目覚める

何かが顔に落ちてきて、深い眠りからぼんやりと目が覚めた。目を開けると、オウガが幸せそうな笑顔で何かを頬張っている姿が目に入った。


その瞬間、俺は馬車の床に足を伸ばして横になり、頭をオウガの小さな膝の上に置いていることに気づいた。誰かの膝枕で寝るのは初めてだ。


太陽はすでに高く昇っていて、馬車はローランドが運転する平坦な平原の道をガタゴトと進んでいた。どうやら彼はあの忌まわしい祭りから早々に離れたらしい。


もう一度オウガを見上げると、彼女は目を閉じて、食べ物の味を楽しむようにじっくりと味わっていた。そしてまたしても、彼女が食べているその食べ物の欠片が俺の顔に落ちてきた。


どうやら犯人はオウガだったらしい。でも俺は反応せず、ただじっと彼女の顔を見つめ続けた。その顔を見ながら、昨夜のことを思い出した。


あの時、オウガはとても大人びていて、俺を驚かせるようなことを口にした。でもその時は何も考えられなかった。今思い返すと、ちょっと恥ずかしくなる。


彼女は同胞のことを気にせず、村の中心で同年代の子供たちが人間たちの娯楽のために焼き殺されるのを目の当たりにしながら、俺を優しく、穏やかに慰めてくれた。


「レナ姉さんが死んでも、オウガは姉さんと一緒に死ぬよ」って言葉と、村でのあの恐ろしい光景は、俺が決して忘れられない記憶になるだろう。


その言葉のおかげで、俺は気づいたんだ。オウガは今、俺の唯一の心の支えであり、前世でも今世でも俺を待っていてくれる唯一の存在であり、俺にとって最も大切な人なんだ。俺は彼女をこんなに心配させてしまった自分を責めた。


そんなことを考えていると、オウガがまた食べ物を落とした。今度は欠片じゃなくて、丸ごと一本。それが俺の目に直撃した。痛くはなかったけど、反射的に体が跳ね起きた。


寝ていると思ったのか、オウガは気にしていなかったみたいで、俺が急に起き上がったもんだからびっくりして固まった。尾と両耳がピンと立ち、持っていた食べ物が床に落ちた。


「オウガ、食べかす落としすぎだよ」


俺は顔に付いた食べ物の欠片を払いながら、寝ぼけ声で言った。オウガはゆっくりと俺の方を振り返り、まるで死人が生き返ったような真っ青な顔をした。


でもしばらくすると落ち着きを取り戻し、床に落ちた食べ物を拾って口に放り込み、ゴクンと飲み込んだ。その姿がめっちゃ面白くて、昨夜の大人びた雰囲気とは全然違った。


「レナ姉さん、びっくりしたんだから!」オウガが俺を見て言った。


「何食べてるの?」俺は床に落ちた食べ物の欠片を見て尋ねた。


するとオウガは背中から黒い包装の何かを取り出し、開けながら言った。「これは『獣人専用肉』だよ。もうずっと製造禁止されてるんだけど、なんでローランドが持ってるのか分からないんだよね」


ローランドがオウガのためにたくさん買ってきた食べ物らしい。よく見ると、ただの干し肉みたいだったけど、濃厚なスパイスの香りがしてた。オウガは水も飲まずにバクバク食べてて、床に散らばった包装がその証拠だった。


「レナ姉さん、どうしたの?」オウガが首をかしげて不思議そうに聞いてきた。


俺はオウガをじっと見つめながら、昨夜の彼女の言葉を思い出していた。思い出すたびに恥ずかしくなるけど、どうしても頭から離れない。


突然、オウガが近づいてきて、俺をぎゅっと抱きしめた。びっくりしたけど、彼女は俺の耳元で優しく囁いた。「レナ姉さん、もう心配しなくていいよ。姉さんにはオウガがいるから。なんかあったら、なんでも話してよ。姉さんがそんな顔すると、オウガ、すっごく悲しくなるんだから。レナ姉さん、オウガは姉さんが大好き。オウガは姉さんだけのものだよ」


「オウガ?」


彼女は答えず、ただ俺をいつも抱きしめるように、ぎゅっと抱きしめた。まるで俺を手放したくないみたいに。やっと気づいたけど、オウガってめっちゃ独占欲強いんだな。


仕方なく、俺も彼女を抱き返して、彼女がしたように耳元で囁いた。「姉さんもオウガが大好きだよ」


その言葉を聞いた瞬間、オウガの体が一瞬震えた。彼女の体がだんだん温かくなってきて、この変な体で初めて感じる温もりだった。


次のアバンベルンとの会合では、この体の異常について絶対に問い詰めなきゃ。


「いやー、めっちゃラブラブじゃん。ほんとに主従関係だけ? それとも付き合ってんの?」


俺たちが愛情たっぷりに抱き合ってると、ローランドが馬車を運転しながら、からかうような声で言ってきた。


オウガは真っ赤になって俺を離し、俺はいつもの無表情だったけど、心の中ではめっちゃ恥ずかしかった。もし感情を出せたら、俺、顔から火を噴いてるよ。


ローランドはそれ以上何も言わず、ただでさえ気まずい雰囲気をさらに気まずくした。オウガは恥ずかしさで震えてて、持ってた肉がまた床に落ちちゃった。


どうしようもないから、適当な話題を振ってみることにした。でも今は昨夜の話しか思いつかない。こんな気まずい雰囲気のままじゃいられないから、慎重に言葉を選んで、できるだけあの話を避けるようにした。あの話はデリケートすぎるし、ローランドだってあの光景を見て涙を流してたくらいだから。


思いついた俺は、めっちゃ自然に聞いてみた。「俺、どれくらい寝てた?」


「もう昼過ぎだよ」ローランドが空を見上げて答えた。

そう言われて、俺は立ち上がって外を覗いてみた。確かに太陽が高く昇ってる。かなり長く寝ちゃったみたい。オウガはまだ恥ずかしそうに座ってる。


俺がオウガの隣に座り直すと、ローランドがまた口を開いた。俺が気になってたことをズバリ聞いてきた。「お前、逃げ出した後のこと、聞かないの?」


俺は馬車を運転するローランドの背中を見て、彼が平気なら聞いてみようと思った。


「もしよかったら、教えてほしい」


ローランドは少し黙ってから、ゆっくり話し始めた。「お前がパニックで逃げ出した後、俺は自分のミスに気づいた。お前みたいな人をあんな場所に連れてくべきじゃなかった。だから追いかけたんだけど、お前、めっちゃ速く走るんだな。想像以上に速かった。追い付いた時には、お前、オウガの腕の中で寝てたよ」


「じゃあ、あの恐ろしい祭りの最後がどうなったか知らないの?」


「いや、噂でしか聞いてなかったけど、直接見たのは昨夜が初めてだった」


「そっか」


がっかりして床を見下ろした。オウガはもう落ち着いてて、俺の膝に頭を乗せてきた。見下ろすと、いつもの無邪気で純粋な笑顔がそこにあった。ローランドもそれ以上何も言わず、きっと辛い記憶を思い出してるんだろうな。俺も何も言わず、膝の上のオウガと静かに遊んだ。


しばらくオウガと遊んでると、ローランドが突然馬車を止めて、俺たちに叫んだ。


「オウガを隠せ!」

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