悪魔令嬢は聖女じゃなくて妖精姫でした 籠みたいな王宮から逃亡したいわたしは蝶々になって大空へ飛び立ちます 行く先々で伝説を残すかも? 旅の軌跡は花の魔法陣 もふもふにゃんこ侍女付き
こい
1てふてふ🦋わたしは聖女な悪役令嬢?
「お花さん、お花さん。
ちょうちょさんたちがおなかすいたって」
柔らかく暖かい陽射し。
爽やかな風が心地よく吹き抜けていく。
ふわふわした土がいっぱいの花壇に植えられたたくさんのマルーゴールド。
お花はつぼみのままでちょうちょさんたちが蜜を吸えないで困ってる。
「わたしのお願い聞いてくれる?
かわいいかわいいお花さん。
たくさんきれいに咲いてください」
花壇の前でちょこんとかがんで手を組んだ両手をおでこに当てて目をつむる。
太陽と風と土の優しい囁きが聞こえてくるよう。
お花さん、いっぱいの優しい想いを受け取って。
「うわ! マルーゴールドが一斉に開花してく!
シルフィール!
花が満開だよ!」
「ふわあ! きれい!」
目を開けると目の前に広がるフラワーガーデンの花がすべて開花してた。
まるでお花の絨毯みたいに。
白や黄色に水色、たくさんのちょうちょさんたちが花の蜜を吸うために舞い降りていく。
ちょうちょさんたちがかわいいストローを伸ばして花の蜜を吸おうとがんばってる。
開花したばかりでまだいっぱいじゃないはずの蜜をたっぷり吸って花粉のお化粧をするとまた飛んでいく。
「こんなにたくさんの花を咲かせちゃうなんてシルフィールはまるで花の妖精みたいだね!
さすがぼくのシルフィールだ!」
「えへへ。
ルイったらぼくのだなんて。
恥ずかしいよ」
目の前で満面の笑みを浮かべる少年ににっこりと微笑みを返す。
柔らかそうな金色の髪に金色の瞳が太陽の煌めきを受けて輝いてる。
いつもわたしのことを褒めてくれてとっても大事にしてくれる。
わたしを見つめる瞳とまつ毛の長さにドキドキしちゃう。
まだ子どもなのにとっても恥ずかしいことを言ってくるからいつも照れくさくてもじもじしちゃうのよね。
そんなルイはわたしの婚約者。
わたしの大好きな男の子。
四季に恵まれた国、ヴィラ王国の第一王位継承者。
ルイジュード・ヴィラ・エルドラード。
そしてわたしは王家と代々仲良しにしてるアトレーテス公爵家の長女。
シルフィール・アトレーテス。
次期王妃として約束されていることは国内外にも知られてる。
わたしたち二人は生まれたときからずっと仲良し。
わたしのパパとルイのお父様がずっと中のいいお友だちで、わたしたちが生まれる前から婚約の約束をしてたそう。
ママたちも大の仲良しでいまもすぐそこのガゼボでお茶会をしている。
後ろに控える両家の侍女たちが優雅にお茶菓子を運んでた。
わたし専属の小さなにゃんこ侍女も手伝っている。
こんなにいっぱいのお花を眺めながら甘いお菓子を食べれるなんてとっても素敵。
「今年も王宮庭園のなんと美しいことか。
年々、花の種類が増えるばかり。
暇を見つけては手ずから庭いじりをされてると耳にしております。
王陛下を花々にとられて最愛の王妃様にやきもちを焼かれてしまうのでは?」
親しみを込めて陛下に気安く語りかけるのはわたしのパパ。
アトレーテス公爵家当主エドワード・アトレーテス。
パパの言葉の通り、とっても広いお庭が広すぎる。
この国が崇めている精霊様の女神像を祀った噴水池を中心に、垣根で20以上も区切られた花満開の庭園はまるで幾何学的な迷路のよう。
ここでかくれんぼをすると迷子になっちゃうくらい。
実際わたしとルイは迷子になってみんなを困らせたことがある。
「よく言ったな?
この花壇はすべてシルフィール嬢のために用意したものだってことくらいわかってるだろう、エド。
花を咲かせる不思議な力は一体どこからくるものなのか。
まるで聖女のようではないか!」
ルイがおっきくなったらこんな感じになるのかな?
パパの肩に手を回して親しげに言葉を返す陛下。
気やすさならどちらも負けていなさそう。
「聖女とは恐れ多いこと。
先代聖女が身罷られてからしばらく経ちますな。
そろそろ次代の聖女が現れてもとは思っておりますが聖女探しは難航しているのでしょうか?」
「まだ見つからぬよ。
国土の安定と民の安寧のためにもと期待はしているがなかなか。
聖女探しを任じているグーベルト公爵家も焦ってはいるようだが、現れていなければ見つけようもなかろうしな」
「父上!
それでしたらまったく問題ないとぼくは考えます!」
「ん? どういうことかな?
