3てふてふ🦋わたしは変人な絶世の美少女?
「シル様、申し訳ありませんのにゃ。
このお話はしにゃい方がよかったですにゃ」
にゃんこ耳とにゃんこしっぽがしゅんと垂れ下がって暗い表情のチャチャ。
「いいのよ。
聖女様の出現は国をあげての慶事。
陛下をはじめ国中から待ち望まれていた聖女様ですもの。
グーベルト公爵家の功績に応えるために王家としても最大の注意を払っているのよ」
四季の国、ヴィラ王国の状況は何年も前から芳しくなかった。
派閥争いも激化していて貴族同士のパワーバランスも変化している。
以前は王家を筆頭にわたしのお父様、アトレーテス公爵家ゆかりの派閥が大きな影響力を誇っていたけれど、グーベルト公爵家率いる派閥が隆盛を極めていると言っても過言じゃない。
その一番の理由は平民だった聖女様を養女として迎え入れたことが大きな理由かもしれない。
それだけ聖女様の癒しは強力で、疲弊してる国土の回復を期待されているからだ。
そして、聖女様が王宮に現れてからというもの、ルイがわたしに冷たい態度をとるようになってしまったこともわたしは気づいてる。
ううん。それだけじゃない。
この五年間でとっくにわたしたちの心は離れてしまっている。
お互いに気遣うことすらできないほどの忙しい時間。
疲弊してしまった想いは幼い恋心をどこかへと追いやっていた。
そんな状況で現れた聖女様はルイにとって、より輝いていたことと思う。
「あの聖女様はとても可愛らしいお方ですものね。
わたしも少しお話ししたことあるの。
女のわたしでもあの笑顔と魅力には惹かれてしまうわ」
「うんにゃ!
シル様の方がお綺麗で美しく清純清楚で可愛く最高にエレガントでチャーミングでプリティでキュートで聡明で利発で賢くお色気もそのうちきっとたぶん間違いなく発揮されるはずの容姿端麗才色兼備で文武両道な絶世の美少女で間違いにゃいですにゃ!
チャチャの目は誰よりもシル様を見抜いてますにゃ!」
ぶはあと息を吐き出すチャチャがすっごい早口だった。
わたしを抱きしめるチャチャがかわいい。
そのうちきっとたぶんは聞かなかったことにするわ。
「息継ぎしないでよく言えたわね。
ふふ。ありがとうチャチャ。
ルイが聖女様に好意を抱いてしまうのも仕方のないことだと思うわ。
それに……
わたしは好いた惚れたの恋物語よりも恋してやまないことがあるもの!」
せっかくチャチャが綺麗に整えてくれた頭をわしゃわしゃとかき乱す。
「うにゃ。
シル様のご病気が始まってしまいましたのにゃ」
「わたしに自由な時間が欲しい!
こんな虫籠のような生活はもう嫌!
すぐにでも王宮を飛び出してお花やちょうちょさんたちに囲まれたい!
花も虫もいない毎日なんてもう嫌ですわーーー!」
廊下の外まで聞こえるほどに大声をあげてしまった。
未来の王妃になるために充実した教育を受けなければいけないと、アトレーテス公爵領のお屋敷を出ることになったわたしとチャチャは王宮内にある部屋をそれぞれ与えられて日々を送っている。
充実どころかわたしにとっては心がすり減ってしまう毎日だけど。
「シル様。外に控える侍女や騎士たちに聞こえてしまいますのにゃ。
また奇行に走ってると思われてしまいますにゃよ?」
「……別にいいですわ。
わたしの唯一の楽しみを奪われてもう何年も経ってますもの」
「シル様は蝶々をはじめとした虫さんとお花が大好きすぎですからにゃ〜」
そう。チャチャの言う通り。
子どものころから花と虫が大好きなわたし。
王宮に移り住んですぐの時はまだ時間の余裕があった。
観察日記をつけることはもちろん昆虫採集をするのが日課だった。
もちろんキャッチアンドリリース。
なるべく負担のないようにして元の場所に戻してあげる。
ときにはダンゴムシやミミズを集めて侍女に悲鳴をあげさせたり。
蜘蛛やムカデを見てもらおうとしてご学友の女の子たちを失神させてしまうこともあった。
せめてルイならと、ちょうちょさんのいも虫を顔の前に差し出したら悲鳴をあげて逃げられたことがある。
幼いころ蝶々団子になったわたしにトラウマがあるらしい。
おかげでご学友は一人もいなくなってしまったし、未来の王妃なのに専属の侍女はチャチャだけになってしまった。
余計なことをされたらたまらんと思われたのか、自由な時間がさらに減らされてしまったわけで。
欲求不満の日々を過ごしていると発作が起きてしまう。
時折、王宮内に迷い込んだ虫に大喜びしていると奇異な目を向けられてしまう。
虫を愛でるなんて貴族はありえないから。
そんなわたしは当時からずっと変わり者の変人扱いをされている。
花はもちろん虫さんもかわいいのにね。
「明日の入学式に備えて今日は早くにベッドに入ろうかしら?
