第三章 冒涜という名の神々、定めに反旗を翻す崇拝よ
第13話 全にして一一にして全、ガンダムにしてJOJO
……………
黒い輝きを持つ人型の存在。
それは焼け焦げた死体のようにも、人形のようにも見えた。
あたりには焦げたようなにおいが漂い、
法水はその中でも、最も冷静な様子を見急いている
「キミは随分落ち着いているようだが、見ていたのかい? 一部始終を」
帽子の端より視線が来る。寡黙な彼は呟くように、しかし根底に信念を感じる重みを以て語る。
「全員の視界が一瞬奴から離れたのだろう……。誰一人として正確に現象を知る者はいない、少なとも全員そう証言している。オレを含めてな……」
「だが君は何かに気づいている。その視線、瞳孔、それが物語っているよ」
「それはお前もだろう。そこに転がっているよくわからねぇ物体から流れ出ているドス黒い雰囲気。アイツらもどこかでそれを察している。ジジイは特にな」
帽子のつばを掴み、彼はそう吐き捨てる。だが、法水はその圧力を感じさせる風格に気圧されることなどみじんもなく、探偵としての本分、本性を顕著に表す。
「それは分かっているさ。だが君はもっと重要なものに気づいている。いや、知っているな? この場面における何か重要なコトを! 真っ先に博士に話を切り替えようとした事や帽子を触ったことなど増々怪しい。ぜひ問い詰めさせていただきたいねぇ!」
「めんどくせえな……。クソッ……」
だが、彼がそう口を開いた途端、その表情が一変する。
周囲の状況に変化はなく、それ故に法水もその突然の変化にやや戸惑いを見せた。
「やばい! なにか! やばいぜッ!」
ピッキィーン
「「「「!」」」」
「逃げろーーッ!!」
その叫びと共に、部屋にいる全員が一斉に出口に向けて走り出す。
今まで好き勝手に暴れていた各々が一様な姿を見せるのはどこか滑稽であったが、その中で法水だけが部屋に留まろうと黒い
「なにをしているの麟音!」
「く!」
支倉にひょいと片手で持ち上げられた法水はそのまま部屋の外へと軽々連れ出される。
法水の身体が部屋を出る前、黒い
法水は身体の大部分がその闇の中に呑み込まれたが、支倉が引っ張り出すことによって何とか部屋の外へと飛び出す。
「ああ、あああ!? あああああ!!」
救出された彼女は今までになく錯乱した様子で、廊下に膝をつき、息を切らしながら叫んでいた。
「麟音!? だ、大丈夫なの!?」
心配する支倉の声に、法水はぴたりと動きを止め、ゆっくりと顔を上げる。熊城刑事などが心配げな視線を送る中、現れた彼女の顔は放心した様子からすぐに笑みをたたえ、言葉が紡ぎ出される。
「あれは、正に
「どうやら本格的に頭をおかしくしてしまったようだな」
「おや、JOJOクン、それは心外だねぇ。これでも頭はすっきり冴えてるさ。
考慮すべき事象、考え得る推論が無限の泉として湧き上がってくる。今なら私は世界の秘匿をすべて明らかにできるだろう。それだけこの超常的現象は示唆に富んでいるのだよ!」
「ヤレヤレだぜ……。まあ、頭は最初からおかしいか」
彼の減らず口を無視して法水は立ち上がる。
彼女が無事である様子を認めた熊城は質問を投げる。
「一体何を見たんだあの中で……。法水」
「何を見たか、は重要ではない。問題はそれが何を示すか、だよ。私はあの中で虐殺と自意識の混濁を見た。そして私はひどく混乱し、錯乱した。
だがその具体的な例はどうだっていいんだ。重要なのは黒いガンダムよりそれが滲みだしたということ。そしてその依り代として
また、これが恐らくはリンフォンを契機に発生しているということも重要だ。
リンフォンの傍ら、この応接室の隣、あそこの理事長室で死んでいたのは
非常に対称的にこの二者は関係しているように見えるね。
具象によって象徴が現れる部屋と、具象によって閉ざされ、象徴も何もかもが闇に葬られる部屋。片方の死は確定し、片方の死は不明。片方は死後、より死体らしく血を噴き出したが、もう片方は死が時間とともにより不鮮明になった。
共通していることは一つ、超常による現状の理化学的常識を遥かに凌駕した理論がこの背景に存在すること。一つはリンフォン、そしてもう一つは、貴方、
「何!?」
熊城が博士の方を見遣る。
博士はひどく咳き込みながら手を震わせ、顔面蒼白となりながら、瞳に涙を滲ませていた。
彼は震える声で一言。
「門にして、鍵」
そう絞り出した。
「
博士は震える身体を必死に制御しながら話す。
「儂が生涯において、途中で読むのを諦めた書は片手で数えるほどだ……。だが、その中でもあの本は異常だった! 読んでいる時に先程と同じ、いやそれ以上の『殺気』を、『狂気』を感じ取ったのだ!
それはまるでケツの穴にツララを突っ込まれた気分……。このまま読んでいくことで儂自身が儂自身の事を信じられなくなることが確実に思えたのだ……。確実! そうコーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実じゃッ!」
「あなたほどの人が果たして本当にそう思うでしょうかねぇ、そのような借り物の言葉で……。まあいいだろう。そういうことにしておこうか」
法水は猜疑心の強い表情で語っていたが、途中、支倉がジトっと法水を牽制して睨んだことで彼女はすぐに話を切り替えた。
「それよりも、この事件における重大な要素が更に増えた『リンフォン』、『ウィチグス呪法典』そして『ネクロノミコン』この三つによってこの恐るべき
いや、もうすでにそれはとっくの昔に始まっている。そしてそれが最後の最後まで至れば……。世界が破滅するだろう」
「何を馬鹿な!」
熊城の正当な叫びが響く。だが、法水は首を振る。
「残念だがね、熊城クン。こんなものが目の前にあるワケだ。これが何かの間違いでこの部屋を出て、この館を、いや、この一帯を呑み込んだらどうする? そのまま勢い留まることなく無制限日常を蹂躙すれば? 少なくとも我々の秩序は一気に瓦解して跡形もなくなるだろう。
何故そんなことを私が心配するのかは君もわかる筈だ。道理のとくに通らない存在が次に何をするかなんて誰も想像がつかない。だからこそ無制限に可能性が広がり収束しない。
正に社会秩序の崩壊と同じように、不条理なる存在というのは可能性を無限大としているのだ。
この暗闇がこの部屋に留まる理由は今のところ確実ではないし、今後も確実とはならない。そして現状我々にわかることは、いつ突然動き出すのか、何が起こっているのか、先々どうなるか、全くわからないということだけだ。
だからこそ警戒するに無駄はない。そして早急にこれについて知らなければならない。ああでもないこうでもないと仮想し、仮説を打ち立てながらね」
長々と法水が語り終えると、熊城の反論とは別の、さしはさまれる声が現れる。
その声は
「あ、あにょ……。わ、私、
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