第11話『勇者と魔王の決意』
「ユウナ、少し話があるのだが、入ってもいいだろうか」
その日の深夜。ステラを寝かしつけてから管理人室で日記を書いていると、魔王さんと勇者さんがやってきた。
「構いませんけど、お二人揃ってどうしたんです?」
「実は、ステラの言葉がずっと引っかかっていまして」
しっかりと扉を閉めたあと、勇者さんが口を開く。
「ステラの言葉?」
「ええ。私と魔王に戦ってほしくないと言っていた、あの言葉です」
「ああ……」
そこまで聞いて、わたしは思い出す。
「わたしも、戦争が終わって二人が戦わずに済むようになるのなら、それに越したことはないと思います。ですが……」
あれがステラの本心であることは間違いないだろうけど……実際に戦いを止めるとなると、様々なハードルがある。
それこそ、以前二人から話を聞いたように、人も魔族も、この戦いに依存しているから。
二人が手を取り合って終戦を宣言したところで、すぐに別の問題が起こるだろう。
「この戦争を終わらせることの難しさは、当事者である我々が一番わかっている」
「そこで考えたのですが、まずは休戦期間を少しずつ伸ばそうと思っています」
わたしが押し黙っていると、二人は決意を秘めた目で言った。
「休戦期間を……伸ばす?」
「ああ。今でも二日に一度は休戦日を設けているのだ。お互いの消耗具合や、天候……何かしらの理由をつけて休戦日を増やし、戦いを三日に一度、四日に一度と、じわじわと間隔を広げていく」
「そしてゆくゆくは、停戦状態を既成事実化してしまおうと考えているんです。私と魔王なら、それが可能です」
「……それが実現できれば、確かにお二人が戦わない世界になりますが……そううまくいくでしょうか」
「正直、難しいだろうが……やってみないことには始まらん」
「そうです。ダメならば、別の手立てを考えるまでです」
二人はきっぱりとそう言い放つ。そこには、この世界の命運を握る者としての確固たる意思があった。
「わかりました。わたしにできることは少ないと思いますが、家族として、お二人を応援します」
「ああ。私も勇者も、しばらくシェアハウスを留守にすることが多くなると思うが、その間、ステラをよろしく頼む」
安堵した表情の魔王さんに、わたしはしっかりとうなずいたのだった。
◇
……その翌日から、魔王さんたちはさっそく行動を起こした。
全ては、ステラの願いを叶えるため。
魔王軍と勇者軍の戦いそのものは続いていたものの、休戦日はじわじわと伸び、一週間もの間戦いが行われなかった期間もあった。
魔王さんと勇者さん、二人の頑張りの成果が出ている気がして、わたしとステラは休戦日が増えるたびに喜びあっていた。
……ところが、何もかもはうまくいかなかった。
魔王さんと勇者さんが行動を起こし始めてから一月が経過した頃、事件が起こった。
「……ステラがいない?」
「そ、そうなんです。さっきまで、外で遊んでいたんですが」
今日も休戦日ということで、シェアハウスの周囲は平穏そのものだった。
わたしは洗濯物を干しつつ、少し離れた草原を駆け回るステラを見ていたのだけど……一瞬目を離した隙に、その姿が見えなくなってしまったのだ。
「ステラ、どこに行ってしまったんでしょうか。お昼になっても、戻ってこないんです」
外出先から戻って来た勇者さんたちに事の顛末を伝えると、どちらも表情を曇らせていた。
「うにゃあ……」
わたしの足元のゴン吉さんも、もの悲しげだ。
それこそゴン吉さんが犬ならば、ステラの持ち物の匂いをたどって行方を探す……なんて方法も取れたかもしれないけど、彼は猫。そんな芸当はできない。
「何にしても、探すしかあるまい」
「そうですね。街の皆に聞き込みをしてみましょう」
ややあって、魔王さんがそう口にし、勇者さんも同意する。
わたしもその意見に賛同し、二手に分かれて聞き込みを開始したのだった。
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