第二十二章:孤独な門番(00)
湖底遺跡の調査が進む中、想は一つの提案をした。
「この遺跡……しばらく、俺が“見張り”をさせてください。次に動く気配があったとき、誰よりも早く気づけるように」
湖のほとり、浅瀬に近い石の平地に、簡易の見張り小屋が組まれた。
薪をくべられる小さな炉と、天幕のベッド。
最小限の備えだが、数日間の滞在には十分だった。
「……想。ほんとうに一人で?」
陽の問いかけに、想は静かに微笑んだ。
「はい。誰かと話さない時間も、ときには必要だと思うんです。自分が“なぜここに来たのか”、じゃなく、“なぜここにいたいのか”を、もう一度考えたくて」
陽はその言葉に、何も言わず頷いた。
翌朝から、想の“門番”としての生活が始まった。
日の出とともに湖畔を歩き、遺跡の表面を観察する。
苔の付き方、水温、反射光の変化、魔力の揺れ――
小さなノートに、それを丁寧に記録していく。
静かだった。
誰とも話さず、ただ自然と向き合い、自分の内側の声に耳を澄ます日々。
最初のうちは、“孤独”に似た静けさが胸に降り積もった。
(本当に、俺はここにいていいのか?)
時折、そんな問いが心に湧く。
仲間たちと笑い合った時間。
陽の言葉に救われた夜。
宏美の香油、チェルシーの言葉、康生の冗談――
それらを“離れて思い出す”ことで、想はようやく、自分が“誰かに囲まれて生きていた”という実感に気づいていく。
三日目の夜。
焚き火の明かりに照らされながら、想は手帳を閉じて天を見上げた。
月が、湖に浮かんでいた。
その光に導かれるように、後ろから足音が近づいた。
「……来ないほうがよかったかと思ったけど、やっぱり、来たくなった」
振り向くと、そこにいたのは陽だった。
「来てくれて、嬉しいです」
想は微笑み、隣に腰を下ろした陽に、ひとつ質問を投げかけた。
「陽さんは、誰にも頼らずにひとりで考えたいとき、どうしてましたか?」
「……森の奥まで歩いて、耳を澄ますの。葉擦れの音や、小鳥のさえずり、足音のしない時間。それだけで、考えがまとまる気がしてた」
「今もそうですか?」
「ううん。今は、話せる誰かがいてくれるから、“声に出して”考えられるようになった。……想と出会ってから、特にそう」
風が吹いた。
それは、春を運ぶやわらかな風だった。
「もう少しだけ、ここで考えたい。でも、必ず戻ります。ここが俺の“帰る場所”だって、言えるようにするために」
その想いに、陽は頷いた。
「待ってる。だから、焦らずに。……でも、長くは待たせないでね?」
ふたりの間に、言葉のいらない時間が流れた。
(→01へつづく)
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