夜のお勉強は控えてご挨拶の練習ね」
「練習もほどほどににゃさってくださいませ。
バスローブをお預かりしますのでお着替えくださいにゃ」
持ってきてもらった質素なネグリジェに着替える。
あんまり華美なのは好きじゃない。
「あれ?
ちょっと小さくなったかしら?」
「そろそろ寝衣を新調にゃさった方がよさそうですにゃ。
注文いたしますがよろしいですにゃ?」
「お願いします。
それではまた明日も。
今日もいっぱいありがとう」
チャチャをきゅっと抱きしめておやすみの挨拶を交わしてから退室を見送った。
便箋にしたためた挨拶文に目を通しながら天蓋付きのふかふかベッドに横になる。
なんだかとっても眠い。
「寝てしまってはダメよシル。
ちゃんと原稿の確認をしないと……
未来の王妃としてちゃんとしたところを見てもらわないと……」
そう自分で言ってはみたけど眠気で文字が滑っていく。
もうだめ。
意識が遠くなる。
まぶたが完全に閉じそうになる中、宙空からいく筋もの輝く青い糸のようなものが現れて、わたしの体に巻きついていく。
夢を見ていた。
蝶々の昆虫博士になりたくてボロボロになるまで図鑑を読み込む日々。
図書館に行ってはいくつもの本をとっかえひっかえしてた。
いつかはジャングルに行って新種の蝶々も発見したい。
そのためにはいっぱい勉強していい大学に入って教授と呼ばれるような人になりたいとも思っていた。
そのために大好きな蝶々との触れ合いを封印してひたすら苦手な勉強をする日々だった。
勉強に疲れたある夜中。
ふと気になって気晴らしにでもと、クラスメートから借りた小説を読みはじめた。
タイトルは……なんだっけ?
思い出せない。
ルイジュード王子様と聖女様が悪役公爵令嬢のシルフィールの度重なる極悪ないじわるを乗り越えて幸せハッピーエンドになる恋物語。
そしてシルフィールは断罪されて投獄。
哀れな最期を迎える。
恋愛とか小説に疎かったわたしは正直あんまり興味はなかった。
まあ一応年頃だから最初から最後まで一気に読んじゃったけど?
キスシーンなんかはそれなりにドキドキして顔が真っ赤になったような気がする。
どちらかというとそういうのに免疫がなさすぎてのことかも。
なによりも気になったのはそんなことじゃなかった。
このお話の中には……なんだっけ?
ハッピーエンドになるためのとっても重要な存在がいて……
聖女様はその存在を追いかけて……
なんだっけ? 思い出せない。
それはともかく、この夢の中の女の子は誰?
ちょうちょさんが好きだなんてまるでわたしとおんなじ。
あれ?
ルイジュード王子?
シルフィール公爵令嬢?
聖女様?
それってわたしたちのことじゃ……
もしかしてわたし……
物語の中にいる?
そんなわけないわよね?
これは単なる夢。
わたしと似たような好きなことをしたかった女の子の夢。
だけどなんだかリアル。
ああ。
でもこの子は……
病に倒れて夢半ばで死んでしまうのね?
大丈夫。
その夢はわたしが叶えてあげるわ。
だからゆっくりおやすみなさい。
……
……
……
背中がかゆい。
ここは……どこ?
真っ暗で何も見えない。
わたし……寝転がってるの?
なんだかなにかで包まれているみたい。
手を上に伸ばす。
なにかにあたった。
壁?
柔らかいような硬いような?
力を込めて押してみる。
パリッと音を立てて壁に亀裂が入った。
「っ!」
差し込む灯りが眩しい。
これは魔法の灯り?
亀裂に両手を差し込んで思い切り広げていく。
パリパリと音を立てて壁のようなものが破れていく。
知らない天井が見えた。
上半身を起こす。
わたしの体を包んでいる水晶のように輝く青いものが確認できた。
「わたしはこれに包まれていたの?
ここは……わたしの自室じゃないわ。
どこかしら?」
見渡してみる。
見慣れた建築様式。
魔法で灯された部屋。
両扉の小さな窓から夜空が見える。
「とても狭い部屋だけど、王宮の中かしら?」
ベッド、というか硬い台の上に乗せられていた。
あるのは小さなテーブルに椅子。
そしてミニチェストだけ。
マルーゴールドが一輪、花瓶に活けられている。
「背中がかゆいわ」
肩甲骨のあたりがとてもかゆい。
手を伸ばしてさすってみてもなにもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます