞いて回っていた……とは?」


「汚れた血を持つ子どもを知らないか……と」


 続いた勇者さんの言葉に、わたしは背中に冷たいものが走った。


「妙な行動をするな。その男は何者なのだ?」


「私にもわかりません。しばらくすると、その姿は消えていたそうで」


「気になるな……見た目の特徴は聞いていないのか?」


「いえ、特には……」


「……あの、ちょっといいですか」


 あることに気がついたわたしは、魔王さんと勇者さんの会話に割って入る。


「実は、魔王城にも人間の男性が現れたそうなんです。その人も『汚れた血を持つ子ども』を探していたそうで」


「ではどちらも、同じ人物を探していたと……?」


「はい。その『汚れた血を持つ子ども』って……ステラのことを言っているのではないかと」


「なぜあの子の血が汚れていると……はっ」


 魔王さんは否定しかけて、目を見開いた。


「魔族と人の混血……そういうことか」


「それでは、ステラはその男にさらわれたということですか? もしそうだとして、なんの意味があるのでしょう」


「それは……」


 勇者さんが口元に手を当てながら言葉を紡ぐ。わたしは答えられなかった。


「理由は簡単だ。我々にとって大切な存在であるステラを人質に取ることで、戦争を続けてほしいのだろう」


 その時、魔王さんがそう口にする。


「じゃあ、犯人は戦争が終わってもらっては困るということですか?」


「そういうことだな。ちなみに犯人の目星はついている」


 わたしが尋ねると、魔王さんは憎々しげな表情で言った。


「そしておそらく、犯人は魔族だ」


「魔族ですか? 姿は人間にそっくりだったそうですが」


「魔族の中には、幻術を使った変装を得意とする者がいる。魔王城に現れた男と、人間の街に現れた男。どちらも幻のように消えたそうだし、その可能性は高いと思うぞ」


 幻術による変装……そう言われても、わたしはピンとこなかった。


「どちらにせよ、奴なら何らかの事情を知っているだろう。居場所ならわかる」


 魔王さんは言いながら、手のひらに半透明の球体のような魔法を展開する。


 その中心と、少し離れたところに二つの光があって、一定間隔で点滅していた。


 話の流れからすると、探索魔法のようなものなのかな。


「近くの森の中か。勇者よ。ともに来てくれ」


「わかりました」


「あ、あの」


 二人が険しい表情で出発の準備を始める中、わたしはおずおずと声をかける。


「わたしも連れて行ってくれませんか」


「……相手は魔族です。さすがに危険では?」


「そ、それはわかっているつもりですが……ステラを、家族を助けたいんです」


 真剣な表情でそう伝えると、二人はしばし顔を見合わせたあと、ほとんど同時にうなずいた。


「……わかった。ユウナ、私たちから離れるなよ」


「ありがとうございます。ゴン吉さん、お留守番をお願いしますね」


「うにゃっ」


 ゴン吉さんにそう伝え、わたしは勇者さんたちと一緒に夜の闇の中へと飛び出したのだった。

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