27てふてふ🦋わたしは大爆発する妖精姫?
「シル様、早くしてくださいにゃ!
いくらにゃんでも危にゃいですにゃ!」
「うはは〜。さすがシルちゃんやんなあ」
「シルはなんでそんなに危機感がないのー!
ウルもなかなかだよ!?」
三人が口をそろえてわたしを非難してる。
焦る様子が感じられないウルちゃんだってかなりのんびりだよね?
「ひとつ問題があるやんなあ」
「わたしもやばいと思うー」
「お二人そろってにゃんですか!?」
「「出口はあっち(やんなあ)」」
「うにゃ!? 魔熊に通せんぼされてますにゃ!?」
洞窟の出入り口は一ヶ所だけ。
魔獣化する熊さんから逃げたのは反対側。
つまりこの先は行き止まり。
「こうにゃったらチャチャがあの二頭を倒しますのにゃ!
本気でいきますのにゃ!」
アンナからもらった服をばさっと脱ぎ捨てるチャチャ。
にゃんこしっぽがぶんぶんしてる。
おお。久しぶりに見た。
にゃんこ獣人の伝統的な戦闘服。
見た目は夢で見た陸上競技の女子選手が着てるようなトップとショーツだけど。
身軽なにゃんこ獣人にとって戦うときはなるべく軽装でいたいらしい。
実際、スカートじゃ戦いにくいしね。
ただ、幼いころから人に混じって暮らすことに慣れたチャチャにとって、この格好になることは恥ずかしくてしょうがないらしい。
チャチャのにゃんこ拳の師匠は堂々としたものだった。
わたしは人を相手にするならともかく魔熊相手に戦う自信がないし、ウルちゃんとラソワちゃんは戦えないだろう。
それどころか足手まといになるに決まっている。
一体二だなんて不利がすぎる。
そもそも騎士隊でさえ魔獣一体を相手に苦戦をするもの。
チャチャが本気で戦うとは言っても、昨日のチャチャと魔熊の戦いは一対一でも厳しそうだった。
魔熊を相手になりふりかまわずに戦うチャチャが傷ついていく。
それに岩からあふれ出す黒い粒々の瘴気が魔熊をさらに大きく凶暴にさせていってる。
魔熊の鋭い爪と牙がチャチャの体をとらえていく。
その度に命の灯火が消えていくように感じてしまう。
「うちもがんばるやんなあ」
「え!? ウルちゃん!?」
チャチャを助るためににおっとりウルちゃんが駆け出していく。
チャチャお姉ちゃんがこれ以上危ない目にあうのは絶対に嫌だ。
もちろんウルお姉ちゃんもラソワちゃんも。
こういうときこそわたしの不思議な力が役に立ってほしい。
だけどどうしたらいい?
わたしにできるのはお願いすることだけだ。
なにがどうなるかは分からないけど、できることをするしかない。
繭になった蚕さんたちの前でちょこんとかがんで手を組んだ両手をおでこに当てて目をつむる。
メリーおばあちゃんに教わった通り、精霊様の心と姿を心に映すように思いを込める。
洞窟の中をあたためる大地の熱を感じる。
妖精の苔が発するやさしい光が輝いてる。
新鮮な風が洞窟を吹き抜ける。
たしかに精霊様の存在を感じられる。
「かわいいかわいいカイコガの蛹さん。
わたしのお願い聞いてくれる?
チャチャと熊さん、ここにいるたくさんの蚕さんたちを助けてください」
瞬間。
背中から二対の羽が大きく広がっていた。
透き通るほどにキラキラと煌めく青が美しい。
青みがかった白銀のロングヘアが輝いてとても幻想的な光を発している。
「シルが妖精になった!」
「うはは〜。
ラソワちゃんもやっぱりそう思うやんなあ。
繭が光ってるやんなあ」
たくさんの繭が白く光り輝いている。
とってもやさしい輝き。
繭を破くことなく通り抜けて、カイコガの羽が広がって羽化する姿のなんて神秘的なこと。
本来、カイコガの羽は退化していて飛べない。
だけど、その羽は蝶々のように大きく広がって、舞うように飛び上がる。
その羽は違って透き通るように白い。
ていうか透けていて向こうが見える。
もしかして実体がない?
