第二十一章:湖底遺跡の呼び声(01)

 翌朝、湖は静かに凪いでいた。

 風もなく、薄い朝靄が湖面を漂っている。

 潜水調査には、これ以上ない好条件だった。

「よし、行ってくる」

 コナーはそう言うと、手製の潜水具を背負って水へ入った。

 湖光亭の中で、最も泳ぎと肺活量に秀でた彼が、第一の調査役を担う。

 陽と宏美は薬草湯と救急用品を準備し、雄太郎は湖畔の岩上で見張りに入った。

 想と健太朗は、岸辺で記録係を担当し、コナーの報告を待った。

 水面が泡立ち、そしてしばらく沈黙――

 三度目の浮上のとき、コナーは目を見開いて言った。

「……内部がある。石室が続いていて、浅い階段が下に伸びてる。彫刻も、あれと同じだったよ、想」

「あれ……?」

「お前が言ってた、“門”の模様。螺旋と環が絡み合ってるやつ。あれと同じものが、石の中央に刻まれてた」

 その瞬間、想の記憶がはっきりと呼び戻された。

(間違いない。……あの夜、東京駅前の石畳に出現した光の門。あれと同じ模様が、ここにもある)

 遺跡が“門”の装置である可能性が、一気に現実味を帯びてきた。

「水中の気圧と気温が安定してるから、浅いところまでは何度も潜れる。ただ、もっと奥に行くなら装備が必要になる」

 コナーは冷静に言ったが、その声には明らかな熱があった。

「……想。お前、あの門のこと、どこまで思い出せる?」

「落ちる直前、青白い光の中に模様が浮かんでました。…でも、“招かれた”のか“滑り込んだ”のかは、分かりません」

「なら、それを確かめよう。ここまで来たら、“なぜ来たのか”より“なぜ今ここにいるのか”を知るために、行こう」

 陽がそれを聞き、静かに頷いた。

「この一年、想がここで何をしてきたか、私たちが一番よく知ってる。……あの門が過去の鍵だとしても、“今の扉”は想自身が持ってると思う」

 想は深く息を吸い、目を閉じた。

 ――ここは、帰る場所ではなく、“来た意味”を見つける場所だ。

「調査を続けましょう。〈湖光亭〉の一員として、そして、この世界に生きる者として」

 その言葉に、仲間たちは黙って頷いた。

 湖の底には、時を越えて眠る“理由”がある。

 それに手を伸ばすことは、未来を選ぶための一歩だった。

(→End)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る