ルイ」
「はい! ぼくの大事な婚約者であるシルフィールが次代の聖女で間違いないと思うのです!」
「ルイったらわたしは聖女様じゃないよ?」
「そんなことないと思うよ?
ぼくのシルフィール。
願うだけで花を満開にするような力があるんだ!
きっと聖女に違いないよ!」
「ふむ。ルイの言うこともあながち間違いとは思わないが。
聖女といえばその強大な癒しの力で広い国土すべてに癒しと豊穣の未来を約束するほど」
「そうですな。
王太子殿下に我が娘をそのようにお考えいただくのは誠に喜ばしい限りではございますが、かようなことなどあるとは思っておりません。
正直、開花の時期と偶然にも重なっている程度のことかと」
「そんなことはありません!
アトレーテス様も先程の光景を目の当たりにご覧になったでしょう!
昨年もそのまた昨年も同じようにシルフィールが願ってすぐのこと!
ぼくはシルフィールこそ聖女と信じてます!」
「殿下の思いはしかと、心より受け止めさせていただきます。
たしかに偶然にしては不思議な現象ではありますな。
ですが聖皇教会の聖女認定の儀式では娘は認められず。
生まれ持って発現するという癒しの御手もありません」
「そんなことは知ってる!
だけど!」
「ルイ。わたしは聖女じゃなくていいんだよ?
聖女になったらルイのそばにいられないもんね」
にっこり微笑んでルイの手をとる。
「あ! えーと。そうだね。
そっか。聖女じゃない方が一緒にいられるね。
ぼくもシルフィールと一緒にいられた方がうれしいよ!」
はにかむルイがとっても可愛らしい。
わたしの大好きなルイといると幸せ。
「大好きだよ……
ぼくのシルフィール……」
「ルイ……」
はわわわわ。
ルイの顔が近づいてくるよう。
わたしたちまだ小さい子どもだよう。
パパたちもすぐそこにいるのにい。
「ちょっと待てい!
このクソガキ!
俺の娘になにをちゅ〜しようとしてる!
万年はやいわ!
離れろ!
半径5メルト以内に近寄るな!」
突然のパパの豹変ぶりに飛び上がってびっくりするルイ。
だけどわたしを見つめ直してお口が近いい〜!
「俺のシルが真っ赤!
なにすんじゃこらあ!」
「うわあ!?」
ルイをヒョイっと持ち上げてぺいっと花壇に投げ捨てるパパ。
「お花とルイが怪我しちゃうよう!」
慌ててルイを助けるために花壇に手を伸ばす。
「ありがとうシル……
うわあああ!?」
ルイがなんだかとってもすっとんきょうなお顔をしてる。
「どうしたの?」
「シ、シシシ、シルが蝶々団子になってる!?」
「あら? ほんとだ」
足先から頭の先まで。
色々な種類のちょうちょがわたしの体中にとまってる。
それこそわたしが全然見えないくらいに。
「ちょうちょさん、お花の蜜を吸いにいってらっしゃい」
その言葉に羽ばたいて飛んでいく。
「び、びっくりしたあ」
ルイのわたしを見る目が少し変わった気がする。
ちょうちょさんは怖くないよ?
「はっはっは!
相変わらず蝶々に好かれているなシルフィール嬢は!
それにしてもエド……子ども相手に大人気ないぞ?
まったく娘のことになると身分も忘れるのが困る。
まあ俺たちの仲だからいいけどな!」
高笑いする陛下とパパの距離がとっても近い。
「ふふ。二人ともなにかあるとすぐに学園時代に戻ってしまうのですからおかしなものですね?」
「ほんとに。
あのころが懐かしいわねえ」
ママと王妃様が呆れ顔半分、羨ましそうな顔半分で微笑み合ってる。
「学園といえばそろそろ王妃教育の始まる時期であったな。
幼きころより厳しい教育を受けてもらわねばならぬ。
まったく心苦しいことだ」
「致し方ありません。
殿下とて帝王学を今年から学び始めるのでしょう。
二人とも王立学園に入学するまでにどこの令息令嬢よりも先をいってもらわねばなりませんからな。
上に立つものの責務というものです」
二人して腕を組んで難しい顔をしている。
見ればママと王妃様も曇ったお顔。
なんでそんなお顔になるの?
訳もわからずルイと二人で首をかしげる。
王立学園に入学……
そうだ。
悪魔令嬢と呼ばれるわたしは婚約破棄を突きつけられて断罪、死刑になってしまうんだ。
あれ? 悪魔令嬢? 婚約破棄ってなんのこと?
なんでそんな風に思ったんだろう?
最後まで肩に残っていたちょうちょさんが飛び立っていく。
この時はまだなにも分かっていなかったの。
王妃になるための教育を受けるということがどういうことか。
そして帝王学を学ぶわたしの大好きなルイがまるで人が変わったようになってしまうことも。
わたしたちの心が離れてしまうほど、もう二度と恋愛なんてしたくなくるほどの辛い日々が待っていることを。
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