だって繭を通り抜けたもん。
「よ、妖精だよー!
カイコガの妖精さんだよ!
やっぱりおとぎ話じゃなかったんだ!」
白く光り輝いて舞い飛ぶその姿は妖精という言い方がたしかにぴったり。
精霊様の御使いってやつだよね?
「うにゃ〜!?」
「チャチャ!?」
魔熊の爪で大きな傷を負ってしまったチャチャが倒れてる。
ウルちゃんが倒れるチャチャの前に割って入る。
あんなにおとなしくなった熊さんなのに、魔熊になってしまうと恐ろしいほどに凶暴化してしまうのね。
こんなのを見せられてじっとなんかしていられない!
チャチャを助けたい!
羽をパタパタしながら短い距離を高速低空飛行。
わたしの周りを舞うようについてくる妖精さんたちが追い越してゆく。
そして魔熊さんの周囲を舞いながら白く輝く粉のようなものを降り注いでいた。
魔熊さんが輝いて禍々しい模様が消えていく。
まるで祝福を受けているような光景。
牙をむいていた表情が穏やかになっていく。
そんな光景を尻目にわたしは傷ついたチャチャを抱きあげる。
「無茶をしたらダメじゃない!
わたしはチャチャも無事でいてほしいんだよ!」
「ごめん……にゃさいですにゃ。
シルが……無事で……よかったにゃ。
ずっと……一緒に……」
もふもふが痛々しい。
シルって呼んでくれた。
わたしにもたれかかるチャチャの瞳に力がなくなっていく。
「ああ。ダメだよ。
お姉ちゃん。
お姉ちゃん、死なないで。
お願いします。
チャチャお姉ちゃんを死なせないでください」
ぼろぼろ流れる涙がチャチャの頬を濡らしていく。
そして……チャチャの瞳が閉じる。
やだ。
だめ。
やめて。
息が……
涙でチャチャがぼやける、ぼやけるよう。
「生きて!」
……
……
……
ぼやける涙の奥で。
青く輝く光がチャチャに吸い込まれるように見えた。
涙をぬぐう。
「これは?」
わたしの背中に生える蝶々の羽から輝く鱗粉が舞い落ちていた。
「うはは〜。
妖精の粉やんなあ。
どんな怪我も病気も治すっておとぎ話の通りやんなあ」
「どんな怪我も?
チャチャ?」
「ううん。うんにゃ?
シル様!?
にゃんでそんにゃに泣いてしまわれてるのですにゃ!?」
痛々しいもふもふがすべて治ってる。
とても元気はつらつなチャチャが戻ってきてくれた。
様も元に戻ったけど。
「チャチャ〜!
よかった! よかったよう!」
またまた涙がぼろぼろあふれてしまった。
チャチャを思い切り抱きしめると焦ってる。
「チャチャが元気になって良かったー!
ところでさ?
熊の毛の色がハチミツ色になってるんだけどー?」
青黒い毛皮に黒々した縞模様の代わりに、まるでハチミツのような色の毛色になっていた。
「……なんで!?
なんで毛の色がハチミツ色に変わるの!?」
「シルちゃんの不思議な力が大爆発やんなあ。
ハチミツ色って黄金にも見えるやんなあ?
メリーばあちゃんに聞いた話なんやけど?
精霊様の御使いが仕わすとかいう黄金の聖獣と違うやんなあ?」
「黄金の聖獣!
おとぎ話にあるよ!
妖精の助力の一つ、黄金の聖獣が悪い魔のものを打ち払って浄化するお話!
ほら見て!
岩から出てくる瘴気を爪で払ってるよー!」
ほんとだ。
ハチミツカラーになった熊さんがカリカリした岩から出た瘴気をたしたしと払うと、小さな青黒い粒々がハチミツ色になって消えていく。
「きっとシルちゃんのハチミツを食べた上に妖精さんの輝く祝福を受けて聖獣になったんやんなあ」
「きっと間違いにゃくそうですにゃ!」
「魔のものを打ち払う黄金の聖獣ー!
