第二十一章:湖底遺跡の呼び声(00)

 その日は、朝から湖の水位がわずかに下がっていた。

 普段なら気に留めるほどの変化ではなかったが――

「おい、湖底の東側、何か出てるぞ!」

 漁師の声が、湖畔に響いた。

 陽と想が駆けつけたとき、村人たちは水際に集まり、誰もが目を凝らしていた。

 湖面の下、浅くなった水に、何かが光っていた。

「……石造り?」

「いや、彫りがある。文様か?」

 水中に見えるそれは、まるで古代の石碑のような直方体。

 水を透かして見えるのは、螺旋と環を組み合わせた奇妙な意匠だった。

「地震だな。深いところの地殻が少し動いたせいで、水底の一部が浮いたのかもしれねぇ」

 そう言ったのは健太朗だった。

 彼は雄太郎とともに、その日から“湖底遺跡の調査”に本格的に乗り出す。

「俺は記憶してる。四年前の干ばつのとき、一度だけ似たものが現れてた。でも、あの時はすぐに水位が戻って、調べられなかったんだ」

 想は、遺跡の文様を見つめながら、奇妙な既視感に襲われていた。

(……この模様、どこかで……)

 記憶をたどっていると、ふと、かつて“転移した直後”に見た幻のような光景が頭をよぎった。

 石畳の路地、そしてその先に浮かび上がっていた“光の門”――

 あの時、門の縁にも同じ意匠が刻まれていた気がする。

「……もしかしたら、この遺跡、俺がこの世界に来た“門”と、何か関係があるかもしれません」

 想の言葉に、周囲が静まる。

 陽は、すぐに応えた。

「じゃあ、調べましょう。想が自分のルーツに繋がると思うなら、ここで立ち止まるわけにはいかない」

「私も協力するよ」

 健太朗が頷いた。

「水に潜るなら、コナーも必要だな」

 雄太郎も弓を下ろしながら言う。

「警戒は必要だ。遺跡には“封印”や“防衛術式”があるかもしれない。俺は遠巻きに警護に入る」

 こうして、湖光亭の面々は、ふたたび“門”という異世界の謎と向き合うことになる。

 だがそこには、以前とは違う空気があった。

 誰もが恐れではなく、“共に知りたい”という気持ちで動いている。

 そして――

 想もまた、“帰るために”ではなく、“ここにいる理由を知るために”この遺跡と向き合おうとしていた。

(→01へつづく)

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