第二十二章:孤独な門番(01)
陽が去ったあとも、夜は静かだった。
だが、想の心には、もう“ひとりきり”の冷たさはなかった。
朝が来て、霧が晴れる頃。
湖畔の小屋の扉に、布袋がぶら下がっていた。
中を開けると、乾燥した蜂蜜パンと、小瓶に入ったジンジャー入りの薬茶、そして小さな紙片が一枚。
「“朝、あったかいの飲まないと、胃が働かないわよ”。――宏美」
その筆跡に思わず笑ってしまう。
日中、風の向きが変わり始めたころ、薪をくべようと小屋の裏に回ると、新しい束が並べられていた。
ひとつひとつ、結び方が丁寧だ。康生の仕事に違いない。
夕方には、湖の向こう岸から、誰かが手を振っているのが見えた。
望遠鏡でのぞくと、友里と敦子が“今日の湖畔の天気と花粉の量”を紙に書き、板に結わえて掲げている。
「……わかりやすいなぁ」
声に出して笑ってしまうほど、仲間たちの“らしさ”が詰まっていた。
“ひとりで考える”という時間のなかで、想は確かに“みんなとつながっている”という実感を得ていた。
――そして、五日目の夜。
湖面が鏡のように静まり返り、遺跡の石碑がぼんやりと月に照らされた頃。
想は再び、その模様を見つめた。
(帰るための“門”じゃない。これは、ここでの暮らしが“どこに繋がっているか”を示す印だ)
日本という過去。
ラテラルという今。
そして、想という存在の“行き先”。
“どこかに戻る”のではなく、“誰かと共に進む”こと。
そう思えたとき、想はようやく“門”に背を向けることができた。
翌朝、小屋を片づけ、記録帳と共に〈湖光亭〉へ戻った。
「おかえり」
最初に声をかけたのは陽だった。
「……ただいま」
想は、そう言って微笑んだ。
(→End)
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