ねえねえ!
なんだか洞窟の中が清々しくなってない!?」
「うにゃ!
さっきまでの寒気を感じる陰鬱とした感じがにゃくにゃってますのにゃ!」
「そうやんなあ」
あれ? みんなもしっかり感じてたんだ。
「くわわ畑も浄化できないかな!
そしたら工房も復活だよー!
シル様!
シル様は精霊様の御使いだったんだね!
ううん、シルでいいんだよね!
ありがとうシル!」
わたしの手を握ってぶんぶんするラソワちゃんの笑顔が黄金に輝いてキラキラ眩しい。
喜んでくれるのはわたしもうれしいんだけど……
ええー。
またおかしなことが起きてるよう。
「わたしは精霊様の御使いなんかじゃないよう」
「うはは〜。
その背中の羽は妖精さんの羽やんなあ。
妖精さんを仕わす妖精さんやんなあ。
そういうんはあれやんなあ」
あれってなに?
なんだか聞きたくない気がする。
「妖精のお姫様やんなあ」
「妖精の衣を身につけたシルちゃんが妖精姫ー!
創作意欲が燃え上がる!」
おおう。ラソワちゃんの瞳が輝いている。
いや、わたしは妖精姫じゃないからね?
きっと頭の中には新しい刺繍の構想が生まれてるんだろう。
「うにゃ〜。
シル様が妖精のお姫様にゃんてとっても素敵にゃのですのにゃ〜」
「チャチャまでなに言ってるの?
絶対そんなことないからね?」
つまりあれかな?
ルイとソフィアちゃんがヴィラ王国を救うために追いかける重要な存在は……
わたしってこと!?
どうしても追いかけられる運命なの!?
わたしはお花と虫さんと自由に生きていきたいだけなのに!?
絶対ない! そんなことは絶対にない!
ないの!
そんなやりとりをしている間にハチミツ熊さん親子が洞窟内をどんどんと浄化していく。
うん。浄化という言葉がぴったりなくらいに清らかな空間になっている。
黄金の聖獣っていうのは間違いなさそう。
シクシク。
いや、素敵なことなんだけどね。
シクシク。
そしてカイコガの妖精さんたちが洞窟内を軽やかに舞っている。
んん? なんだか鱗粉がたくさん舞ってるんだけど?
妖精の苔の光に反射してるのか、中空に不思議な紋様が浮かび上がってくるように見えた。
「これはきっとあれやんなあ」
「うにゃ!
魔法陣のように見えますのにゃ!」
「魔法陣?」
んん? どこかで見たことがあるような幾何学模様?
どこだっけ?
もしかして……王宮庭園?
王城のバルコニーから見下ろした庭園の迷路がこんなじゃなかったっけ?
「きっとなにかありそうだよー。
紙があるから書き写して……
ああ!? 消えちゃうよー!
こうなったら覚える!
刺繍職人の記憶力を舐めるなよ!」
いまにも消えちゃいそうな鱗粉の紋様を必死に凝視するラソワちゃん。
その輝く鱗粉が蚕さんたちにも降り注ぐ。
蚕さんたちがとっても元気そうにむしゃむしゃとくわわの葉を食べている。
そしてもう一つの変化があった。
「繭が……輝いてる!
これってもしかして!?
妖精の糸じゃない!?
絶対妖精の糸に決まってる!
中身は空っぽだよー!
つまり妖精さんとして生き続けてくれるんだ!
こんなにうれしいことはないよー!」
繭の一つを手にとるラソワちゃんの喜びようと言ったら。
蚕さんは繭の中で天命をまっとうすることができないもの。
もしかしたらほかの蚕さんも妖精さんとして生きていけるのかもしれない。
それはきっととても素晴らしいこと。
後々、風の噂で聞いた話。
妖精の糸で作られた衣装は魔のものの攻撃を有効的に防御する能力を有することになったとか。
生産数も増やすことができて、各地で魔獣と戦う騎士、衛兵の命を守る兵装として大活躍することになるらしい。
わたしは知らんけど。
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